NIOの半固体電池の性能は?

リチウムイオン電池

中国の自動車メーカーNIOは、2022年末から2023年前半にかけて、NIO ET7に固体電池を搭載すると発表しました。NIOの固体電池を供給するのは、中国に拠点を置く電池技術企業「Beijing WeLion New Energy Technology(WeLion)」です。

NIOの採用する固体電池の性能はいかほどなのか、QuantamScapeやトヨタの全固体電池と比較して何が違うのか、などを解説します。

NIOの半固体電池

NIOが搭載するWeLionの電池

NIOは、WeLionと共に「固体電池」を開発していると知られています。ただ、その内容は全固体電池と呼べるものではなく、「半固体」電池に近いものです。

NIOは採用する固体電池のサプライヤーを公表していませんでしたが、2022年3月、WeLionが半固体電池のサプライヤーであることを公表しました。Welionは北京に本拠を置く電池企業です。NIOは業界最大手のCATLと包括的な電池供給契約を締結しており、WelionとCALBが供給する一部の車種の電池以外は、すべてのモデルでCATLの電池を使用しているとされています。

固体電池の概要

NIO DAY 2021より全固体電池の発表情報

NIOの固体電池で注目すべき点は、in-situ solidification hybrid electrolyte(in-situ固化ハイブリッド電解質)です。in-situは「その場で」といった意味で、材料分野の観察技術でよく用いられる用語です。その全容は明らかになっていませんが、必要に応じて固体と液体を使い分ける「半固体」電池なのではないかとされています。

発表でも、以下のような手法でエネルギー密度を向上させた、とされています。

  • ゲル化による界面抵抗低減
  • 正極のニッケル比率の増加

特別な技術を導入してるわけではなく、従来のリチウムイオン電池の正常進化品だという認識です。

NIOは、固体電池を2022年Q4に車載にするとしています。クラウドで温度管理まで行うと言い、冷却系もスマートになると考えられます。

NIOと他社の違い

トヨタやQuantumScapeなどの開発する硫化物系の電解質を用いた全固体電池は、開発課題が山積しています。全固体電池の主な開発課題は以下のようなものがあります。

  • 充放電中の反応により接触を失う
  • リチウム電極と固体電解質の界面が不安定
  • 割れやすく、充電中のリチウム電極の膨張により、電解質が粉砕する

NIOが解決策として検討したのが、電解質のゲル化です。

セラミック電解質に液体溶媒を添加することで、ポリマー複合材と呼ばれる柔軟性が高い電解質に変更します。

ゲル電解質は、界面での接触が良好となり、界面抵抗を低減できます。

さらに、無機セラミックと柔らかいポリマーで構成される複合電解質は、優れた界面接触を提供し、充放電の膨張の影響を低減します。複合電解質の組成を合理的に制御することで、界面反応を防ぐこともできます。

通称:半固体電池

NIOの全固体電池は電解質の一部がゲルで完全な固体ではありません。ここが、固体のみを扱うquantumscapeやトヨタとの違いで、NIOが早期に全固体電池を商用化に結び付けることのできた要因の一つとして挙げられます。

このように、完全に固体でない電解質を用いる電池を「半固体電池」とも呼ぶようになっています。

性能の比較

各社発表情報を基に当サイト作成

発表値ベースでみると、NIOの全固体電池は現状販売されているどの電池よりも性能が高いです。NIOが2021年に発表したWeLionの半固体電池は、360Wh/kgのエネルギー密度を持つとされており、テスラなど使用する最新のリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を誇っています。

Panasonicのニッケル系リチウムイオン電池(Teslaなどに採用)に対し約1.5倍、CATLが最近発表したNaイオン電池やトヨタのバイポーラ型ニッケル水素電池に対して2倍のエネルギー密度です。

QuantumScapeが発表している、全固体電池のエネルギー密度350Wh/kgをも上回ります。

技術の内容はさておき、WeLionとNIOが電池の性能として高いエネルギー密度を実現していることは注目に値します。トヨタが2027-28年に実用化するとされる全固体電池に対して、2023年には車載されるとされる半固体電池は、全固体電池実現を待たずして、EVの航続距離問題を解決する可能性があります。

正極・負極は正常進化品

正極と負極の構成についても、同様に発表されています。

発表時の表記であった「Nickel-Ultrarich」は、正極のニッケル量を増やしてエネルギー密度上げていることを意味しています。通常のリチウムイオン電池に用いられる「三元系(NMC)正極」に用いられるニッケルの比率を上げることで、性能が向上することが知られており(デメリットとしてコストが上がる)、各社ハイエンドのリチウムイオン電池の正極は、ニッケル量を増やすことで対応しています。

負極には、シリコンとカーボンを用いたコンポジット(複合材料)を用いています。負極は通常黒鉛(カーボン)が用いられ、電池容量を上げるために少量のシリコンが添加されます。このシリコン量が多くなるほど容量が大きくなるため、各社シリコンを使った負極の研究に邁進しています(背反として、充放電時のシリコンの膨張収縮で電池が劣化しやすくなります)。

正極・負極共に特別な技術を導入してるわけではなく、正常進化品だという認識です。

他社も半固体電池で高いエネルギー密度を実現する

近年、全固体電池と液系のリチウムイオン電池の中間の材料として注目されている「半固体電池」は、CATLやTalent New Energyなどの中国企業がこぞって新製品を投入しており、エネルギー密度も300Wh/kgを超える高い性能を実現しているものが多いです。

特に、CATLのCondensed battery(凝集態電池)は、500Wh/kgという高いエネルギー密度を実現しており、これらの電池の投入でEVの航続距離の問題はほぼ解決すると考えられています。

半固体電池のデメリットは?

半固体電池のデメリットとして考えられるのは、安全性と耐久性です。

全固体電池は、発火しやすい電解液を固体にすることで安全性を担保するという思想です。半固体の電池は、液体を含んでいるため、全固体電池と比較すると発火のリスクは残ります。

また、耐久性にも課題が残るものと考えられます。全固体電池と異なり、液体電解質を用いるため、電解質の濃度差による劣化は変わらず生じるものと考えられ、全固体のように長寿命とはならない可能性が高いです。

全固体に比べれば早期に実現する半固体電池は、全固体電池と液系リチウムイオン電池の「中間的立ち位置」にあるということになります。

WeLionとは

Beijing WeLion New Energy Technology、通称WeLionは、車載リチウムイオン電池の開発を行う中国新興企業です。WeLionは2025年までに新規株式公開(IPO)を開始する計画を明らかにしており、2025年までには、年間生産能力を現在の6GWhから30GWhに増やすとも表明しています。

これに向けて、中国国内に4つの新工場を建設する予定です。このビジョンは壮大であり、2025年までに年間売上高を20倍の約2兆1500億円に増やすことが目標とされています。最新の民間資金調達ラウンドでは、同社の評価額は約3兆2240億円に達したとのことで、勢いのある新興電池企業です。

米国のQuantumScape、SolidPower、SolidEnergy Systemsや、台湾のプロロジウムテクノロジー(輝能科技)と同様に、次世代電池を開発する新興企業として今後も注目すべきです。

NIO以外のOEMへの供給も視野に

WeLionはNIOとのパートナーシップが注目されますが、契約は独占的なものではありません。WeLion湖州工場のゼネラルマネジャー、Tian Qiyou氏によると、WeLionは「今後の量産が計画通り着実に進む」ようにと、主要な国際自動車メーカーとの協力も模索しているとされています。ただし、具体的な自動車メーカー名は明らかにされていません。

サービスでも先行するNIO

NIOは、電池関連のサービスでも他社を先行しています。NIOの提供するBattery Swap Stationは、1日312台に対応できる電池交換式のステーションです。2021年に国内に500のステーションの設置を予定しています。

自宅に充電施設を設置できないユーザや、長距離を移動するユーザのために考案されたもので、バッテリー交換ステーションであり、サブスクリプションで月1万5000円とのこと。テスラもこのような特許を出願していたが、実現には至っていません。

NIOの研究開発

NeoParkと呼ばれるR&D施設

Nioは生産能力を高めるために、NIOParkと呼ばれる大規模な拠点を建設しています

その広さは16,950エーカーであり、新宿区の3.5倍、テスラのフリーモント工場の12倍、トヨタのスマートシティの100倍の広さです。自動車製造拠点のほとんどに加えて、サプライヤー拠点も設置される予定とのことです。

第1フェーズへの投資は500億人民元(現在の為替レートで7兆7,240億ドル)で、スマート製造、研究開発、リビングエリアの3つの主要エリアに分割され、従業員と訪問者のためのエコパークを設置。

NeoParkは、環境に優しいことを目指しており、カーボンニュートラルの達成に貢献します。10,000人を超えるR&D人員と40,000人の技術者を収容することを目指しています。

これだけ広大な拠点を持つメリットがあるのか疑問ですが、NIOによれば、ロジスティクスの平均走行距離を考えると、ロジスティクスコストだけで1台あたり3,000人民元(463.50ドル)の節約を見込めるとのことです。同社は、NeoParkの完成にどれくらいの時間がかかるかを明らかにしていません。

これだけ大規模な投資を行うことのできるNIOが、今後中国市場を席巻する事は疑う余地がありません。

まとめ

WeLionは360Wh/kgという非常に高いエネルギー密度を実現する電池を2022年末から生産開始しています。この電池が中国製EVに搭載され、航続距離が改善されていくと、EVの商品性がより高まるものと考えられます。

NIOは電池交換ステーションの展開やNeoParkという大規模R&D施設の建設により、電動車市場における技術的及びサービス面でのリーダーシップを固めつつあります。

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