世界各国での「EV充電規格」の分類と今後の見通し

自動車業界

EVの普及には、充電インフラの整備が欠かせません。世界各国では、異なるコネクター規格が存在し、それぞれの地域での充電方法が異なっています。では、具体的にどのような規格が使われているのでしょうか。

この記事では、世界各国で用いられる代表的な充電規格と、今後の規格シェアの見通しを解説します。

充電方式の比較

世界中で用いられているEV充電方式を、以下に示します。

充電方式充電タイプ最大出力コネクタ特徴
J1772AC充電2 kW(Lv1)
19.2 kW(Lv2)
Type 1北米で一般的で、主に低速充電に使用。

CCS (Combined Charging System)
DC高速充電
AC充電
350 kW(DC)
43.5 kW(AC)
Type 1
(北米)
Type 2
(欧州)
コンボとも呼ばれる。欧州自動車工業会(ACEA)に支持され、多くの自動車メーカーで使用。高速充電に対応。

CHAdeMO
DC高速充電62.5 kWCHAdeMO古い規格として知られるが、CHAdeMO 3.0では最大400 kWの出力が可能。高速充電に対応。

Tesla Supercharger
(NACS)
DC高速充電250 kWTesla専用Tesla車専用。互換性が限られているが、他ブランドのEVにも開放。高速充電に対応。

China GB/T
DC高速充電
AC充電
250 kW(DC)GB/T中国で使用され、高速充電に対応。
Chaoji未公表未公表未公表中国と日本で開発中の新しい規格。高速充電をサポートする予定。

特に注目するべきは、CSSおよびテスラのスーパーチャージャー、中国のGB/Tです。これらはいずれも、直流(DC)での急速充電が可能で、自動車メーカーが積極的に採用している形式です。

地域ごとの規格の違い

仕向け地ごとに、採用されている充電規格を以下に示します。

北米欧州中国日本
(アジア)
アフリカ
AC
充電

J1772

GB/T

J1772
DC
急速充電

CCS

CCS

GB/T

CHAdeMO

CHAdeMO
CCS

各地域、主流の充電規格が異なりますが、EV普及台数の多い中国は独自のGB/Tタイプの充電規格を用いており、それ以外の地域は多少の差はあるものの、どこかで共通した規格を利用しています。

北米・欧州でのEV充電のコネクター規格

J1772(タイプ1)

北米では、最も一般的なEV充電コネクターはJ1772(タイプ1)です。このコネクターは、レベル1充電とレベル2充電の両方に対応し、最大120ボルトと240ボルトの電力を供給できます。

CSS形式

欧州では、2014年以降、多くの充電ステーションがAC充電用のタイプ2規格を採用しています。さらに、DC充電用のCCS規格も一般的になってきています(参考文献4)。これにより、EVユーザーはさまざまな充電ステーションで充電する際に、異なるコネクターを使う必要がなくなりました。

ご存じテスラのスーパーチャージャーは、最大250 kWの高速充電が可能です。

コネクタを装着したテスラスーパーチャージャーの端子

主要なグローバル自動車メーカーであるゼネラルモーターズ、メルセデス・ベンツ、トヨタ自動車などは、テスラの充電技術を採用しています。複合充電システム(CCS)を搭載した車両は、アダプターを使用して、北米全域でテスラのスーパーチャージャーを利用できます。

中国の充電規格

中国で用いられているGB/T規格の充電コネクタ

中国では、EVの急速充電には中国GB/Tという規格が存在し、国内で広く認知されています。

日本と中国が共同で開発したCHAdeMO(チャデモ)のコネクタ

中国政府は、中国と日本が共同で開発したCHAdeMO(チャデモ)を国家規格として認定しており、これが重要な役割を果たしています。

ワイヤレス充電を実現する道路

また、中国は将来の自律走行車において、ワイヤレスEV充電に力を入れています。ワイヤレスEV充電は電源接触不要であり、自動充電技術の進化において重要です。中国政府は、自律走行車市場の拡大を目指して、ワイヤレスEV充電技術の研究・開発に取り組んでおり、これによりEVの利便性が向上することが期待されています。

今後、中国EVの輸出が進むと、それに伴い充電規格の輸出も行われるものと考えられます。特に、東南アジアおよびアフリカへの進出は容易に想像できるため、これらの地域ではGB/TやCHAdeMOといった企画が採用されていくものと考えられます。

アジアの動向

アジアで特にEVの販売が進む日本とインドについてみていきます。

bZ4xは普通充電ポート(J1772)と、CHAdeMO規格の急速充電ポートを備える(トヨタ自動車HPより)

アジア太平洋地域では主に交流充電(AC)が利用されています。交流充電は一般的な住宅や商業施設の電源を利用してEVを充電するため、比較的容易に普及させることができます。しかし、充電速度は直流急速充電に比べて遅いため、今後は直流急速充電の普及が求められるかもしれません。

そのため、ACによる普通充電ポートと、DCによる急速充電ポートの両方が備えられている車種が多く、どちらにも対応できるようになっています。

アフリカにおける充電インフラ

テスラのスーパーチャージャーは、南アメリカおよびアフリカ大陸には設置されていない

南アフリカにおいては、CHAdeMOとCCSといった、国際的なEV充電規格が用いられています。

アフリカでは、南アフリカが最も広範な充電ステーション網を保有しています。AC充電器は3.7kWから22kWまでの範囲で利用可能です。また、DC充電器は小型商用車向けには20kWから350kWまで、大型車向けには最大600kWまで提供されています。

充電規格の今後の動向

北米では、テスラが充電規格の主流になる見通しです。トヨタもテスラ規格の採用に踏み切り、自社の電気自動車(EV)の顧客の利便性を高めることを目指しています。

トヨタはこれまで北米で別の規格である「コンボ(CCS)」を採用してきましたが、2025年以降にはNACSに対応するアダプターを用意し、テスラ式での充電が可能になる予定です。2025年から米テスラの「NACS」方式を採用し、北米に設置されたテスラの急速充電器「スーパーチャージャー」でトヨタのEVを充電できるようになります。

ファーウェイは600kWの超急速充電を開発

Huawei(ファーウェイ)は、電気自動車(EV)をすばやく充電するための充電器を開発しました。この充電器は、最大600kWの電力を出力でき、これは世界で見ても非常に高いパワーレベルです。例えば、テスラの充電器が中国で提供する最大出力は250kWであり、Huaweiの充電器はより強力です。

充電器がこれだけの高出力で動作すると、非常に高温になることがあります。これを解決するため、Huaweiは「液冷式(冷却液を使って充電器内部の温度を下げる)」を採用しました。従来の多くの充電器は「風冷式」で、ファンを使って冷却していましたが、Huaweiの液冷式はより効率的に温度管理ができます。

Huaweiの充電器は、テスラを含む「全てのEV」で使えるように設計されているとのことです。

北米ではテスラの充電規格が主流になる

現在、北米ではテスラの急速充電器のシェアが全体の6割を占めています。さらに、米フォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)などの主要な米国の自動車メーカーもCCSからNACSに採用を切り替える動きがあり、独メルセデス・ベンツグループ、日産、ホンダなども採用を表明しています。

最近では、韓国の現代自動車グループもテスラの充電規格を採用することを決定しました。さらに、独フォルクスワーゲン(VW)や欧州ステランティスもテスラの充電規格を検討しているとの観測もあります。

これらの動きから、北米を中心とした自動車市場ではテスラ規格がますます主流となりつつあり、多くの自動車メーカーがその採用に動いています。トヨタもテスラ規格への切り替えにより、顧客の利便性を向上させることが期待されています。

まとめ

EV充電のコネクター規格は地域によって異なりますが、各地域が相互運用性と標準化を目指して取り組んでいます。北米ではJ1772が一般的であり、欧州ではタイプ2規格とCCS規格が主流です。中国ではGB/T規格とチャデモが使われ、自律走行車へのワイヤレス充電にも注力しています。日本とインドは共通の充電規格を策定し、アジア太平洋地域での協力を進めています。アフリカでは南アフリカが充電ステーション網を保有し、ABBが充電器の提供や規格の開発に協力しています。充電インフラの地域差や相互運用性の実現に向けた努力は、世界的な電気モビリティの普及に貢献しています。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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