CAE技術者として長年働いている筆者は、過去に転職で年収アップを実現しました。この経験から言えることは、すぐに年収を上げるには転職しか選択肢がないことです。
今回は、CAE技術者が上手く転職するための方法を紹介します。
年収を上げるためには何をするべき?
CAE技術者が年収を上げるためには、転職することが最も効果的で、再現性のある方法です。
CAE技術者として働く多くの人々が、自身の能力やスキルを適切に評価されず、報酬が不十分であることに不満を持っています。
特に、年功序列制度が根強く残る日本の製造業界では、技術者の成果や貢献に応じた報酬体系が確立されておらず、何を成し遂げても給料は上がりません。
上のグラフは、日本の製造業における、従業員数と平均年収の関係です。
中小企業に勤務する技術者と大手メーカーで働く技術者とでは、年収に大きな開きがあります。同じようなスキルや経験を持っていても、働く場所によって年収が変わります。
このような不公平な状況に不満を持っているCAE技術者は多いため、自身の能力を正当に評価してもらえる職場を求め、転職を検討する人も少なくありません。CAE技術者としてのキャリアを長期的に考えた場合、適正な報酬を得るために、転職が選択肢の一つとして考えられます。
転職に向けて、今の会社で日々何をすればいい?
転職を考える人が増える中、今の会社ですべきことは以下の4点です。
技術を身に着ける
まず、技術と経験を身に着けることが大切です。
- CAE業務の実務をこなす
- 流行りの製品や技術に注目する
CAEのテクニック的なところでは、構造解析や流体解析などの技術を習得することが必要です。また、実験やプログラミングのスキルも重要です。流行りの製品や技術にも注目し、今の会社で経験できることは、全部経験する気持ちで取り組みましょう。
求められる技術は、求人から逆算する
以下のような悩みを持つ人も多いのではないでしょうか。
「技術を身に着ける」と言っても、何を学べばいいのか分からない…
このような場合には、必要な技術を求人から逆算することをおすすめします。
求人を見ることで、企業が求めるスキルや経験を知ることができます。例えば、CAE技術者であれば、どのような解析ツールを使えるか、どのような業界知識を持っているか、などが求められるでしょう。そのようなスキルや知識を自分で身に着けることが必要です。
たとえば、トヨタ自動車の求人、モノづくりCAE技術開発(電池/パワートレーン/シャシー/ボデー/新モビリティ)には以下のような要件が掲載されています。
<応募資格/応募条件>
doda掲載求人 トヨタ自動車株式会社 モノづくりCAE技術開発(電池/パワートレーン/シャシー/ボデー/新モビリティ)より引用
■必須条件:下記に関するご経験いずれかを有している方
・熱流体解析、非線形構造解析、磁場解析などの経験
・熱処理、溶接、樹脂成形などのモノづくりCAE技術開発
・現場にて必要な計測器の選定・データ取得経験
■歓迎条件:
(1)生産技術の経験(特に電池関連)
(2)設計の経験(特に電池関連)
(3)数値解析の知識
(4)材料力学、流体力学、熱力学、機械力学の知識
(5)プログラミング技術(pythonなど)
(6)AI、機械学習を活用したデータ分析
CAE技術系のスキルは専門的ですが、独学で身に着けることもできます。
インターネット上には多くの情報がありますし、書籍や論文など、学ぶことのできる媒体は無数にあります。動画や記事、オンライン講座などを活用して、スキルアップを目指しましょう。
スキルを身に着けても、実務で使う機会がなければ意味がありません。求人にも「○年以上の実務経験が必要」という条件がある場合があります。学んだ技術を、何かしらの形で実務に使っていくことで、「前職での実務経験」という実績が得られます。
転職活動は、自分自身をアップデートする良い機会でもあります。求人から逆算して、自分が何を身に着け、どのような経験を積むことが必要かを考え、自分自身を成長させていきましょう。
問題解決手法を学ぶ
CAE技術者の仕事のほとんどは問題解決です。
問題点が発生し、問題の原因を特定して改善し、最終的に製品化につなげる、というPDCAを繰り返しています。問題解決の考え方は、実務をやっているうちに自然と身につくもので、体系的に学ぶ機会が少ないのが難しい所です。
問題解決手法を体系的に学びたいのであれば、最初の一冊としてイシューからはじめよがお勧めです。
知的生産とは何か?がよくまとまった本です。仕事はして給料は頂いているけど、実際には自分が何を生産しているかよくわからない。そんなことを考えるCAE技術者は、意外に多いです。
問題解決手法と、自身の仕事の進め方を紐づけながら学んでいくと、CAE技術者として一歩進んだ働き方ができるようになります。
成果を出す
今の会社で成果を出すことが、転職においても重要です。ここでいう成果は、職務経歴書に書けるようなエピソードです。
成果=職務経歴書に書けるようなエピソード
エピソードは、派手なモノでなくて大丈夫です。
「CAE結果を実験と比べてみたが、実験側の測定誤差が大きかった。測定誤差を小さくするために試験片の加工精度を上げる必要があった。加工は他社にお願いしていたので、精度を上げるお願いに行き、熱意をもって目的を伝えることで協力して貰えた。」といったような具合に、大きな成果でなくても、自分が何を工夫して、誰に協力を仰ぎながら仕事を進めたのかが分かるようなエピソードを作っていきましょう。
こういった経験をもとに、定期的に職務経歴書を書いておくことが大切です。
英語力を鍛える
年収アップを叶える大企業において、顧客や関係者は全世界にあることがほとんどです。業務上英語が必要になることもあります。
求人上に記載がなくても、英語力が十分かどうか、書類や面接で問われます。TOEIC650点以上、可能であれば730点以上のスコアはとっておきたいところです。
CAE技術者の転職のメリット・デメリット
CAE技術者が転職を検討する場合、そのメリットとデメリットをよく理解しておくことが重要です。
より大きな企業に転職するメリット
メリットについて、転職により給料が上がることがあります。希望の年収を現在の年収より高く設定していれば、採用されたけれども給料が下がる、ということは起こらないでしょう。
また、1人あたりに使える研究開発の予算が増えたり、新しい出会いや経験があることも大きなメリットです。現在の業務に行き詰まりを感じている場合には、転職で業務を一旦リセットするのもいい選択です。気持ちの切り替えにもつながります。
より大きな企業に転職するデメリット
デメリットについては、人間関係がリセットされることがあります。
職場で築いた信頼関係が一旦失われることで、仕事の進め方が少し難しくなります。これまでは「あの人が言うなら」で通っていた仕事が、すべて一から関係を構築する必要があります。また、新しい職場でのストレスや適応に時間がかかることも、デメリットの一つと言えます。
具体的な転職活動方法は?
転職活動は、転職エージェントとの面談を行い、応募先企業とのやり取りを行う方法が一般的です。
ただ、転職エージェントと面談する前に、以下の2点は用意しておきましょう。
職務経歴書を書く
まず、職務経歴書を書くことが最初のステップです。
転職活動を始める前には、自分のキャリアを正確に把握することが必要です。そのためには、職務経歴書を作成することが大切です。
職務経歴書を作成する際には、自分の技術や経験の棚卸を行い、具体的な事例やプロジェクト、実績を挙げることが重要です。また、過去の業務において得たスキルや知識、問題解決能力などを明確に示すことで、自己アピールの幅が広がります。
転職先の候補を洗い出す
転職先の候補をしっかりと洗い出すことが大切です。
転職で年収アップを狙うのであれば、大企業がターゲットになります。大企業は、自社の製品開発にCAE技術を積極的に活用するため、CAE技術者を積極的に採用しています。
また、大企業ほどツールも豊富で恵まれているため、研究開発投資が大きく、一人あたりに換算すると多くのリソースが割かれます。
転職エージェントと面談する
転職エージェントとの面談は、転職活動において非常に重要なステップです。転職エージェントは、求職者と求人企業とを仲介する存在であり、その役割は非常に大きいです。
転職エージェントと面談する前に、以下は抑えてから行きましょう。
- 現状の自分の正確な年収を把握する
- 希望の企業群(企業名)を決める
まず、面談前には自分自身の現在の年収を正確に算出しておくことが必要です。これは、希望年収を伝える上での参考値となります。希望年収もはっきりと伝えるようにしましょう。
希望の企業群を伝えることも重要です。自分自身がどのような企業に興味があるのかを明確に伝えることで、転職エージェントが適切な求人を紹介してくれる可能性が高くなります。
転職エージェントは、求職者の味方であり、最大限活用することが大切です。欲しい求人があれば伝えるようにしましょう。また、エージェントの都合で出してくる求人も一応目を通すことをお勧めします。気になることがあれば、何でも聞くようにしましょう。
転職エージェントとの面談は、転職活動において非常に大切なステップです。自分自身が求める条件をしっかりと伝えることができれば、エージェントが適切な求人を紹介してくれる可能性が高くなります。しっかりと面談を進めて、自分自身にとって最適な求人を見つけるようにしましょう。
面接に挑む
転職活動において、面接は最も重要なステップです。面接では、自分の持つ技術や能力をアピールするだけでなく、企業の求める人物像に合わせた質問に適切に答えることが求められます。面接対策は、前もって用意しておくことが大切です。
まずは面接官となる候補者を調べます。特に最終面接では、組織のトップが面接を担当することもあります。その人がどんな仕事をしてきた人なのか、どんな技術的な専門用語を使うのか、事前に把握しておくことで、自分のアピールの仕方を考えることができます。
技術面接では、同じことなのに違う用語で話す人がしばしばいます。「CAE」を「シミュレーション」「モデル」「計算科学」「デジタルツイン」など異なる言葉でも表現できるように、各企業や業界によって言葉が少しずつ違います。面接官となりそうな人物の論文や講演資料などをウェブで探してみて、応募先の組織の用語になれるようにしましょう。
想定質問に対する「自分なりの答え」を用意することも重要です。想定質問への回答を書いてみたり、喋ってみたりすることで、実際の面接でもスムーズに答えることができます。
面接官は「自社に採用することでどのようなメリットがあるか」という観点で候補者を評価します。具体的なポイントは以下の通りです。
具体的な質問内容は個別企業により異なりますが、一般的には以下の内容が頻出です。
面接でのアピールポイントは、自分が培ってきた技術力や自主的に成長しようとする能力や熱意、スタンス、辛い環境でもやりきる力、どんな課題をどうやって乗り越えて来たか、質問に対してズレた回答をせず、端的に答える能力などが挙げられます。
しかし、これらの能力はすぐに変えることができないものもあります。そのため、面接対策によって自分自身を偽装することは避けるべきです。自分自身が本当に持っている能力を正直にアピールすることが、最も重要なことです。
まずは、どんな求人があるのか見てみよう
求人情報を見るだけでなく、自分の希望する条件に合った求人を紹介してもらえます。また、転職エージェントを利用することで、転職活動の進め方についてのアドバイスももらえます。
転職活動はノーリスクですし、エージェントを利用して採用されても応募者側には一切費用が掛かりません。
私自身、転職活動の際には複数の転職エージェント(doda、リクルートエージェント)を利用しましたが、それぞれの担当者と面談して、自分が気軽に話せる担当者を付けてくれたエージェントを選びました。
担当者との相性が悪かった場合は、遠慮なく担当者を変更することも大切です。
転職エージェントを利用することで、自分の可能性を広げることができます。転職活動には多くの時間と労力が必要ですが、エージェントとの連携を上手く活用して、効率的に活動していきましょう。
転職は若いほど有利です。逆に、遅くなるほど不利になります。なるべく20代、30代のうちに、転職活動に取り掛かりましょう。
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