全固体電池は、世界をはじめ、全世界で開発競争が激化しています。
全固体電池に関するNEDOプロジェクト「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」の報告書から、全固体電池関連企業をピックアップし、その進捗を独自に調査した内容も含め、各社の開発状況を紹介します。
各国メーカー20社の全固体電池開発状況
まず、各国メーカーの全固体電池の開発状況を以下の表にまとめます。
メーカー | 開発目途 | エネルギー密度の目標 | 提携先 |
---|---|---|---|
トヨタ自動車 | 2027〜2028年 | 未明 | Panasonic, 出光興産 |
日産自動車 | 2028年度 | 1000Wh/L | NIMS, 日立化成, ENEOS |
本田技研工業 | 2020年代後半 | 未明 | Solid Power, トヨタ, 日産, パナソニック |
日立造船 | 未明 | 未明 | APB株式会社 |
GSユアサ | 2020年代 | 未明 | 未明 |
マクセル | 2024年出荷開始 | 未明 | 未明 |
GM | 長期計画 | 未明 | POSCO Chemical, Sakti3 |
Ford | 2025年前 | 未明 | Solid Power, A123 Systems, Samsung Venture Investment |
Ampcera | 未明 | 未明 | 未明 |
Volkswagen | 2025年までに実用化 | 2〜10倍容量 | Ganfeng, QuantumScape |
Daimler | 2030年までに市販モデル投入 | 未明 | Hydro-Québec, Factorial Energy, ProLogium Technology |
BMW | 2025年までに実証車両生産 | 未明 | Solid Power |
現代自動車 | 2027年量産開始 | 1回の充電で500km超 | Factorial Energy |
Ilika | 2022年上半期初期製品販売 | 未明 | Comau |
Imec | 未明 | 425Wh/L | 未明 |
CATL | 2025年から2030年間の実用化 | 500Wh/kg | 未明 |
Nio | 未明 | 360Wh/kg | 未明 |
BYD | 2030年量産化 | 未明 | 未明 |
GAC Group | 2026年 | 400Wh/kg | 未明 |
Ganfeng Lithium | 2020年代後半 | 未明 | 未明 |
万向A123 | 未明 | 未明 | Ionic Materials |
Samsung SDI | 2027年量産 | 900Wh/L | 未明 |
LGエネルギーソリューション | 2026〜27年 (高分子系) | 未明 | 未明 |
SK ON | 2028年実用化 | 未明 | Solid Power |
以下で、これらの企業について、より具体的に紹介します。注目すべき企業は別記事で詳細に解説をしていますので、そちらもご参照いただければ幸いです。
トヨタ自動車
2020年代前半の実用化を目指して開発中。2021年に試作車を公開、全固体電池をハイブリッド車から採用していく方針を発表していました。
2023年6月には、具体的な実用化の時期として2027〜28年と発表。時期の目線は、日産・ホンダと揃えた形に見えます。HEV用の電池導入を見直し、BEV用電池として開発すると方針を修正。
また、Panasonicとの合弁会社「プライム プラネット エナジー&ソリューションズ」の事業範囲には全固体電池も含まれています。
全固体電池の国内特許に関しては、トヨタ一強の状態。国内では、トヨタが最も開発が進んでいると考えられています。
全固体電池の電解質については、出光との協業を進めており、その発表からはトヨタの全固体電池の性能も推測することができます。2027-28年の導入当初の性能はとびぬけて高くはなく、搭載される車両も高級車に限られると考えられます。
以下の記事で詳しく解説しています。
日産自動車
2028年度までに自社開発の全固体電池を搭載した電気自動車を市場投入することを目指し、電池の量産化に向けたパイロットラインを2024年度までに横浜工場内に設置、2025年3月から稼働を開始します。
体積エネルギー密度の目標は1000Wh/Lとされています。日産は、独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)および日立化成と提携し、全固体電池の開発・実証実験を進めています。また、2019年には、株式会社ENEOSと固体電池の共同開発・試験に関する契約を締結しています。
コスト面にも触れており、全固体電池は2028年度に1kWhあたり75ドル、さらにその後は65ドル(EVがガソリン車と同等のコストレベルになる価格)まで低減可能なポテンシャルがあると話しています。
本田技研工業
2020年、ホンダは、エネルギー密度が高く、10分程度で充電できる全固体電池のプロトタイプを開発したと発表。この技術により、EVの航続距離を大幅に伸ばし、充電時間を短縮できるとしています。
2018年には、トヨタ、日産、パナソニックとのコンソーシアムに参加し、固体電池の開発を加速している。同コンソーシアムでは、2025年までにエネルギー密度500Wh/kgの固体電池を開発することを目標としています。
さらに、ホンダはEV用の全固体電池を開発するSolid Powerというスタートアップに出資しています。
開発中の全固体電池について、実証ラインの建設を決定。2024年春に立上げ予定。24年春の立ち上げに向けて約430億円を投資し、2020年代後半に投入されるモデルへの採用を目指しています。
日立造船
日立造船は、機械的加圧無しでも充放電が可能な硫化物系全固体電池を開発。室温における充放電サイクルテスト(400サイクル)後の容量維持率は96%。
10cm角セルを試作済み。
EV用電池(全樹脂電池)を開発するAPB株式会社というスタートアップに出資しています。APBは、従来のリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高く、10分程度で充電できる電池を開発中とされいます。
GSユアサ
GSユアサは、高いイオン伝導度と優れた耐水性を兼ね備えた硫化物系固体電解質の合成に成功。さらに改良し、2020年代に全固体電池の実用化を目指しています。
さらに、2022年11月には、全固体電池のキーマテリアルである固体電解質の実用化に向けた研究成果が評価され、「電池技術委員会賞」を受賞したことが報告されています。
マクセル(日本)
マクセルは全固体電池を開発する企業の一つです。産業機器用に全固体電池を開発しており、EVなどの車載向けではありませんが、円筒型の全固体電池など、ユニークな技術を開発しています。
アルジロダイト硫化物系電解質を使用した容量8mAh、直径9mmのコイン形全固体電池のサンプル出荷を2021年11月開始しています。また、円筒型の電池セル(200mAh)も開発しており、2024年に出荷を開始します。
京都事業所に20億円を投じて生産ラインを構築するとされており、2030年度に300億円の売り上げを目指しています。現在は産業機械用を想定して開発していますが、将来的には車載への適用も可能としています。
GM(General Motors)
DOE/AVTRの新PJに2テーマ参加。
2021年10月、GMはミシガン州に新しいバッテリー工場を建設すると発表し、リチウムメタルと全固体電池の開発に注力する予定です。
また、2021年12月には、韓国のPOSCO Chemicalと提携し、全固体電池の開発に取り組むことが発表されました。GMは、長期的な視点からリチウムメタルおよび全固体電池技術の開発に取り組むことで、車載EV電池の性能向上を目指しています。
GMは、Sakti3などの企業に投資を行うなど、全固体電池の研究開発に積極的に取り組んできました。さらに、バッテリーのエネルギー密度を高めるために、セラミックスを使った全固体電池を開発するなど、様々なアプローチを行っています。
Ford(米国)
Fordは全固体電池開発のベンチャー企業のSolid Powerに出資し、開発で提携しています。
出資先のSolid Powerは2022年初頭に自動車生産用の全固体電池のテストを開始し、2022年6月、EV向け全固体電池セルのパイロット生産ライン設置を完了したと発表。
最終的に、この全固体電池をFordの自動車に採用することを目指すと予想されています。
なお、Solid PowerにはA123 Systems、Samsung Venture Investment等も出資しています。
Fordは電動車関連技術に、2025 年までに少なくとも 220 億ドルを投資し、液系の第5世代リチウムイオン電池を提供するとともに、顧客にとって航続距離が長く、コストが低く、安全な電気自動車を約束する固体電池への移行に備える計画のようです。
Ampcera(米国)
Ampceraは固体電解質材料を開発・提供しているベンチャー企業であり、独自の固体電解質技術を保有しています。
リチウム金属電池におけるリチウムデンドライト抑制に関する技術開発に注力しており、低コストで量産性のある固体電解質メンブレン技術を開発しています。
ただし、実用化には課題が残っており、Ampceraの全固体電池がどのような性能を持っているのかは明らかにされていません。
Volkswagen(ドイツ)
VWは、全固体電池を2025年までに実用化するとしています。VWの全固体電池は、従来のリチウムイオンバッテリーと比較して2〜10倍の容量を持つとされています。
中国の電池大手Ganfengとの提携も発表し、100MWhの全固体電池パイロット生産ラインの計画を2020年8月に発表しています。
2022年1月、Ganfengが開発した全固体電池について、急速充電(4C)サイクル(SOC10%-80%)を400回連続して行い、初期のエネルギーの80%以上を保持したと発表。 2024~2025年の電池生産を目指しています。
米国の全固体電池ベンチャー企業QuantamScapeの株式を取得。2018年に1億ドル、2020年に最大2億ドルの追加投資しています。
Daimler(ドイツ)
Mercedes-Benzは、2030年までに電気自動車(EV)だけを生産する自動車メーカーとなることを2021年8月に発表しています。
全固体電池テクノロジーに注目しており、エネルギー密度が高く安全なバッテリーを開発するため、Hydro-Québec(加)と全固体電池技術の開発で提携しています。
新材料を実用条件で評価する計画があることを発表しているが、ラボ検討段階であり、車載電池として評価できているとは考えにくいです。
Mercedes-Benzは、米スタートアップ企業Factorial Energyとの共同開発契約も締結している。(ステランティス、現代自動車との共同開発)。
2022年1月、Mercedes-BenzはProLogium Technology(台湾)とも、電動車用の次世代全固体電池を共同開発することで合意したと発表しています。
BMW(ドイツ)
ドイツのBMWグループは、SolidPower社と提携して全固体電池を開発しています。
BMWグループは2023年1月20日、米Solid Powerとの共同開発契約を拡大。ミュンヘン近郊のパルスドルフにあるセル製造コンピテンスセンター(CMCC)に全固体電池の試験生産ラインを設置する予定です。
SolidPower社は、2023年中にBMWグループに試験用のフルスケール電池セルを提供し、BMWは2025年までに全固体電池を搭載した実証車両を生産、2030年までに市販モデルを投入する計画です。
現代自動車(韓国)
全固体電池について自社主導で先行開発し、同電池搭載車の量産を2027年に開始予定です。
同社と傘下の起亜は2021年10月、全固体電池開発を手掛ける米スタートアップ企業Factorial Energyと
電気自動車向け全固体電池の共同開発契約を交わし、戦略的投資を行うと発表。
ヒュンダイによると、この全固体電池は、1回の充電で500km以上の走行が可能で、わずか18分で容量の80%まで充電できるということです。
Factorial Energyは、Mercedes-Benz、ステランティス、現代自動車との共同開発契約により、固体電池の実用化を目指す。2022年にパイロット生産施設建設開始予定。
Ilika(英国)
llika(イリカ)は薄膜型の全固体電池の開発を手掛けてきたベンチャー企業です。
2021年前半に生産を増やす動きがあり、FiatグループのComuauとの提携により製造ラインを拡充、10kWh/週の全固体電池製造ラインを用意し、2022年上半期の初期製品販売を見込んでいるとのことです。
llikaの固体電池は、酸化物固体電解質とシリコン負極を使用。
llikaはまた、自動車レベルの性能に対応できる固体電池を提供するため、業界の専門家と820万ポンドの共同研究を行うことを発表しています。これらの研究により、EV用に大型化した全固体電池Goliathの開発を進めています。
Imec(ベルギー)
Imecは、全固体電池の開発に取り組んでいる研究機関であす。
多孔質シリカを電解質に用いた全固体電池を開発中。
イオン伝導率は室温で1×10-2Scm-1レベルにあり、正極活物質にLFP、負極活物質に金属リチウムを用いた5Ah級セルで425Wh/Lを達成済みと発表しています(2019年6月)。
CATL(中国)
硫化物系電解質で液系LIB と同様のウェットコーティング法を適用したパイロットプラントの立ち上げに着手済みで、試作品は完成済みと発表しています。
しかし、CATLは、全固体電池開発に対して消極的です。
2021年7月のナトリウムイオン電池の発表でも、全固体電池に関する質問が飛び交ったそうですが、全固体電池に関しては、商品化するのは2030年以降、現行の液系リチウムイオン電池を効率よく使いこなすことが、コスト面でも航続距離の面でも最善という姿勢を変えていない、とのことです。
一方で、2022年以降、中国国内での電池シェアの低下を受けて、技術開発ロードマップを示したCATLは、全固体電池を一つの技術要素として「研究開発と大量生産に注力し、世界のリーダーになっていく」と紹介しています。
エネルギー密度の目標を500Wh/Kgに置いて、2025年から2030年の間に実用化することを目指しているようです。CATLの電池戦略については、以下の記事でも詳しく解説しています。
Nio(中国)
2021年1月、150kWhの全固体電池パックについて、航続距離は1,000km超、エネルギー密度は360Wh/kgになると発表。負極にはシリコン・カーボン複合負極材を採用し、正極にはニッケル正極材とナノレベルのコーティング技術を採用したとしています。
BYD(中国)
BYDは、硫化物系及び高分子系電解質を用いた全固体LIBの開発に取り組み、10年後(2030年)に量産化する計画と発表しています。
最近の報道によると、BYDは量産に最適化された全固体リチウム金属ラミネート電池を開発したと噂されていますが、BYDは固体電池技術の進展に関する噂を否定しています。
広州汽車集団(GAC Group)
広州汽車集団(GAC Group)は2026年に全固体電池を車載として搭載するとしています。2026年と言う比較的早いタイミングで全固体電池を車載するとしているため、注目が集まっています。
GACの全固体電池は負極が特徴的で、400Wh/kgを実現するためにアモルファスシリコンを採用し、膨張の問題を解決するためにカーボンコンポジットとしていると考えられます。リチウムイオン伝導度を向上させるために、表面コーティングを施しています。
Ganfeng Lithium(中国)
Ganfeng Lithium(ガンファンリチウム)は、炭酸リチウムや水酸化リチウムといった多角的な「リチウム原料」を扱うビジネスを展開しています。そんなGanfeng Lithiumは電池開発まで事業を広げており、高いエネルギー密度と安全性を兼ね備えた新世代の全固体電池も開発しています。
2023年には第一世代全固体電池と名を称した「半固体電池」を実用化しており、目下で第二世代全固体電池を「完全な固体」として開発しています。特に注目される第二世代の全固体電池は正極に高ニッケル材料、負極にリチウム金属を用いるタイプです。実用化目途は明らかにされていませんが、2020年代後半になると考えられます。
万向A123(中国)
万向集団公司は、2012年に米国の電池ベンチャーA123システムズの資産を高額オークションで2億5660万ドルで落札。それ以来、万向A123は、中国での電気自動車モデル用にフォルクスワーゲンにバッテリーを供給しています。
2019年には、万向 A123の子会社で先端材料メーカーのIonic Materialsが、全固体電池の開発を発表しました。Ionic Materialsが開発したのは、イオン導電性ポリマーに三元系正極/黒鉛負極を組み合せた全固体電池です。
2022年市場投入を計画しているとされていましたが、この発表以降、万向 A123の全固体電池開発の進捗状況について、具体的な情報は発信されていません。
Samsung SDI(韓国)
サムスンSDIの全固体電池開発の経緯は詳しく報道されており、2015年に硫化物系全固体LIBのエネルギー密度が300Wh/kgに到達済としています。
2019年には、負極側にAg-C複合体を用いた硫化物系固全固体電池で体積エネルギー密度900Wh/Lを実現したと発表。正極にはNi90%のZrコートNCM、電解質はアルジロダイト電解質を使用しています。
サムスンSDIは、京畿道水原市永登区にあるSDI研究開発センターに、「S-line」と呼ばれる固体電池のパイロットラインを建設中です。2023年初頭から最初の固体電池を生産、2027年の量産を目標に開発が進められています。
LGエネルギーソリューション(韓国)
LGエネルギーソリューションも、全固体電池を開発しています。
2026~27年に高分子系電解質の全固体電池(全樹脂電池に相当)、2030年に硫化物系の全固体電池(トヨタなどが取り組む全固体電池)の量産がそれぞれ可能としています。
SK ON(韓国)
SK ONは、韓国のSKイノベーション社の電気自動車(EV)用バッテリー子会社として、2021年に分社化された電池企業です。
2024年後半には全固体電池の試作機を開発し、2028年の実用化を目指す計画です。さらに、2021年10月にはSolid Powerとの協業を通じて、セルの開発と生産を強化しています。その電池の正極・負極などの構成については明らかにされていません。
まとめ
全固体電池開発に関連のある企業の開発状況をまとめました。
全固体電池を開発企業はこれだけではありませんが、直近で製品化にこぎつけると期待できるのは、今回紹介した企業であると考えます。
今後も動向をチェックしていきたいと思います。
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