EV用バッテリーは”リサイクル”を前提とした設計が必要になる話

リチウムイオン電池

EV用バッテリーのリサイクルが必要となりつつあります。

バッテリーリサイクルが必要な理由と、リサイクルに向けてた実際の設計について紹介します。

なぜEV用電池のリサイクルが必要なのか

環境負荷の低減、資源の保護の観点から、車載電池のリサイクルが必要とされています。特に貴金属資源の枯渇懸念が問題視されており、車載電池向けでいうと、リチウム、コバルト、ニッケル、レアアースなどの資源の枯渇が懸念されている状況です。

貴金属を多く用いるEV用バッテリーも、リサイクルを想定した設計が必要になっています。今後、EVの普及が進み、バッテリーの適切な管理・リサイクルが求められる中、バッテリーリサイクルに関する規制はますます厳しくなることが予想されます。

EV電池の設計指針

EV用の電池は、ざっくり電極、電解質、セパレータ、ケーシング(外装)で構成されています。

リサイクルを考慮した設計は上記のいずれの要素においても対策が必要ですが、貴金属資源に着目すると、電極と電解液の材料選択が重要になります。分解しやすいセパレータやケーシング設計をすることも、リサイクルのプロセスを容易にするために必要になります。

リサイクルしやすい電池の設計では、入手しやすく、安価で、毒性がなく、簡単に溶かして再利用できる材料を優先的に使用することが基本方針です。では、電極にはどのような材料を用いると、リサイクルしやすい電池が作れるのでしょうか。

リサイクルに向いている材料を選ぶ

電極の設計に用いる材料のうち、リサイクルしやすい材料は、鉛、ニッケル、鉄などです。これらの材料は、資源が豊富で安価であり、溶かして再利用することも容易なため、リサイクルに適しています。電解質には、水酸化カリウムのように、毒性がなく燃えにくいものを選ぶと、リサイクルが容易になります。

エネループなどの電池で用いられるのがニッケル水素電池、リサイクルが容易とされる

鉛、ニッケル、鉄などは、いずれも鉛蓄電池やニッケル水素電池でよく使われる材料で、リチウムイオン電池に比べて、ニッケル水素や鉛蓄電池はリサイクルが容易です。鉛蓄電池はリサイクルのインフラも確立されており、鉛と硫酸を取り出して新しい電池に再利用されています。

一方で、ニッケル水素は鉛蓄電池ほどリサイクルインフラが確立されていません。ニッケルは電池に再利用できる貴重な素材であるため、リサイクルインフラを整備することで、ニッケル資源を確保していく必要があります。

リチウムイオン電池をリサイクルしやすくするには

鉛蓄電池やニッケル水素電池は、リサイクルに向いています。一方で、特にEVでよく用いられるリチウムイオン電池はリサイクルに向いていません。リチウムイオン電池のリサイクル性を改善するには、どのような電池設計が必要なのでしょうか。

リサイクルしやすい電極材料

3D microstructure design of lithium-ion battery electrodes assisted by X-ray nano-computed tomography and modellingより

リチウムイオン電池のリサイクルが難しいのは何故でしょうか。最大の問題点は正極にあり、コバルト酸リチウム(LiCoO2)やニッケルコバルトマンガン(NCM)などの正極材料は、希土類元素を含むため、より高度で専門的なリサイクル工程が必要となってしまいます。

化学組成が複雑であることもデメリットで、リサイクルの過程で汚染や劣化が進み、材料の品質が低下してしまう懸念があります。(なお、リチウムイオン電池の負極材量に用いられるグラファイトは、リサイクルが容易であるため大きな問題になりません。)

正極の化学組成を単純化することで、リサイクル性を改善することができます。リン酸鉄リチウム(LFP)などの正極材料は、化学組成が単純で、希土類元素を含まないため、リサイクルが容易とされています。CATLが本腰を入れているリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)は、安価であるだけでなく、リサイクル性も兼ね備えていると言えます。

リサイクルしやすい電解質

Motor Fan illustrated Vol.178 よくわかるバッテリーより

電解質については、液体電解質のような可燃性電解質を使用するよりも、固体電解質のような不燃性電解質を使用する方が、リサイクル性が高くなります。全固体電池に期待がかかります。

2020年代後半に実用化が期待されている全固体電池は、リサイクル性を改善する意味でも有効です。

リサイクルへの課題

リサイクルしやすい電池を設計することができても、性能を維持したままリサイクル性を向上させることが困難で、課題が山積みです。高いエネルギー密度、長いサイクル寿命、優れた安全性を持ちながら、リサイクルしやすい電池を実現することはできるのでしょうか。

エネルギー密度とサイクル寿命が低下する

各電池の重量エネルギー密度、リン酸鉄リチウム電池はニッケル系に劣る

リサイクル可能な電池を設計する上で最大の問題が、性能とリサイクル性の両立です。

例えば、正極にリン酸鉄リチウム(LFP)のようなリサイクルしやすい材料を使うと、コバルト酸リチウム(LiCoO2)やニッケルコバルトマンガン(NCM)のような複雑な正極材料を用いる電池と比較して、エネルギー密度が低くなり、充放電のサイクル寿命も短くなります。

安全性は向上する可能性が高い

電池設計における安全性とは、漏液、発火、熱暴走など、ユーザーや環境に危険を及ぼす事故を防止するための対策を指します。一般に、リサイクルしやすい材料は、安定性が高く反応性が低いため、発火しにくいとされています。

電池性能とリサイクル性の関係ほど大きな課題ではありませんが、いくらリサイクルしやすくても危険な車には乗りたくありません。安全な電池であることは必要条件となります。

まとめ

環境負荷低減、省資源化のため、EV用電池のリサイクルが必要になりつつあります。まとめると以下の通りです。

  • 入手しやすく、安価で、無害で、溶解して再利用しやすい材料を使用する(鉛、ニッケル、鉄)
  • リチウムイオン電池はリサイクルに適さない
  • 電極や電解質の設計を改善することでリサイクル性を改善できる
  • 一方で、性能とリサイクル性のバランス、安全性の確保などの課題がある

参考になれば幸いです。

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