ANSYS FluentのVOF機能を使って「2種類の流体が混ざる」計算をやってみる

シミュレーション

ANSYS FluentのVOF機能を使って、密度の異なる二つの流体が混ざり合う様子を計算してみました。

「混ざる」解析の手法

「流体が混ざる」は、分子レベルで混ざるのか、そうでないのか、の大きく2つに分類できます。

シミュレーションする流体が混和性(miscible = 分子レベルで混ざり合う)の場合、Fluent では混合モデル(mixture model)や多成分輸送モデル(multi-component transport)を使用します。これらのモデルは、混合物の異なる成分の拡散と輸送を考慮し、流体の混合挙動を計算します。

一方、流体が非混和性(immiscible = 分子レベルで混合しない場合)である場合、Volume of Fluid(VOF)モデルや混合多相モデルなどの多相流モデルを使用します。これらのモデルは、流体の異なる相間の相互作用を考慮し、混じり合わない流体の混合挙動を計算します。

今回は、分子レベルでは混ざりあわないものを計算します。例えば、水と油や、水銀と水などの組み合わせを考える場合です。

油と水はなぜ交じり合わないのか
油と水が交じり合わないのは、極性が異なるためです。水は極性分子で、片方の端にマイナスの電荷を、もう片方の端にプラスの電荷を部分的に持っています。一方、油は無極性で、電荷の分離がありません。

VOFを用いた2液混合計算

2つの流速入り口から、異なる密度の流体が流れ込む非定常計算を行います。

ジオメトリ作成

ジオメトリは適当に作成しました。

inlet_1からは水が、inlet_2からは水銀が流れ込むこととして、底面をoutletとしています。

ジオメトリはSpaceClaimで作っています。操作法はこちら

このジオメトリに、FluentのMeshing機能を使ってメッシュを作成しました。手順はこちら

VOFの設定

VOF解析を行います。非定常の状態を解くため、時間設定をTransientにします。

※ここを設定しなくても、以下のMultiphaseモデルでVOFを選択すると勝手にTransientになるようです。

モデルの一番上、Multiphaseをダブルクリックし、VOFモデルを設定します。

設定は上記の通りです。

次に、物性値を設定します。Fluent Databaseから、流体を2つ選択します。

データベースから、water-liquidを選択し、copyします。

同様の手順で、水銀も追加します。

水銀の物性値を若干修正します。

水銀の密度は13,000kg/m3ですが、この物性値で計算をすると収束性が非常に悪かったため、5000kg/m3に落として計算します。

色々試す中で、水と、水の密度だけを5000にしたものでも、収束性が悪いままでした。つまり、DensityとViscosityの値の両方が計算収束性に影響するようです。

memo
密度差の大きい二相流をシミュレーションする場合、二液間の界面に大きな圧力勾配が発生し、界面を正確に解像することが数値的に困難となり、収束に問題が生じることがあります。この問題を軽減するためには、界面付近の時間ステップを小さくし、グリッド分解能を細かくすることが重要です。また、圧力ベースのソルバーではなく、密度 ベースのソルバーを使用してみると、密度差の大 きい二相流のシミュレーションにおいて、より安定した解 析ができる可能性があります。VOF スキームのパラメー タと乱流モデルを調整することで、密度差の大 きい二相流をシミュレーションする際の収束 性を向上させることができる場合もあります。

Multiphaseの設定に戻ります。

Phasesタブの設定から、Primary PhaseとSecondary Phaseの設定を行います。

inletの設定などで、Secondary Phaseの体積分率を明示的に指定し、その残りの体積分立はすべてPrimary Phaseとして認識されます。(要するにどっちが水でどっちが水銀でもよい)

Phase Interactionでは、ニ相流の流体間の接触角を定義できます。

境界条件の設定

境界条件は、Phaseごとに設定します。

Phaseをmixture,water,hgと切り替えて、それぞれで必要な項目を設定していきます。(都度Applyを押下)

inlet_1は、水の流入入口としたいので、hg Phaseの設定でのVolume Fractionは0(すべて水)とします。

inlet_2は、水銀の流入入口とするので、hg PhaseのVolume Fractionを1(すべて水銀)としています。

出口は圧力出口、大気開放のためGauge Pressure = 0、他はすべてデフォルトで計算します。

ソルバー設定

なんか知らんですが、混相流ではPISOが収束性良いみたいです。

初期化

初期化します。

初期化後、上のような状態を目指して、初期のVOFに分布を付けます。初期の収束安定性を向上させるための工夫です。

右側の青い部分を、水銀に設定します。

Cell Registers>New>Regionと選択します。

Region Registerのウインドウ上で、どの範囲をRegion Registerに入れるのかを選択します。

X,Y,Z座標の範囲で指定できるので、上記のような形で指定します。

ここは、ジオメトリの寸法によって変更が必要です。

ジオメトリの右側半分をRegion registerに追加しました。

初期化画面に戻り、Patchを選択、上記のような設定で、作成したregionに水銀の初期値1を設定します。

設定できているかどうかは、Patchを適用したあとに、Contourで確認できます。

Phases>Volume fraction>waterのコンター図を作成することで、初期状態を確認できます。

意図したような、VOFの初期状態になっていることがわかります。

計算の実行

計算を実行します。ソルバー設定は以下の通りです。

Number of Time Steps:1000
Time Step Size:0.005[s]
Max Iteration/TimeStep:50

収束性が悪い場合は、ソルバー設定などを適宜変更します。

特に、Time Step Sizeを小さくすることで改善する可能性があります。また、水銀の物性値を水に近づけることでも、収束性が改善しました。そのほかにも

ジオメトリを変えてみる(混ざる領域を広めにとる)
・接触角を設定している場合は外してみる
・流入流速を遅くしてみる
流体の物性値を変更してみる
・圧力ベースソルバーを密度ベースソルバーに変えてみる
・VOFをオフにして、流れを安定して解けるか確認する
・緩和係数を小さくする

などの対応方法が考えられます。

特に計算する領域の形状によって、計算収束性が悪化しやすいように思います。収束性が悪い場合は、実際よりもシンプルな形状を作ってみて、お試し計算をするのがお勧めです。

安定して収束するようになると、上の図のような残差のグラフが得られます。

結果を確認してみます。

赤色が水、青色が水銀です。ふたつの流体が流入・ぶつかっている様子が確認できます。

ジオメトリを変えて計算してみると、流路形状によっても混ざり方が変わりそうですし、流入する流体の密度によっても、状態が変化しそうです。

混ざり具合を定量的に比較するためには、VOFの分布や、界面の面積などを算出することが必要です。

CFD-Postを用いると、上記のような動画を作成することができます。

別記事で解説しますので、もし興味があればご覧ください。

Images used courtesy of ANSYS, Inc.

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