ホンダが、2024年に米国で燃料電池自動車(FCV)を発売すると発表しました。車両名はCR-V e:FCEV。
果たして売れるのか、MIRAIとの違いを含め解説します。
CR-V e:FCEVは売れるのか?
ホンダのCR-V FCEVは売れるのでしょうか。
米国の市場は厳しい
燃料電池SUVが、米国で売れるのかは不透明です。2022年の米国での燃料電池販売台数は2708台/年と少ない状況です(出展:BNEF)。燃料電池自動車は価格が高く、水素充填ステーションが不足していることもあり、EVに比べて普及していないのが現状です。
クラリティの価格は700万円を超えています。こんな高価で、しかも燃料を入れられる場所も限られる車両を、わざわざ購入する人がどれくらいいるのか、と考えると、北米市場でのFCEV半場には絶望感すらあります。
2024年、EVがより手頃な価格になり、航続距離も向上して成熟した市場となっている状態で、FCEVがどの程度の人に興味を持たれるか。厳しい戦いとなりそうです。
日本市場はどうか?
日本のFCEV販売は、北米よりもさらに厳しい状況に陥っています。2022年の日本での販売台数は844台/年に留まっています。
市場普及が進まない理由は米国と同じくインフラ不足と高い車両価格にあると考えられます。日本メーカーが精力的に水素ステーションの建設を進めていますが、まだ都市部にしかインフラがないなかで、販売台数を大きく伸ばすことは現実的ではなさそうです。
ホンダのCR-V e:FCEVに勝機があるとすると、SUVである点、PHEVと同じく充電が可能な点にあると考えられます。現代のNEXO(ネッソ)はSUVタイプで、韓国国内では比較的販売台数を伸ばしています(2022年で約1.2万台/年)。SUVであるために売れている、とは考えにくいですが、トヨタがセダンタイプのFCEVしか販売していないことを考えると、一定の需要は得られる可能性があります。充電可能な車両である点も、水素給電を減らせるという視点で見てもメリットがあります。
ホンダは燃料電池をやめたのでは?
ホンダは2019年に燃料電池車の生産を終了しています。
これは車両の生産終了であり、燃料電池の事業から撤退したわけではない、ということが、今回の発表から分かります。
2023年秋に開催されたジャパンモビリティショーや、CR-V FCEVの展示でも、次世代の燃料電池システムが展示されていました。燃料電池システムの開発も継続しており、開発及び基礎研究は続けられていることがわかります。
ホンダはこの燃料電池システムの外販も発表しており、今後も継続的に燃料電池分野に投資するものと考えられます。
車両のベースはCR-V
車両のベースはSUVタイプのCR-Vとなるようです。CR-Vは、米国では人気のあるSUVです。
フェイスの小改良と、エンブレムなどの変更を除けば、従来のCR-Vと大きく変わらないとのこと。
現行車両の流用となると、設計に大きな自由度は見込めず、従来通り、ボンネット内に燃料電池システムを搭載し、水素タンクは後席下に搭載することになりそうです。
追記: 2023年のFCシステム外販の説明の際、正式に「エンジンがあったフロントフード下に、FCVシステムと駆動用モーターを配置する」との説明があり、「水素タンクは2本で、後席下と荷室下に搭載する」とも明言されています。
生産は、パフォーマンス・マニュファクチャリング・センター(PMC、米国オハイオ州)で行われるようです。PMCはNSXなどを製造する工場で、少量多品種の生産に特化しています。
SUVタイプの燃料電池自動車の市販は、国内メーカーとしては初となります。ホンダは、米国で生産するこの燃料電池車を、米国と日本国内で販売する予定です。
本田技研工業は2023年11月、北米向けSUV「CR-V」をベースに2024年発売予定のFCEV(燃料電池車)モデル「CR-V FCEV」を日本で初公開しました。
外観はCR-Vと大きく変わらず、水素や水をイメージした色合いのボディカラーでラッピングされています。
ホンダはH2 & FC EXPO[春]2024でCR-V e:FCEVを世界初公開しました。2024年夏に日本で発売予定としています。
MIRAIとの違い
トヨタは、新型の燃料電池車MIRAIを2020年末に投入しました。ホンダの新型FCEVと、MIRAIとの違いは以下のようなものです。
トヨタ MIRAI | ホンダ CR-V FCEV | |
---|---|---|
車両タイプ | セダン | SUV |
搭載バッテリー容量 | 1.2 kWh | 17.7 kWh |
燃料電池システム | 新型を内製(2020) | GMと新型を共同開発(2024) |
注目すべきポイントは以下の通りです。
- SUVタイプの車両
- 充電機能(プラグインシステム)を持つ
- 新型の燃料電池システム
以下で詳しく説明します。
プラグインシステムのメリット・デメリット
ホンダの新型FCEVは、電気の充電が可能なシステムとなるとのことです。EVと同様の充電設備により、バッテリーに給電できます。PHEVと同程度の大容量バッテリーを搭載するものと思われます。
水素で走るのに充電もできるの?という疑問がわきそうですが、FCシステムに大容量バッテリーを搭載するメリット・デメリットについて考察します。
メリット:燃料電池を最高効率で使える
大容量の電池を搭載すると、燃料電池を最高効率で使える、というメリットがあります。
燃料電池は、最も効率よく発電できる、最適な発電量が存在します。
この最適値は、エンジンの出力マップと同じように、燃料電池の設計によって変わります。この最適値で常に動かすことができれば、燃費も良いのですが、なかなかそうはいきません。
通常、モーターで必要な電力は、その都度、燃料電池に水素を送って発電します。
車が加速する際には多量の電力が必要となるため、燃料電池は最適点を外れます。必要な電力が常に変化すると、最高効率の点で燃料電池を動かし続けることができません。
この課題を解決するために、大容量バッテリー搭載が検討されています。
バッテリーを搭載することで、燃料電池は最高効率の点で動作し続け、電池に電力を蓄えます。
車が加速する際には、必要な電力を電池から賄うことができ、燃料電池は常に高効率を維持できます。
高い負荷をかけずに済むため、燃料電池の寿命も延びます。
給電可能なFCEVシステムは世界初ではなく、2019年にメルセデスベンツが発売した燃料電池車両であるF-CELLには、13.5kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載、給電機能も付与されています。
ホンダの燃料電池車両にも、10~20kWh程度の電池が搭載されると考えられます。
2024.2.28追記:CR-V e:FCEV には、プラグから充電できる 17.7 kWh バッテリーパックが搭載されるようです。
デメリット:コストと重量
大容量バッテリーを搭載するため、その分コストが増加します。
現在の車載用リチウムイオンバッテリーの価格は150ドル/kWh以上です。
PHEVと同程度の容量(20kWh,EVの1/3程度)の電池を搭載すると、バッテリーにかかる費用は約30万円。
ただでさえ高い燃料電池車の車両価格に、電池で30万円が上乗せされることになります。
また、バッテリー容量が増加することで、重量が増加し、加減速に必要なエネルギーが増加します。ただ、重量増加のデメリットは、効率の高い状態で発電できるメリットに比べれば小さいものかもしれません。
新型の燃料電池システム
ホンダは、2022年3月のFC EXPOに新型燃料電池システムを出展しています。
新型の燃料電池システムが、2024年のFCVに搭載されるようです。
システムはGMとホンダの共同開発で、低コスト化を進めたとのことです。
プロトタイプとのことですが、2024年の車両搭載を想定すると、量産品に近いものが出てきていると想像できます。
ホンダの新型FCシステムでは、セルの大型化が図られているようで、MIRAIより大型化しているとの説明もあったようです。
発電セルが大型化すると、同じ電流負荷をかける場合でも、負荷が分散され、電流密度としては低く抑えられ、効率が向上します。
車載の燃料電池は、数百枚のセルを直列につなげて利用しますが、セルの発電面積が大きくなれば、セル枚数を減らすことができます。
セル1枚減るだけでも、反応する触媒に利用する白金や、セパレータなどの部品を減らすことができ、コスト低減にも貢献します。
一方で、1枚のセルのなかで発電量の分布が発生しやすく、局所的な劣化が発生する可能性があり、設計はより難しくなります。
2024年の発売を前に、既にほとんどの設計は固まっているもとの思われます。現在は、量産性と製造工程の検証を行っているものと想像します。
燃料電池システムの構成などについては、以下の記事でも考察しています。
まとめ
ホンダの燃料電池車が日本・北米で販売を伸ばすことは困難と言わざるを得ません。これはホンダに限ったことではなく、トヨタを含めたどの自動車メーカーも、インフラと価格が足かせとなり販売を伸ばせていないのが現状です。
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