続:ANSYSを使った多目的最適化 CAEデータ分析の実践的手法

シミュレーション

ANSYS workbenchで応答曲面+最適化シミュレーションをしてみたでは、実験計画法で設計探査、応答曲面を作成して、最適解を探す検討を紹介しました。

前回の記事で十分に触れることができなかったのは、得られた結果をどう分析して、技術的に価値のある知見を見つけ出すか、についてです。

今回は、パレートプロットやパラレルコーディネート、相関行列や寄与度を使って、CAEによって得られたデータをどう料理するかを紹介します。

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CAEのデータ分析

この記事では、最適化によって得られた多数のCAE計算結果から、技術的に有用な知見を得るための分析手法を紹介します。

主に上図の6つの分析手法について紹介していきます。

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以下で紹介するチャートは、筆者が実務でもよく使っているものです。ツールはANSYSあるいはExcelで作成できるように手順を示していますが、使い慣れたデータ分析ツールを使うのがお勧めです。データ分析の目的は、分析することそのものではなく、分析結果から技術的に意味のある知見を得ることです。ツールにとらわれないようにしたいところです。

パレートプロット

パレートプロットは、多目的最適化の目的変数を両軸にとって作成する二次元プロットです。

目指した製品性能を満足しているのか?2つの目的変数がトレードオフの関係にあるか?を確認します。

ANSYS workbench上には、二次元プロットを作成する機能がないようなので、結果をcsvで吐き出してエクセルで作業します。

csvのテーブルデータをエクセルで散布図にします。

パレートプロットにおいて、両軸の目的変数がGOODになる方向に向かう境界線をパレート界面と呼びます。

また、この界面に存在するプロットを「パレート解」と呼びます。

パレート解は、トレードオフの限界に位置する点群であり、設計案はここから選ぶことになります。

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パレート解から設計案を選ぶ際には、
・変形量と体積どちらが重要か
・ほかの目的変数も加味する(加工性、デザインなど)
など、様々な因子を考慮して選択します。実務では、パレート解からいくつか設計案を選んで実際に試作、評価を通して、最終的な設計案を選ぶことが多いです。

パラレルコーディネート

パラレルコーディネートは、「なぜ」を理解するツールとしても活用します。最適化計算で得られた設計案が「なぜよかったのか」を理解することは、CAE技術者に常に求められてきます。

パラレルコーディネートは、要因分析のための一つの手法です。パラレルプロットや、並列チャート、平行座標プロットなどとも呼ばれます。

デザインごとに目的変数を並べて、それらを繋いだグラフを作ることで、目的変数間のトレードオフ(正負相関)を確認できます。

ハイライトした線は、設計変数P1-P3とも目的変数のP4-P7を

パラレルコーディネートの項目に設計変数を加えると、設計変数の変化に対して、目的変数の変化を大まかに追うことができます。

また、設計変数のプロットが極端に上下限に寄っている場合、設計変数の範囲が適切でない可能性があります。計算する設計変数の範囲を広げることで、より良い設計案が見つかるかもしれません。

パラレルコーディネートは、ANSYS workbench上で応答曲面計算終了後「パラメータ並列」のチャートを表示することで確認できます。

相関行列

相関行列は、目的変数、設計変数の因子どうしに、相関があるかを一覧で確認できるチャートです。

相関行列はANSYS workbenchでは作成できないため、エクセルで作成します。

エクセルのデータタブに「データ分析」というボタンが表示されていない場合、上記の設定が必要です。

エクセルのオプション>アドイン>設定>分析ツール にチェックを入れます。

分析したいテーブル(workbenchから出力)を選択、「データ分析」を押下します。ラベルを含めても大丈夫です。

データ分析の「相関」という項目を選択します。

相関を確認するデータ群を「入力範囲」に入力します。先頭行がデータラベルであれば、「ラベルとして使用」にチェックを入れます。

新しいシートに相関行列が表示されます。わかりやすいように、セルにカラースケールを付けます。

カラースケールを適当につければ完成です。

値が1に近ければ正の相関が強く、-1に近ければ負の相関が強い関係にあります。

設計変数「径」は応力や変形量と負の相関があり、体積とは正の相関があります。

長さが増えることで応力が減少する、径が大きくなることで体積が大きくなる、荷重は初期寸法に影響を与えない、というのはいずれも物理的に予想通りの結果です。

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寄与率

寄与率は、目的変数に対して設計変数が”どの程度”寄与するのかを定量的に示すグラフです。

ANSYS workbenchでは、応答曲面を作成することで確認できます。

ANSYS workbenchにて応答曲面を作成、「ローカル感度」を表示します。これが寄与度にあたります。

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応答曲面を使った寄与度分析の前提として、応答曲面が正しく(精度よく)実物のプロットを再現している必要があります。点群を無理やり曲面にしているため、点と面がずれている可能性があり、その差が寄与度に影響を与える可能性があります。寄与が大きいと推察される変数が、目的変数とどのような関係にあるのか、二次元プロットを作成して確認してみることが必要です。

寄与度解析の結果、相関行列と同様の傾向が得られました。

縦軸のローカル感度は、「ローカル」という言葉の通り、ある設計変数に固定した場合の寄与度です。やってみると分かりますが、設計変数が変わると、寄与度も変わります。

パレート解などの「良かった設計案」に対して、「なぜよかったのか」を分析する手法として寄与度を使います。

二次元プロット

ここまで、よく使う分析手法で設計案がなぜよいのかを見てきましたが、最もよく使うのがこの二次元プロットです。

結局、二次元プロットが一番理解しやすく説明もしやすいためです。

寄与度分析などで影響が大きいと思われる設計変数と、目的変数の関係を二次元プロットにすることで、考察もしやすくなります。

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他の分析方法での分析に行き詰まる場合、影響のありそうな因子の二次元プロットをひたすら作ってみて考察することを繰り返しています。ツールによっては、プロットの色や大きさで分類をすることもできるため、2次元プロットに3軸、4軸ぶんの情報を載せて考え続けます。地道ですが、分析とは元来地道なもののはずです。

CAE結果を見る

ここまで、最適化計算で得られたテーブルデータの数字だけを追ってきましたが、本来CAE結果は数字いくつかであらわせるような情報ではありません。

応力や変形には分布もあります。最適化計算の現地現物はCAE結果です。数字遊びに終始しないように、気になる設計案をいくつかピックアップして、穴があくまで結果を見続けることが大切です。

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