日産の燃料電池(SOFC)のメタルサポート技術とは何か?性能は?

燃料電池

日産自動車は、ドローン向けに燃料電池システムを開発しています。日産の燃料電池には、2つの興味深い点があります。

一つはSOFCという燃料電池が使われているところ、もう一つが「メタルサポート」技術を用いていることです。これらについて解説します。

SOFCとは

SOFCは、固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell)の略称です。SOFCは発電するための電解質にセラミックを用いています。

SOFCは動作温度が800℃と高く、発電するためには熱を与えて温める必要があります。始動に数十分から数時間かかるため、車など始動性が問われる製品には向いていません。

トヨタの燃料電池自動車”MIRAI”などに搭載される燃料電池はPEFCと呼ばれるもので、発電に用いられる電解質に高分子膜を用います。

PEFCは動作温度が100℃以下と低いため、車のようにすぐに走り出す必要がある製品にも使うことができます。

ドローンにSOFC

日産自動車は、ドローンにSOFCを搭載するようです。

SOFCはPEFCより25%程度効率が高く、セラミックスベースなので軽量化のポテンシャルも高い。セラミックスは日本のお家芸なのでメード・イン・ジャパンでできるのもいい

プロドローン常務の市原和雄氏

ドローンが飛行するためには軽量である必要があります。PEFCよりもSOFCのほうが軽量化しやすく、向いてるという話を開発者がしています。

ですが、SOFCもすべての部材がセラミックではなく、セパレータなどには金属部品も使われています。

また、これら金属部品は、高温でも耐えうるような特殊な金属を利用する必要があり、より高価で重量も重くなります。

PEFCの軽量化も進められている中で、SOFCをドローンに積むメリットがどこまであるかは疑問です。

SOFCセルは日産が開発

日産自動車が開発した発電セル (NEDO水素・燃料電池成果報告会2022より)

日産自動車は、10cm2のSOFC発電セルを開発したとあります。

10cm2は、5×2cm程度のサイズとみられます。研究用としては十分大きいサイズ、製品にしては小さめです。

日産が開発したセルは、メタルサポートと呼ばれる技術を採用しています。

このメタルサポートのコンセプトは遥か昔(おそらく30年以上前)から存在し、国内外で研究が進められてきましたが、製品化されたという話は聞いたことがありません。

一方で、製品化できれば燃料電池の勢力図を大きく変える可能性のある「夢のある」技術です。

メタルサポートとは

通常のSOFCでは、電極(空気極、燃料極)にセラミックス多孔質が用いられています。

一方、メタルサポートは、電極に金属多孔質体を用います。

簡単に言うと上記の通りですが、意味が分からないと思いますので図解します。

通常のSOFC

通常のSOFCは、電極にセラミックを用います。図のグレーの部分です。

セラミックは熱伝導率が低く、発電時に発生する熱を逃がす機能が不十分です。熱を逃がすことができないため、熱がこもり、セル中央部が過度に熱くなります。

また、熱が移動しにくい=始動時に熱が入りにくい、とも言えます。

メタルサポートSOFC

熱の移動を促進するために、両極に金属を用います。

金属はセラミックスよりも10倍程度熱伝導率が高いため、熱移動が容易になり、始動性や温度分布が改善します。

ただの金属板を用いてしまうと、反応する水素や空気が電解質に届かなくなり発電ができないため、多孔質(穴の開いた)の金属を用いているようです。

日経の記事には、電極の金属はステンレス鋼とあります。高温で使えるような特殊なステンレスを用いているものと想像します。

発電セルの性能

では、メタルサポートセルの性能は、従来のセルと比べてどの程度なのでしょうか。

発電セルの性能(NEDO水素・燃料電池成果報告会2022より)

発電セルの性能評価の結果が公表されています。

日産のSOFCセル(メタルサポート)は、700℃, 0.36[A/cm2]で0.80[V]のセル電圧を示しています。

悪くない結果です。

燃料利用率、空気利用率などの評価条件が記載されていないため正確なことは言えませんが、他社と比較しても見劣りしません。

京セラの燃料電池スタック性能、稼働時間0hのOutput Voltageの値が初期性能に当たる(NEDO水素・燃料電池成果報告会2022固体酸化物形燃料電池スタックの高度評価・解析技術の研究開発より)

京セラの燃料電池性能と比べます。京セラは、SOFCをエネファームに搭載し市販化した、SOFCのトップランナーです。

京セラのセルは、750℃、0.36[A/cm2]にて0.820[V]のセル電圧を示しており、京セラに見劣りしない日産のセルの0.800[V]は”悪くない”といえます。

京セラの評価は、燃料利用率80%という厳しい動作条件であり、本来日産の発表値と比較するべきではありませんが、参考として紹介します。

日産のセルは、メタルサポートという新しい技術を盛り込んだものとしては、おみごとと言いたい成果です。

京セラも金属支持を検討

京セラのメタルサポートセルの性能

京セラも、同様にメタルサポートセルを開発しています。

SOC(水素製造)に用いるためのセル開発に、金属支持を検討しており、コインセルの性能評価結果まで公表しています。

トップランナーの京セラに対して、日産がどこまで優位性を持てるのかも気になるところです。

今後の展望

日産は、ドローンでの開発を通じて、最終的に車載を目指しているとのこと。

車載SOFCという、できそうでできなかった長年の夢がかなう日が来ることを楽しみにしています。

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