近年、EVの普及に伴って、スケートボードシャシーの設計手法に注目が集まるようになりました。
中国の大手電池メーカーであるCATLも、シャシーの開発に参入しようとしています。
スケートボードシャシーとは
スケートボードシャシーはEV用の部品類を効率よく配置し、スペース効率を改善できると目されるプラットフォームです。
従来の自動車開発では、自動車メーカーが設計したシャーシに、部品メーカーの設計したモーター、バッテリー、電池などを配置します。この設計方法では、バッテリーやモーターなどのコンポーネントを別々に設計するために、各々のスペースに無駄が多くなります。
スケートボードシャシーでは、電池パック、モーター、冷却システム、電圧制御システムなどのユニットをシャシーと共同設計することで、従来の電池ユニットに比べて原材料やスペースを節約します。結果、重量も軽くなるため、EVの航続距離を伸ばすことができます。
副次的なメリットとして、異なるボデーを載せるだけで複数の車種を開発できるようにもなります。
コンセプトは従来から存在する
スケートボードシャシーのコンセプトは、新しいものではありません。
スケートボード・プラットフォームは、アメリカ自動車大手のゼネラルモーターズ(GM)が2002年に提唱した自動車開発手法です。
クルマの車体を上下に分割し、下側のシャシーを標準化して駆動システム、電池、制御系システムなどの機能を集約します。そのうえに異なるボディを載せることで、さまざまなデザインのクルマを短期間かつ低コストで開発できる、という思想は従来から存在しました。
シャシーに電池を搭載する考え方はCTC(Cell to Chassis)とも呼ばれ、近年のEV化の流れを受けて注目が集まっています。
2022年はCTC技術の量産元年で、Tesla Model YとLeap Motor C01がそれぞれのCTC技術で業界初の量産を実現しようとしています。
スケートボードシャシーのメリット
スケートボードシャシーのメリットは、大きく以下の通りです。
- バッテリーシステムとEVパワーシステム、シャーシとの一体化
- 部品点数の削減
- 省スペース化
- 構造効率の向上
- 車両重量の大幅削減
- バッテリー航続距離の延長
将来、CTCが実用化されれば、マッチング効率を90%以上に向上し、スペース利用率は70%以上となり、部品点数は約400点まで削減されると予測されています。
また、車種ごとの部品が共通化することで、車両の開発プロセスが短期化されることも見込まれます。一般的に、新車種のためのシャーシ開発に数年かかることを考えれば、スケートボードシャシーを共通のプラットフォームとして採用することには、大きなコストメリットががあります。
CATLのスケートボードシャシー
車載電池大手のCATLは、スケートボードシャシーと呼ばれるシャシーの開発と、自動車メーカーとの提携を進めています。
CATLの開発するスケートボードシャシーCATL Integrated Intelligent Chassis(CIIC)は、電気自動車のフレームに直接電池を搭載し、より多くの電池を搭載することで、航続距離を800km以上まで延ばすことができるとされています。
スケートボードは長さの調節が可能で、さまざまな場所にバッテリーを収容でき、電気モーターやドライブ・バイ・ワイヤ・システムも搭載しているため、電気自動車メーカーは、この上に好きな車体をデザインすることができます。
Sina.comやThepaper.cnなどのポータルサイトによると、CATLは2022年2月にシャーシプロジェクトのための工場建設を開始し、2022年10月上旬には “スケートボードのシャーシと非常に類似した “特許を申請したと伝えられています。
自動車メーカーの存在価値が薄れていく
これまで、スケートボードシャシー開発は、自動車メーカーが独自に開発するものであり、電池メーカーが参入するような範疇ではありませんでした。CATLのシャーシは、これまで自動車メーカーやOEMが取り組んできたシャシーの分野に、電池メーカーとしてさらなる一歩を踏み出すことを意味しています。
メガサプライヤーが自動車メーカーの仕事を肩代わりし、大きくなっていくことで、自動車メーカーの存在価値は薄れていきます。
従来、車は1つのメーカーが設計・開発し、組み立てるものでした。フォード社のT型は、フォード社製のシャーシにフォード社製のエンジンとトランスミッションを搭載し、ドアとフェンダーもフォード社製です。
しかし、現在では、他社のために自動車を製造する専門メーカーが存在します(マグナなど)。シート、ダッシュボード、タイヤ、フロントガラス、ブレーキなどは部品メーカーが設計しており、それらの部品は、さまざまな自動車メーカーの多くのモデルに搭載されます。
つまり、あるクルマは他のクルマとほとんど同じ、ということが起こるということです。実際、トヨタスープラとBMW Z4は、ボンネットのメーカーロゴとボデー形状が最大の違いで、車自体はほぼ同じです。
多くの自動車メーカーは、他社が供給する部品を組み立てるだけのメーカーになってしまうことを懸念しています。今日のクルマはある共通項に収束しています。見た目も、走りも、匂いも、音も。CATLの提供するスケートボードシャーシは、この流れを加速するものです。
自動車OEMが、この技術潮流をどう乗りこなすのかによって、将来の自動車産業のありかたも変わってくるものと思います。
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