全固体電池について学ぼうと思ったときに、どんな書籍を読めばいいのか悩ましい所です。
筆者も多くの書籍や論文を読んできましたが、全固体電池に関して「これだけ読めば万事OK」というような虎の巻は現状ありません。いくつかの書籍から、情報を集めていくのが良いと思います。
以下に、関連する書籍や論文を紹介します。
それぞれの書籍のよいところや注意点を併記しましたので、参考になれば幸いです。
※書籍選びに関しては、書店で手に取って軽く目を通してみるのがおすすめです。Webで買うにしても、一度は書店で手に取ってみて判断することをお勧めします。
おすすめの書籍
モビリティ用電池の化学:リチウムイオン二次電池から燃料電池まで
モビリティ用電池の化学:リチウムイオン二次電池から燃料電池まで
本ではなく「論文集」に近いものです。少々高価ですが、執筆陣が電池業界の大物ばかりで、とても勉強になります。
大学の先生方も有名どころばかりですが、産業界からも、トヨタ、ホンダ、日産の大物が勢ぞろいしています。英語で書かれていても読みたくなるような内容が、日本人による日本語で書かれていて、この本が生み出される日本に生まれてよかったと思えるほどです。
燃料電池の内容が半分で、液系と固体電解質が混ざっており、全固体電池の全体像を理解するには不十分ですが、最新トレンドを日本語でつかむには最も良い書籍です。
図解まるわかり 電池のしくみ
図解まるわかり 電池のしくみ
電池に詳しくない一般の方でも読みやすい書籍です。技術書ではないため、開発業務にすぐにつかえる知識が得られるかというと微妙ですが、液系も含めた電池の全体感を捉えるには良い書籍です。
書面の構成も見やすく「電池ってなに」というところから理解したい方にはお勧めできます。全固体電池をメインに扱っている書籍ではないため、全固体電池について詳しく知りたい方には物足りないかもしれません。
ハイブリッド自動車用リチウムイオン電池
ハイブリッド自動車用リチウムイオン電池
車載電池について詳しく書かれており、専門的すぎず読みやすく、比較的最近書かれた本(2015年初版)です。
正極負極、電解質、セパレータ、バインダーという、本当に基本となる単位で説明しており、初心者向けの一冊です。特に車載用電池を想定した書籍で、車関係での電池技術を知りたい方におすすめできます。
表紙の著者、金村先生以外にも、複数の先生方が共著しています。
正直言って、金村先生の日本語は読みにくいです(金村先生の研究成果は偉大なものです)。金村先生が書かれている最初の章は薄目で読んで、中盤以降のハイブリッド自動車の内容や正極材料や負極、セパレータの部分を読み込むと良いと思います。
全固体電池入門
全固体電池入門
NIMSの高田さん、東工大の菅野先生、鈴木先生の著書で、全固体電池、特に電解質材料に特化した専門書です。著者が大物ばかりで、これも日本語で読めるのがありがたい書籍です。
内容は材料の原子スケールが主で、初学者がいきなり読むと火傷します。一方で、固体電解質の材料研究をするのであれば必読と言える書籍です。
ビジネスとして全固体電池を扱う上では、まあ読まなくても差し支えないかなと思える内容です。物理や材料を専攻するのであれば、楽に読める本かもしれません。
リチウムイオン電池・全固体電池の材料技術 -プロセス・評価技術まで-
リチウムイオン電池・全固体電池の材料技術 -プロセス・評価技術まで-
全固体電池だけでなく、液系のリチウムイオン電池も含めて、評価・分析・合成を網羅した専門書です。
電池関連に関係する技術者は、一度は目を通してよいと思います。
特に電極(特に正極材料)の解説が詳しく、合成から評価まで網羅的に書かれています。合成プロセスについて詳しいところが他の書籍にはない良い所です。
分析手法など、実際企業で電池開発をするときに役に立つ知識も多いです。
電池の覇者
電池の覇者
全固体電池ではなく、液系の電池を主に扱った本です。ホンダとサムスンSDIで電池の技術責任者を務めた筆者が、ビジネス視点と技術的視点をうまく組み合わせて書いた書籍です。
電池産業の歴史と技術を俯瞰するにはとてもよい書籍です。ビジネス視点の話は2020年9月時点の情報のため、古いところもありますが、電池開発のリアルなエピソードが読めます。他の書籍を読みつくしてから、参考程度に読むのがよさそうです。
MOTOR FAN illustrated Vol.198
MOTOR FAN illustrated Vol.198
MOTOR Fan illustratedシリーズの中でも、最新のEV電池事情を解説したvol.198は、全固体電池および液系電池のバッテリー設計を把握するのに役に立ちます。電池をめぐる金属バトル「NMC対LFP」の現在、資金力がすべてにモノを言う「バッテリー経済学」の世界など、電池業界の常識として知っておくべき事項を図解で分かりやすく解説してくれています。最新のEV用電池事情は理解しておくに越したことはありません。
MOTOR FAN illustrated Vol.188
MOTOR FAN illustrated Vol.188
MOTOR Fan illustrated vol.188には、日産自動車の全固体電池特集が組まれていますが、具体的な情報は乏しく、「こうしたいとおもってるよ」くらいのビジョンを特集しているので、全固体電池の情報目当てで買うべき本ではありません。一方で、日本カーリットによるリチウムイオン電池の原理の解説や、充放電による劣化機構など、液系電池のメカニズムを「図解で」理解できる良書でもあります。
逆にお勧めできない本
電池関連の書籍を読んだ中で、これは買わないほうがよかったな、と思う書籍もありました。あくまで筆者の感想ですが、以下に紹介しておきます。
図解入門 よくわかる 最新 全固体電池の基本と仕組み
図解入門というわりに図解が少なく、いまいちです。ネットから拾ってきた写真や画像が多く、期待外れでした。
内容も表面的な情報が多く、「全固体電池」と銘打っているわりに燃料電池にまで話が及んでおり、無理してページ数を稼いでいるのか?と思うような内容です。
全固体電池関連の論文
筆者は、全固体電池関連のレビュー論文をよく読んで、最近の技術動向を調査しています。
原著ではなくレビュー論文を読むのは、原著論文を読んでもその分野にとってどのくらいのインパクトがあるのか、電池分野の素人にはいまいち伝わらないためです。
以下にいくつか、参考になりそうな論文を紹介します。
Fundamentals of inorganic solid-state electrolytes for batteries
固体電解質の研究に関するレビュー論文です。2019年発行でありながら引用数が多く、とてもわかりやすい論文です。原子スケールから電池セルスケールにわたって、分析・計算的手法が開設されています。私が最近読んだ中では、一番面白い論文でした。
Promises and challenges of nanomaterials for lithium-based rechargeable batteries
Natureの論文で、リチウムイオン電池のこれまでの開発経過と今後の課題をレビューしています。比較的最近の課題感を、多くの図解を使って分かりやすく解説してくれています。
Lithium-ion batteries: outlook on present, future, and hybridized technologies
2019年の比較的新しいレビュー論文です。液系電池や全固体電池だけでなく、リチウム空気電池などにも触れられています。2030年くらいまでどんな電池がくるのか、などを理解するのは丁度良い読み物と思います。
Issues and challenges facing rechargeable lithium batteries
電池関連のレビュー論文で、最も引用数の多いものです。Nature掲載。2001年の論文のため情報は古い可能性があり、古典として読むにはよさそうです。
全固体電池に関して「これだけ読めば万事OK」というような虎の巻は現状ありません。いくつかの書籍から、情報を集めていくのが良いと思います。
以上、参考になれば幸いです。
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