以前(2020年6月頃)、CAEとAIの組み合わせ、という道半ばの課題という記事を書いた。
CAEとAIをどのように組み合わせると、価値を生むことができるのか、という話を書いたものだ。
そこから1年経ち、徐々にCAEとAIの組み合わせを実務に活用した事例が出てきているように思う。
AI×CAEの書籍
この分野の進展を象徴するのが、<解析塾秘伝>AIとCAEを用いた実用化設計という書籍の発売である。
書籍タイトルもキャッチーであるし、筆者がCAE懇話会の主要メンバーであることから、実用的な内容であることも間違いない。
私も読ませて頂いたが、具体的事例が多くとても勉強になる。発行部数が少ないためか書店でも品薄になっている。
私自身も、CAEやAI(機械学習)を用いた設計の効率化を生業としており、この一年で様々な試みをしてきた。
その一部は国際会議で論文化・発表するなどした。その際、論文査読のレビュワーからも「新しい視点が取り入れられており面白い」などウケがよかったので、相変わらずホットな話題である。
CAEとAIの組み合わせで価値を出す方法
以前の記事では、AIとCAEの組み合わせの方法として、下記3つを挙げた。
CAEへのAI活用としては、3つに大別できると考える。
・プリ系処理
計算の事前情報の入力にAIを活用し人的工数を削減する
・ソルバー
AIで物理式計算を代替し計算コストを低減する
・ポスト系処理
出力した画像をCNNなどで処理し、優劣判定を自動化する
CAEのユーザとしては、ソルバーの代替としてAIを用いるのが最も手軽で効果が大きいと考える。いわゆるサロゲートモデルの開発である。
これは旧来の実験計画法と応答曲面を活用したサロゲートモデルと同じである。
違いは、近年のディープラーニングの発達により近似モデルの精度が著しく向上していることから、ニューラルネットワークを用いた高い精度のサロゲートモデルを生み出せるようになってきた、ということである。
サロゲートモデルのメリット
このサロゲートモデルを用いるメリットは計算時間の短縮であると述べたが、最近になって面白いことに気が付いた。
CAE専任でない技術者が、このサロゲートモデルを用いてCAEと同じアウトプットを出せるようになることだ。
これまで、CAEは敷居が非常に高かった。
専門のソフトウェアの操作スキルが必要で、メッシュ作成や計算収束のコツ、結果の正しい考察の仕方など、専門のノウハウがてんこ盛りだった。
忙しい設計者が、CAEを電卓代わりに使うことは容易ではなかった。
一方、サロゲートモデルは、いってしまえば設計寸法を入れれば応力が出るエクセルのようなもので、専門知識は必要がない。
これまで、ある設計部署では、試作のために予算を浪費しトライアンドエラーをしていた。
予算の浪費を防ぐために、CAE専任者がCAEのモデルを用意し、設計者にソフトウェアの使い方を教えても、「時間がないのでやってる暇がない」という反応が多かった。
そこで、CAE結果から作成したサロゲートモデルをエクセルに落とし込み提供したところ、「手軽で面白いし使いやすい」と大変好評だった。
結局、みんな手順書などなくても使えるモデルが欲しいのだ。
サロゲートモデルは、CAE操作を覚えることなく結果を出す手段として優れている。
誰でも用いる事ができるという意味では、数理モデルを用いた近似式として設計に用いる事が最もシンプルだ。
線形近似から確率モデルまで、様々なモデルの全体像と関係性を理解するにはデータ分析のための数理モデル入門が詳しい。
私も読んだが、売れている本だけあって面白い。本屋でも平置きされていると思う。
サロゲートモデルが設計者にCAEを活用させるために便利であることは分かった。
ただ、どうやって実装すればいいのか。
実際にやってみる
CAEとAIの組み合わせは実用化領域に来ている。
解析を専任としている技術者は、少なくともAIで何ができるのか、どんな恩恵があるのかくらいは把握しておかなければならない時期が既に来ていると考える。
簡単なサロゲートモデルの作り方を、Pythonコードと共に以下の記事で紹介しているので、参考にして頂ければと思う。
また、冒頭に紹介したCAE懇話会の書籍も、具体的事例が紹介されており、参考になると考える。
機械学習は難しい技術なのか?
機械学習自体は扱いの難しい技術ではない。むしろCAEの方が圧倒的に難しい。
数学に強い技術者であれば、本気で1年やればすぐにキャッチアップできるだろう(変化の激しい分野なのでその後も継続は必要だが…)。
また、AIの活用という意味では、ベイズ最適化などのアルゴリズムを用いた設計探査も一段と注目されている。(今まであった技術が再度注目されているだけで、なぜ持て囃されているいるのかはわからないが。)
私も、今後も継続して調査していきたい。
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