SK ONの全固体電池開発とバッテリー事業

全固体電池

EV市場の拡大が続いています。EV開発の競争力を決めるのはバッテリー技術といっても過言ではありません。次世代電池として目される全固体電池は、高いエネルギー密度、高速な急速充電を実現し、EV市場のゲームチェンジャーとなるとされています。

世界中のメーカーが全固体電池の開発を進める中、車載電池供給シェアで世界5位につける韓国SK ONも、次世代電池の開発を行っています。本稿では、全固体電池の開発をはじめとするSK ONの電池関係の取り組みを紹介します。

SK ONの全固体電池開発

SK ONは、2024年後半には全固体電池の試作機を開発し、2028年の実用化を目指す計画です。特に、2021年10月からSolid Power社との協業を通じて、全固体電池セルを開発しています。

SK ONの全固体電池の正極・負極などの構成については明らかにされていませんが、提携するSolidPower社はBMWやFordといった大手自動車メーカーとも提携しており、正極・負極についての情報を一部開示しています。

SolidPower社公表エネルギー密度
(現状)
エネルギー密度
(目標)
電解質情報なし
正極NMC系
負極シリコン330 Wh/kg
(2020)
390 Wh/kg
リチウム金属389 Wh/kg440 Wh/kg
SolidPower社発表をもとに当サイト作成

正極の活物質にNMC系(液系のリチウムイオン電池で最もよく用いられる)を利用、負極にはシリコンあるいはリチウム金属を用いており、負極材料の違いにより目標や現状のエネルギー密度も異なります。固体電解質についての情報は「硫化物系」であること以外には情報はありません。

より詳しい情報は以下の記事を参照ください。

SK ONはSolidPower社の電池技術をそのまま使う?

SK ONがSolidPower社の正極・負極構成をそのまま利用して全固体電池を製造するかどうかは不明ですが、2024年にはSolidPower社との提携を強化し、以下のような声明を出しています。

Under the agreement, SK On will have the right to use Solid Power’s technologies on ASSB cell design and pilot production processes for research and development purposes. Solid Power will help the South Korean battery maker accelerate the development of ASSBs boasting safety and high performance. The Colorado-based company will also supply sulfide-solid electrolyte to SK On.

(本契約に基づき、SKオン社はソリッドパワー社のASSBセル設計およびパイロット生産工程に関する技術を研究開発目的で使用する権利を有する。ソリッドパワーは、韓国の電池メーカーが安全性と高性能を誇るASSBの開発を加速するのを支援する。また、コロラド州に本社を置く同社は、硫化物固体電解質もエスケーオンに供給する。)

SK On strengthens partnership with Solid Power to accelerate all-solid-state battery development

SK ONがSolidPower社の「セル設計」技術や「生産工程に関する技術」を使用する権利を得るとされています。固体電解質もSK ONに供給するようです。ここから考えると、正極・負極もSolidPower社の開発する全固体電池と同じか、多少の改良を加えたものになる可能性が高いです。

一般に、全固体電池の開発において重要なのは、固体電解質の開発と、固体電解質と正極・負極の界面設計です。電解液を用いる液系のリチウムイオン電池に比べ、全固体電池は電解質と正極・負極活物質の接触が固体どうしの界面であり、接触が面でなく点で行われるため、電気抵抗やイオン輸送の抵抗が起こりやすくなります。

界面設計は正極・負極の材料が変わると、ゼロからの対策が必要になります。SK ONがわざわざそのような苦行を行うとは考えにくく、SolidPowerの開発するNMC正極、シリコン・リチウム金属負極が、現在考えられている現実的な電池構成であることを考えても、SK ONがSolidPower社の電池構成をそのまま利用するだろうと想像できます。

研究開発拠点に投資

SK ONは、全固体電池の実用化に向けて、電池開発とパイロット工場の建設を急ピッチで進めています。SK ONは、2025年までに電池研究所(Daejeon Battery Research Institute)に4700億ウォン(約3億5100万米ドル)を投資し、研究施設を拡張。次世代電池パイロット工場とグローバル品質管理センターの設立を目指しています。

SK ONとは

SK ONは、韓国のSKイノベーション社の電気自動車(EV)用バッテリー子会社として、2021年に分社化されました。SK ONは韓国の石油化学大手として、石油開発、素材、化学製品、そしてバッテリーの開発・製造を手掛けています。車載電池供給シェアで世界5位につけている電池大手です。

ヒュンダイ Ioniq 5、SK ONのリチウムイオン電池が搭載される

グローバルでのEV用電池の大手として、Ford、VW、現代、北京汽車などにバッテリーを供給しています。ヒュンダイ Ioniq 5や起亜 EV6、メルセデスベンツ EQA、EQBなどの車種に搭載されており、ハンガリーや米国のSK Onの工場でバッテリーを生産しています。

EV用電池の生産施設を韓国、米国、中国、ハンガリーで所有、工場の生産効率も80~90%と高く、投資も積極的です。2022年の生産能力である88GWhから、2025年までに220GWhに生産能力を増やす計画を進めています。

電池事業を営む企業は、EVなどに用いられる車載と、非常用電源などに用いられるバッテリー蓄電システム(ESS)の両方を手掛けることが多いです。一方でSK ONの主な事業はEV用電池(車載)を中心としており、ESS製品の売り上げは限定的です。

車載用リチウムイオン電池

2023年上半期、SK ONが供給する車載用バッテリーの量は16.1%増の15.9GWhとなっています。最近では、リチウムイオン電池の正極に利用するNCM系活物質を高性能化し、NMC中のニッケル比率を90%以上に高めたハイエンドのリチウムイオン電池を公開しています。その技術力は健在です。

テスラなどが開発する円筒型ではなく、SK ONの新型電池はパウチ型です。Fordなどの北米のメーカーは電池形状としてパウチを利用している印象が強く、SK ONが得意とする北米市場を意識した製品開発が進められていることがわかります。

これまで、SK ONはニッケル・コバルト・マンガン(NCM)電池に注力してきましたが、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の研究も強化しています。SKONは、InterBattery 2023展示会で航続距離が向上したLFP電池のプロトタイプを披露しました。

リン酸鉄リチウムイオン電池は、ハイエンドのNMC系に比べれば安価なリチウムイオン電池で、中国の低価格帯のEVやテスラのモデル3などで採用されています。2024年現在、車載リチウムイオン電池のうち約半分が安価なLFP系であるとされており、SK ONもLFPのプロトタイプを公開しています。

LFP開発状況LFPに対する戦略
CATL世界シェア首位
BYD自社の廉価版EVに搭載、内製
SK ONInterBattery 2023でプロトタイプを展示
パナソニック×ハイエンドに注力
テスラ×内製4680はNMC
LFPはCATLから調達
トヨタ2026~27年に普及版電池として搭載、内製?

リチウムイオン電池メーカーのLFPに対する戦略は、各社に特色があります。世界最大手のCATLはLFPを大量生産し普及につなげた当事者であり、BYDも自社の低価格EVのためにLFPを開発しています。

一方で、パナソニックはハイエンドのリチウムイオン電池に注力するためLFPは積極的に投資しておらず、トヨタとパナソニックが共同で設立した電池会社でもLFPを生産している情報はありません。テスラも同様に、内製電池はハイエンドのNMC系であり、LFPはCATLから調達しています。

リチウムイオン電池を開発するメーカーは、大手だけでも非常に多くの数がありますが、それぞれの戦略は多彩です。以下のそれぞれの記事では、各社のリチウムイオン電池開発の戦略や技術的観点を解説しています。

米国での展開

2023年EV用電池シェアは、CATL、BYDの2社で世界シェアの過半を占めている

SK ONは、車載電池の世界シェア7%でありながら、北米ではうまく立ち回っています。

米国政府が「インフレ抑制法」(IRA)に基づいてEV30車種を補助金対象として選出した中、SK Onのバッテリーが搭載されているのは10モデルと非常に多いです。この中には、Ford F-150 LightningやID.4シリーズなどが含まれていおり、北米で一定の強さを見せています。

筆者の目線

車載電池のシェアは、韓国企業としてはLGエナジーソリューション(ES)に次ぐ2番手ではありますが、3番手であるサムスンSDIに比べると、大手からの受注を多く受けている印象があります。LGESのシェア14%に比べればSK ONは7%(2022)と小さいですが、電池企業としては強豪です。今後、中国の電池企業がシェアを伸ばしてくることも考えられ、北米でのIRA法にうまく対応するなど、主要な市場での生き残り戦略が必要です。

まとめ

SK ONは全固体電池開発においてSolidPower社と協業し、その技術を活用した全固体電池開発を進めています。詳細な電池構成は公表されていませんが、SolidPower社の構成と同等となると考えられます。

リチウムイオン電池の戦略もうまく立ち回っており、バッテリー事業での急成長とともに、全固体電池の開発にも手堅い投資をしており、今後の動向が注目されます。

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