CAE技術者は、転職市場で高く評価される、という話がよく聞こえてきます。
つぶしが効く、スキルがあるから強い、など、抽象的な表現で議論されることが多いですが、実態はどうなのか。
CAEを本業にしている筆者が、実際のところを解説します。
CAE技術者は転職市場で強い?
CAE技術者は転職市場で強いです。
知り合いの転職エージェントも、高度な専門性をもったCAE技術者は、多くの場合で転職で年収が上がる、市場でも不足している人材だと話していました。
製造業にとってデジタル化は急務
近年の製造業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)や、デジタルツインと呼ばれるような、リアルの世界をデジタルに移行する活動が活発です。
CAEは、製造業のデジタル化の中枢と言っても過言ではありません。
そのための技術者の争奪戦も過激になってきています。
CAEオペレータは不要
一方で、対象としている製品や技術のことは分からないけれども、CAEソフトウェアをただ操作できる、というだけでは不十分です。
いわゆる、オペレータであれば、わざわざ高い金を払わなくても、操作だけしてくれる人間を雇えばいい。
以下のようなスキルを身に着けていれば、専門性が高く、特に製造業でくいっぱぐれることはないでしょう。
CAE技術者に求められるスキル
これだけのスキルが身に着けば、転職市場で引く手あまたになるであろう、というものを紹介します。
物理現象を理解し切り分ける
計算は、実際の物理現象を読み解き、現象を再現するために必要な要素(拘束や荷重条件)に切り分け、計算を組み立てる能力が必要です。
エンジン設計をするのであれば、燃焼室でどのような機構で点火され、ガスの流れが起こり、圧力や温度が変化し…といった、物理現象を理解している必要があります。
そのなかで、計算に入れ込むのはどの現象なのか。ガスの流れだけなのか、熱も考慮するのか、ガス濃度や反応も考慮するのか、ピストンの動きや燃焼室の体積変化まで考慮するのか、など、設計に必要な項目を切り分け、計算を組み立てることも業務の一環となります。
分からなければ、設計担当者に聞く、自分で学ぶなど、事前に対象物のことを理解しておく努力が常に必要です。
CAE技術者、特にCAEを専任としている技術者の業務では、対象の製品がころころ変わります。たとえば、今年はエンジンの計算をしていたのに、翌年からタイヤの設計をすることになる、などです。そのたびに、製品の技術について理解し、物理現象を考え、学び、といったサイクルを回して、より高度な技術者になっていくのです。
ソフトウェアの知見
組み立てた計算を、計算ソフトに組み込むためのソフトウェアの操作の技術も必要です。
CAEソフトウェアは汎用的なもの以外にも、専門のものが無数に存在し、それらソフトの中から、自分がやりたいことを達成するために、どのソフトを選ぶのか、これも知見が必要です。
たとえば、一般的な構造解析であればANSYSやAbaqusで十分であるが、車体の衝突のような大変形を考慮するためにはLS-DYNAが必要であるし、大変形の中でも鍛造などの加工系の計算であればDeformのほうが向いているだろうし、といった目利き能力が必要です。
それぞれのソフトウェアで、正しく境界条件や材料物性を設定する技術も求められます。
そのなかで、ルーティンの業務は効率化する必要があり、ソフトウェア操作の自動化やコマンド化、ときには自動化ツールの開発まで行うこともあります。
3次元CADの図面がなければ、2次元図面を読み、3Dモデルを作成する能力も求められます。(といっても、最近は図面が3DCADベースであることも多く、高度なCAD知識が必要とされることは減っている印象です)
計算を収束させるノウハウ
また、計算を収束させるノウハウも必要です。
ソルバーが安定して動き、収束させるには、独特のノウハウが必要です。
特に、複数の物理現象を同時に解く連成解析や、温度の分布によって物性値が変化する解析、相変化を伴う解析、粒子の輸送を伴う計算など、収束性が悪化しやすい計算に対して、どのように対処するとよいのか、ソルバーやソフトウェアごとの特性を把握し、対処できる能力が必要です。
これは一朝一夕で身に着くものではなく、長年の苦労と経験から得られるものであると思います。
実験との誤差要因の見極め
計算が収束しても、計算と実測の違いについても考える必要があります。
そのためには、計算の結果だけでなく、実験に誤りはないか、計算以外の部分でも知見を持ち合わせていないと、正しいシミュレーションを行うことができません。
設計に貢献する
そして何より重要なのは、ここまでのスキルを持っていても、CAEで会社に利益をもたらすことができないという点です。
CAEで会社に利益をもたらすには、結果が実験を代替し、いまの設計案が妥当であるか否かを提示する必要があります。
また、今の設計案が目標に対して不十分であるならば、その目標に対し「どこが問題なのか」「何を改良するべきなのか」といった、改善の提案が必要になります。
収束した結果を見て、結果から技術的に何が言えるのかを考察し、設計案につなげる、特許を提案する、といった、実際の設計能力も必要になるのです。
まとめ
ここまでを読んでいただくと、CAE技術者が、物理現象の根幹を理解し、高度な計算ノウハウを身に着けて、設計に貢献することができる貴重な人材であることが理解いただけると思います。
高度なCAE技術者は育成が難しく、転職市場でも引く手あまたです。転職で給与UPを目指しましょう。私は、転職エージェントを利用して転職した経験があります。希望する企業や、自分の望む仕事、年収をしっかりと伝えることで、給与UPを実現できました。
企業の目線としては…
企業の目線としては、外部から採用するよりも、自社でこのような力のある技術者を育成できるように体制を整えることのほうが重要です。
教育体制の拡充に力を入れて、5年後、10年後に自社を支える技術者を育成していきたいと考えています。
(そして彼らはきっとより良い環境を求めて旅立っていくのでしょう…)
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