2013年ごろからディープラーニングの登場とともにAIがもてはやされるようになった。研究テーマも「AI」や「機械学習」「ディープラーニング」と名がついていれば、予算を得られやすく注目されやすい時代があったが、2020年の今は少し落ち着いたように見える。
CAEとAI。この2つは、近似モデルという意味で非常に近い存在で、CAEとAIの組み合わせで「なにかできるのでは」と囁かれ始めたのは2016年頃かと思う。第48回CAE懇話会「ディープラーニングとCAE(1」に始まり、CAEベンダーや各メーカーがこぞってAIとCAEに関する様々な検討を発表してきた。
「CAEとAI」は大変好評な話題のようで、私が第59回関西CAE懇話会「ディープラーニングとCAE(第2回) ~CAEとAIを融合した拡張CAEへ向けて~」(4 に参加した際には、サテライト会場が用意されるほど注目されているテーマでもある。
CAEへのAI活用
CAEへのAI活用としては、3つに大別できると考える。
・プリ系処理
計算の事前情報の入力にAIを活用し人的工数を削減する
・ソルバー
AIで物理式計算を代替し計算コストを低減する
・ポスト系処理
出力した画像をCNNなどで処理し、優劣判定を自動化する
その中でも、特に大きな効果が見込まれるのが、ソルバの代替としてのサロゲートモデルという考え方である。以下の例は、ASTOM R&Dが、CAE結果のコンター図を生成できる代理モデルの開発受託を実施している。
理研発ベンチャーがCAEのサロゲートモデルを提供しているらしい。 pic.twitter.com/7JTLFoUICC
— モンテネグロ橋本 (@mnt_hasi) April 19, 2020
CAEのサロゲート(代理)モデルは、CAEのinputとoutputを学習データとしてAIに模倣させる。メリットは計算コストの大幅な低減。CAEだと何時間もかかる計算が、AIだと一瞬(数秒)で解けてしまう。AIは複雑な物理式の微分方程式を解いてないためである。
最初に膨大なCAE結果を集める必要はあるが、一度集めてしまえば、そのあとはサロゲートモデルで工数を削減できる。近似精度の正確さに問題は残るが、十分な教師データを与えて、内挿の範囲内であればおおよそ正しい結果が得られるだろう。このサロゲートモデルの活用事例は多い(2。
サロゲートモデルとは異なるが、シミュレーション結果から、人間が感じる乗り心地を予測するAIとの組み合わせも考えられている。
2020年4月の自技会報で、シミュレーションとAI を活用したショックアブソーバの乗り心地評価予測という記事があった。非常にキャッチーなタイトルだ。シミュレーションとAIを組み合わせたわけではなく、それぞれを別に使って組み合わせた、というもの。私が探していたものとは少し違ったが、為になるものだったので紹介したい。
官能評価点への機械学習活用
この技術は、シミュレーションで予測した車両挙動を入力として、官能評価点数を求めるというもの。
シミュレーションは二段構えのモデルで車両挙動を予測しており、シミュレーション精度がこの手法全体の精度をほぼ決めているように見受けられる。それだけあって気合の入ったモデルで、予測精度も高いようだ。
・ダンパモデル
INPUT:ダンパ挙動
OUTPUT:軸力
・車両モデル
INPUT:ドライバ入力と路面入力、ダンパモデルの軸力)
OUTPUT:車両挙動
一方、機械学習はどちらかというと専門外のようで、技術の説明も乏しい。
・訓練データ:車両挙動の物理値(評価試験)、官能評価点
・テストデータ:車両挙動の物理値(シミュレーション)
・アルゴリズム:DNN
DNNの手法や学習方法について、細かい記載はない。本稿を読む限り、官能性評価試験は2人のドライバーでそれぞれ実施し合議で決めたようなので、それほど多くの点を取っているようにも読み取れない。学習データが非常に少なく、大規模データ処理で高い予測精度を示すDNNをこのデータ量に用いる理由が見いだせない。
シミュレーションと機械学習を組み合わせるという視点において、この4年間で事例はいくつも生まれてきたが、まだ皆手探りというのが本音だろう。今後も継続して調査していきたい。
参考
1)第48回CAE懇話会「ディープラーニングとCAE」
http://www.cae21.org/kansai_cae/konwakai/kansai_48/kansai48_annai.shtml
2)CAEの代わりにAIでボンネットの構造を分析、頭部傷害値が誤差5%で一致した
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1809/18/news027.html
3)シミュレーションとAI を活用したショックアブソーバの乗り心地評価予測
https://tech.jsae.or.jp/kaishi/pc/index.aspx?id=jk202004
4)ディープラーニングとCAE(第2回) ~CAEとAIを融合した拡張CAEへ向けて~
http://www.cae21.org/kansai_cae/konwakai/kansai_59/kansai59_annai.shtml
コメント
[…] CAEとAIの組み合わせ、という道半ばの課題では、AIはCAEを代替するサロゲートモデルとしての活用が最も効果があると述べた。各論文でも同様の意見が述べられており、実際にサロゲートモデルを構築した例がいくつも挙げられるので紹介したい。 […]
[…] 昨年(2020年6月頃)、CAEとAIの組み合わせ、という道半ばの課題という記事を書いた。 CAEとAIをどう組み合わせるのが、現状よさそうか、という話を書いたものだ。 […]