近年、地球温暖化や環境問題に対する解決策として、再生可能エネルギーの普及が進んでいます。その中でも、太陽光発電や風力発電といった技術が注目を集めていますが、その一方で、核融合炉もエネルギー源も将来的なエネルギー問題の解決策として期待されています。
本記事では、核融合炉の特許数を調査し、上位企業や注目すべき個別企業について紹介します。また、核融合炉とは何か、今後の課題や実用化の見通しについても解説します。
核融合炉とは
核融合炉とは、軽い原子核を高温・高密度のプラズマ状態にして、互いに衝突させ、合体させることによって重い原子核を生成し、その過程で放出されるエネルギーを利用する発電方式の一つです。
以下のようなメリットがあり、将来的なエネルギー源として期待されています。
- 核融合炉の燃料となる水素やその同位体は豊富(燃料となる重水素は海水から取り出せる)
- 核融合反応の生成物である放射性廃棄物の量も少ない
- 二酸化炭素の排出量もほとんどない
国際特許数の比較
核融合炉に関する国際特許数を調査しました。特許データベースのPatentSightによると、2021年現在、核融合炉技術に関する特許件数は約1万7,000件に上るとされています。このうち、上位の企業による特許数の割合を見てみると、以下のようになります。
上位10社のうち、アメリカ、日本、韓国の企業がランクインしており、特許数の多さからも、核融合炉技術において、これらの国が主要な技術開発国であることがわかります。
注目すべき企業
核融合炉開発において先行するメーカーのなかから、特に注目するべき企業を紹介します。
General Electric (アメリカ)
General Electric Company(以下、GE)は、磁気閉じ込め方式の核融合炉の開発に取り組んでいます。GEの核融合炉は、トカマク型と呼ばれる形式を採用しており、高温・高密度のプラズマを磁場で閉じ込め、核融合反応を起こすことでエネルギーを発生させます。
GEの核融合炉の研究開発は長年にわたって行われており、GEは2,000件近くの核融合炉に関する特許を保有しています。また、GEは核融合炉の実証実験を目的としたITER(国際熱核融合実験炉)にも参加しており、独自の技術を活かした核融合炉の開発に力を入れています。
具体的な開発計画については、GEはまだ詳細を公表していません。しかし、GEは核融合炉を含むエネルギー技術に積極的に取り組んでおり、今後も核融合炉の研究開発に注力していくことが予想されます。
General Atomics(アメリカ)
General Atomics(GA)は、アメリカ合衆国のサンディエゴに本社を置く、民間の航空宇宙・防衛企業です。GAは、磁気閉じ込め方式の核融合炉、トカマク型の形式開発に取り組んでいます。
GAの核融合炉の開発には、主に以下の2つのプロジェクトがあります。GAが開発したレーザー方式の核融合炉「DIII-D」は、世界で最も成功した核融合炉の一つとされています。
- DIII-D(Doublet III-D)実験施設:DIII-Dは、カリフォルニア州サンディエゴにある磁気閉じ込め方式の核融合炉の実験施設です。DIII-Dは、プラズマ制御技術の研究開発や核融合反応の解明など、核融合炉の開発に必要な研究を行っています。
- ITER(国際熱核融合実験炉)プロジェクト:ITERは、磁気閉じ込め方式の核融合炉の国際共同実験施設であり、フランス南部に建設される予定です。GAは、ITERの核融合炉の設計・製造に参加しており、高性能なトカマク型核融合炉の実現に向けて貢献しています。
核融合炉の分類
核融合反応を起こす方法として、磁場で高温のプラズマを閉じ込める「トカマク式」と、レーザーを燃料に照射する「レーザー方式」があります。将来、磁気閉じ込め式とレーザ式のどちらの融合炉が普及するのかも含めて注視が必要です。磁場閉じ込め方式とレーザー方式(慣性閉じ込め方式)の違いを表にまとめました。
磁場閉じ込め方式 (トカマク式) | レーザー方式(慣性閉じ込め方式) | |
---|---|---|
運転原理 | 等方性プラズマを磁場で閉じ込め、高温・高密度化する | レーザー光で照射した燃料ペレットを爆発的に圧縮し、高温・高密度化する |
設備のサイズ | 大型 (直径10メートル以上、高さ20メートル以上) | 小型 (直径数メートル以下) |
実用化までの技術的課題 | 磁場制御技術 プラズマ制御技術の確立が課題 | 高出力レーザー光の安定化が課題 |
将来性 | 技術確立の時期未定 (2050年頃か?) | 早く実用化できる可能性がある (早ければ2040年より早い?) |
核融合炉は、(理論上は)1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーを生み出せる技術です。
高温状態維持のための方式が違う
核融合炉では、プラズマを加熱し、高温高圧の状態を維持するために大量のエネルギーが必要です。そのエネルギーを供給するための電力供給設備として、磁気閉じ込め方式のトカマク型では主にマイクロ波発生装置やRF発生装置が使用され、レーザー方式では高出力のレーザー装置が使用されます。
各方式の課題
磁場閉じ込め方式では、「プラズマ制御」技術や「磁場制御」技術の確立が課題とされています。これらの技術が確立されれば、実用化に向けた重要な一歩となるとされていますが、現在のところ、この技術の確立にはまだ時間がかかるとされています。
一方、レーザー方式では、高出力レーザー光の安定化が課題とされており、レーザー技術の進歩や精度の向上が求められています。
レーザー方式は早く実用化できる?
燃料ペレットの爆縮技術は、すでに高いレベルで確立されており、燃焼速度を制御する技術も進んでいます。そのため、磁場閉じ込め方式よりも、レーザー方式は早く実用化できる可能性があるとされています。
原発との違いは?
原子力発電所と核融合炉の違いを表にまとめています。
原子力発電所 | 核融合炉 | |
---|---|---|
原理 | 核分裂によるエネルギー発生 | 核融合によるエネルギー発生 |
燃料 | ウランやプルトニウムなど、有限であり、安全管理が必要 | 水素やその同位体、天然に存在し、豊富に利用可能 |
燃料の廃棄物処理 | 放射性物質を含む高レベル廃棄物の処理が必要 | 放射性物質を含まないため、処理が容易 |
安全性 | 原子炉の事故により、重大な被害が発生する可能性がある | 原理的に安全性が高いとされる |
核融合炉のメリット・デメリットは以下のようなものです。
核融合炉は技術的なメリットが多く、一方で開発にまだ長い期間やコストを要する考えられていることがデメリットとして挙げられます。
逆に言うと、実用化されれば、原発を凌ぐ環境性能を得られることになります。
核融合炉の今後の課題と実用化の見通し
方式ごとの実用化目途を示します。いずれも実証実験のタイミングは2035年頃とされており、各要素技術の研究開発が進められています。
磁気閉じ込め方式(トカマク式)
- 2007年核融合実験炉の建設開始
- 2025年ITERの稼働開始予定(エネルギー供給のみで核融合発電なし)
- 2035年核融合発電が開始予定
ITERの実験開始は2035年ごろに商用レベルの核融合炉の開発が可能になるとされています。ITERはトカマク式の実験炉で、2035年には実際に核融合を始める予定です。
ITERの核融合炉の「稼働(核融合はまだ行わない)」は2025年を予定していましたが、真空容器の外側に付けられる断熱部材の配管に亀裂が生じたため数年遅れることになると分かっています。
ITERの実験が成功しても、それが商業的な核融合炉の実現とは言えません。ITERのあとには発電を実証する原型炉を造る必要があり、核融合の実用化は2050年ごろとされています。
レーザー方式
レーザー方式には、プラズマを閉じ込める際に強力なレーザーが必要であるため、レーザーの出力を大幅に増やす必要があります。特に、Lawrence Livermore National Laboratoryは、レーザーを使用した熱核反応の実験装置「National Ignition Facility」を運営しており、高出力レーザーの研究に注力しています。2025年までには、核融合反応でのエネルギー発生に必要な高温高密度のプラズマを制御するための技術の開発を進め、2035年までには、商業用核融合炉の実用化に向けた技術の確立を目指すと表明しています。
まとめ
核融合炉の特許数を調査し、上位企業や注目すべき個別企業について紹介しました。
核融合炉は、再生可能エネルギーの一つとして期待されており、今後も技術開発が進められることが予想されます。
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