マグネシウムを用いたギガキャストは実現するか?

自動車業界

ギガキャストは、テスラが導入した自動車ボデー製造のための技術で、アルミニウムの大型鋳造品を製造し、自動車ボデーとするものです。

アルミニウムの代わりに、より軽量なマグネシウム合金を使用したギガキャストが検討されています。マグネシウムのギガキャストは、自動車の軽量化とコスト削減に大きなメリットを与えるとされています。

この記事では、マグネシウムを用いたギガキャストの実現性と、メリット・デメリットを解説します。

マグネシウムを用いたギガキャストは、実現するのか?

トヨタ自動車はアルミ合金を用いたギガキャストを試作、26年に発売するEVに採用するとしている

マグネシウム合金を用いたギガキャストは、まだ研究開発段階であり、実用化にはさらなる研究や試験が必要です。しかし、テスラなどの先行する自動車メーカーが既にアルミニウム合金での大規模キャスティング技術を導入していることを考えると、マグネシウム合金の商業化も遠くない将来に実現されると考えられます。

中国の研究機関では既にマグネシウム合金を用いたギガキャストが実証されています。マグネシウム合金を車両に用いることにはデメリットも多いため、それらを解決できれば市場投入にも拍車がかかります。

マグネシウム合金を使用したギガキャスト

自動車のボデーは通常、120点以上の部品を繋ぎ合わせることにより製造します。

この製造方法を「バカのやることだ」と考えたイーロン・マスクは、テスラの車のボディの部品点数を大幅に減らすことを考えます。アルミニウムの鋳造により大型の一体成型ボディを実現し、この技術はギガキャストと呼ばれるようになります。

次の一手として、アルミニウムではなく、マグネシウム合金を使用したギガキャストの研究が行われています。マグネシウムは軽量で、自動車の軽量化とコスト削減の大きなメリットがあります。ただし、製造の難しさ、環境への配慮に関する課題が存在し、自動車用途においてマグネシウム合金のギガキャストを実現までの道のりはまだ長いと言えます。

マグネシウム合金のメリット

マグネシウム合金を使用したギガキャストには、多くのメリットがあります。

  • 車体の軽量化が期待できる
  • 軽量化しつつ、強度も維持できる
  • 成型性が良く、ギガキャスト設備の小型化が可能

Mg合金は非常に軽量であり、アルミニウムやスチール合金と比較して大幅な軽量化を実現します。 その密度は約1.7~1.9g/cm³で、アルミニウム合金(2.5~2.8g/cm³)よりも著しく低く、鋼(7.8g/cm³)よりもはるかに低いものです。

マグネシウム合金は軽量でありながら、強度重量比が高いという特長があります。強度重量比は、重さに対する材料の強さを示す尺度であり、マグネシウム合金はその重量に対して高い強度があります。軽量化を実現しつつ、強度も維持できる材料ということです。

マグネシウム合金は良好な流動特性を示し、複雑な形状の作成に適しています。扱いやすいマグネシウム合金は、機械のロック力の要件が軽減され、鋳造設備コスト削減につながります。より小型の装置でギガキャストを実現でき、車両コスト削減に繋がります。

マグネシウムをギガキャストに使用することのデメリット

マグネシウムを車両に使用することにはいくつかの欠点があります。

  • 腐食や酸化に弱い
  • 高温強度とクリープ耐性が低い
  • 鍛造での欠陥が生じやすい
  • 材料原価が高い
  • リサイクル性に難がある

マグネシウム合金は他の金属(アルミニウムなど)に比べて、腐食や酸化に弱い性質があります。自動車で使用されるマグネシウム合金は、陽極酸化処理、塗装、化成皮膜の塗布などの保護コーティング処理によって、耐久性を担保する必要が出てきます。

マグネシウム合金は温度が高くなるほどクリープが生じやすくなる(Effect of Process Parameters on Fatigue and Fracture Behavior of Al-Cu-Mg Alloy after Creep Aging)

マグネシウム合金は、一般的にアルミニウム合金に比べて高温での強度と、耐クリープ特性が低くなります。マグネシウム合金は高温状態で強度が低下し、高温でクリープ現象が起きるリスクを抱えています。エンジン部品や排気装置の近くにある部品など、高温環境に置かれる可能性のある自動車ボディにとっては大きな問題になり得ます。

マグネシウムの鋳造は欠陥が生じやすい(Analysis of defects in a twin roll cast Mg-Y-Zn magnesium alloy)

鋳造工程において、マグネシウム合金は熱間引裂や欠陥が起こりやすいため、鋳造時の制御方法の確立や、マグネシウム合金の組成の管理が厳密に行われる必要があります。また、マグネシウム合金の原材料は、アルミニウムなどの従来の材料よりも高価になる可能性があります。

マグネシウム合金の生産とリサイクルにも課題があります。マグネシウムは反応性の高い物質であることから、リサイクル時の安全上の懸念もあります。

重慶大学国立マグネシウム合金工学研究センターが成果を発表

中国重慶大学国立マグネシウム合金工学研究センター(CCMg)は、重慶ミリソン・テクノロジーズ社と協力し、マグネシウム合金を使用した自動車のダイカスト部品の商業化に向けた研究開発を進めています。

彼らは2023年6月に、ミリソン社の8800Tギガプレス機を使用して、マグネシウム合金によるリヤアンダーボディとバッテリー筐体用アッパーカバーの試作に成功しました。

この試作では、リヤアンダーボディとアッパーカバーの2つの超大型ボディ・イン・ホワイト(BIW)部品が鋳造されました。これらの部品は2.2m2を超える投影面積を持ち、現在のマグネシウム合金製の自動車用HPDC(High-Pressure Die Casting)部品としては最大のものです。このマグネシウム合金超大型鋳物は、32%の軽量化を実現しました。

この試作は、マグネシウム合金を使用した大規模キャスティング技術の商業化の可能性を示しました。自動車産業における軽量化は永遠のトレンドであり、マグネシウム合金を用いギガキャストは、その一つの手段として期待されています。

まとめ

マグネシウム合金を使用したギガキャストの主なメリットは、軽量化、強度重量比の高さ、複雑な形状の作成の容易さ、コスト削減です。一方、マグネシウム合金のデメリットは、腐食や酸化への影響、高温強度や耐熱性の制約、鋳造工程における問題、環境および安全上の懸念、原材料の高価化があります。

マグネシウム合金を使用した大規模キャスティング技術の商業化が今後期待できますが、現状は研究段階を出ないと言っていいでしょう。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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