工学系技術者の論文検索

技術系読みもの

自分のやろうとしている仕事(開発なり研究なり)は、世界中探せば誰かがやっている(orやろうとしている)事が多い。その検討内容は、論文(Technical Papers)や特許(Patent)の形で世に出回っているはずだが、探すと案外見つからなかったりする。

医学系の論文検索に関する記事はネット上にも結構あるが、工学系の論文検索については、有用な日本語記事はあまり見られないように思う(そもそも日本の工学系技術者が論文検索したり論文を書いたりする事が少ないためとも思うが)。

本投稿では、工学(特に自動車系の)論文記事検索や文献の管理に関する知見を書いておこうと思う。

Google scholar

google scholar

論文検索といえばGoogle scholar。万人が知っているヤツだ。
Google検索のノリでクエリーを入れれば検索結果が返ってくる。ただ、すべての論文を「全文」見れるわけではない。全文見たい場合、該当するページに移動して購入する必要があるが、だいたい1部10ドル程はかかる。私がよく参考にする自動車系のSAEは、1ページ30ドルくらいするので笑えない。幸い、私の勤め先ではSAE論文を集めたりしている部署があり、そこの情報を参照させてもらう。

有料とされる論文でも、Unpaywallなどで、フルテキストの論文がどこかしらで公開されていないか調べることもできるが、私の体験上、工学系の論文がそのへんでPDF公開されている事は非常に稀に思う。

なので、Google Scholarでアブストを読んで、どうしても全文が読みたい場合は、国公立大学の大学図書館でコピーさせてもらう、というのが常套手段だろう。SAEのような有名な学会誌であれば、国立国会図書館が複写サービスを行っている事もある。オンラインで申し込みすると、1ページあたり白黒25円+送料220円(2020年6月時点/概算)かかるが、元サイトより安ければ国立国会図書館を利用するのがよいだろう。

また、継続して調べたいテーマの場合、論文集をデータでそのまま買ってしまう方が安上がりだったりする。後述のGoogleDriveでの管理と組み合わせると、検索もやりやすく、日本の自動車技術会の予稿集などは毎年購入している。SAEは年間のサブスクが$204(年12本まで)~$1318(年100本まで)と割高。

余談だが、Google scholarが最も効果を発揮するのは「Google Scholar Citations」で研究者の国際的な評価がまるわかりになる点だ。筆者も、過去の研究やh-indexなどを参考にして、共同研究先を選定したりしている。

オープンアクセスの論文集

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個人で調べるときに役に立つのが、オープンアクセスの論文集だ。
すべての論文がPDFで全文公開されている。

以下は、オープンアクセスの論文集(Open Access Journal:OAJ)の一例。この中で検索してみると、見つけた論文はフルテキストで読める。

論文集自体がオープンアクセスでなくても、一部論文をオープンアクセスにしている論文集も存在する。ただ、Unpaywallなどで検索する方が手っ取り早く分かるので、あまり利用していない。

■Nature Scientific reports
https://www.nature.com/srep
■Electrochemistry Communications
https://www.sciencedirect.com/journal/electrochemistry-communications
■PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/
■BMC Research Note
https://www.biomedcentral.com/

プレプリントサーバ

arXiv

個人的によく使うのがプレプリントサーバ。
ArXiv(アーカイブ)は最も有名なプレプリントサーバーで、月に8000件の論文が全文アップロードされている(数えた事はないが)。
PDFが必ずあり、全文が無料で読める。査読されていないので、 情報が誤っている可能性も少なからずある。

査読がないことから、プレプリントでの著者側の責任は非常に重い。論文の著者は、科学コミュニティで自分の評判に傷をつけることは避けたいので、アップロードする論文の質には一層気を使う。ある一定の信頼はあるといえる。

このArXivは、医療関係の論文など、工学エンジニアには正直興味のない文献がゴロゴロしており、慣れないと検索結果の精査がかなり面倒である。

engrxiv

engrXiv

工学系のプレプリント「engrxiv」もよく利用している。
ジャンルが工学系に絞られており、検索結果の精査がしやすい。更新も1日2~3本なので、暇ならアップロードされたものを毎日チェックできる。arxivよりも分野の網羅範囲は狭いが、Arxivに嫌気がさしている人にはオススメである。

余談だが、自分が論文を書くとき、プレプリントから引用ってしていいの?という疑問もあるだろう。結論から言うとOK。

ただ、一般的に、引用元としては推奨されていない模様。注意すべきなのは、引用元のURLを記載することと、そのページの最終閲覧日を記載すべきであるということ。リンク切れやファイル削除などがあり得るため。

Aixivの間違った使い方

全く新しいジャンルの勉強をしようと思い立った時に、Arxivを使うのはお勧めしない。Aixivに載るような論文はニッチ中のニッチ、極所を攻めているものばかりなので「その研究が重要なものなのか」を判断できるようになってから使うべきである。

新しいジャンルの勉強をするのであれば、まず全体概要を掴めるような書籍orページ(最悪wikipediaでも良い)で全体像をつかんで、少しずつブレイクダウンして極所にたどり着いてから、Arxivで調べる事をお勧めする。

また、新着論文をぼーっと眺めるのも効率が悪い。
全く専門出ないジャンルの原著論文を読んでも「で?」となる事が99%だ。残りの1%ほどは、自身の仕事の気付きになるかもしれないが、これならニュースサイトの新着や個人のブログを読んだ方が100倍意味がある。

ScopusとSienceDirect

もし所属機関がScopusを利用できるのであれば、検索機能は最も優秀であるので利用すべきである。
Science Directだけでなく、SAEの情報などまとめて検索できるうえに、「検索結果の分析」で、気になる分野の研究をどこの機関が最も出しているのかなどがよくわかる。

Scopusで検索して抽出した論文のキーワードをみると、論文全部読まなくても中で何が言われているのかだいたいわかる。ScienceDirectは、全文が検索ワードになるので、全文から詳細に検索するのはこっちがオススメ。

ただ、これらは無料で使えるわけではない(ライセンス契約が必要)なため、所属機関で利用可能な場合に限られてしまう。

論文データの管理

Google Drive

論文はPDFで保管する。私は、GoogleDriveに全部投げ込んで管理している(管理といっても投げ込むだけだが)。
PDFがOCR変換されている場合、自分が知りたい事をクエリーとして検索窓に投げ込めば、該当する論文のPDFが表示される。この検索機能が非常に便利で大変重宝している。

GoogleDriveは15GBまで無料で利用できるうえ、月に250円の課金で100GBまで利用できる(2020年6月時点)。

同業者の参考になれば嬉しい。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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