オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)はアリゾナ州に本社を置く半導体メーカーです。電気自動車の電力制御に用いられるインバータ用に、炭化ケイ素(SiC)という次世代のパワー半導体素子を開発しています。
SiCは従来のシリコンに比べて優れた特性を持ち、電力効率向上に大きな影響を与えることが期待されており、2030年までに普及する次世代技術としても注目されています。
今回は、オン・セミコンダクターのSiCパワー半導体の成長戦略と見通しを考察します。
オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)とは
オン・セミコンダクター(ON Semiconductor)は半導体を製造する企業で、本社はアメリカのアリゾナ州にあります。元々はモトローラ社の半導体コンポーネント・グループから独立して設立された会社で、1999年に始まりました。
半導体とは、電子機器の中で電気を制御するために使われる素材のことです。オン・セミコンダクターは、モトローラから引き継いだディスクリートやアナログなどの半導体を製造しており、近年は次世代のSiCパワー半導体も開発しています。
オンセミは炭化ケイ素(SiC)半導体のシェア獲得を目指す
オンセミは、2022年から2027年の間に、自社の売上高が年平均で10~12%成長すると予想しています。これは、半導体市場全体の成長率の3倍にあたる成長率です。
オンセミは、2027年までにSiC市場の35%〜40%を獲得すると豪語しています(2021年の7%から考えると大幅な増加です)。特に、電気自動車(EV)の駆動用モーターを制御するインバーターへの採用が広がっていくことから、車載用パワー半導体の需要を取り込む思惑を持っているようです。
オンセミの目指す「SiC市場の35-40%シェア獲得」は非常に高い目標です。現実的に試算すると、2027年時点で22%程度のシェアを獲得できればよいほうなのではないかと考えられます。
仮に、年平均11%の成長を遂げたとして(これも困難ですが)、2026年時点でのSiCの売り上げは約14億米ドル弱です。2026年の市場全体の規模は65億米ドルと予測されており、金額ベースでのシェアは20%。これだけの成長を遂げたとしても、2027年時点では22%程度のシェアに留まると考えられます。(もちろん下回る可能性の方が高い)
オンセミの技術力とSiC製品の特徴
オンセミ社は、SiC(シリコンカーバイド)という素材を使って新しい技術を開発しています。オンセミの技術の特徴は、垂直統合型の事業モデルと生産能力です。
垂直統合型 | 水平分業型 | |
---|---|---|
企画 | 半導体メーカー | ファブレスメーカー |
設計 | ||
前工程 | ファウンドリー (前工程受託) | |
後工程 | OSAT (後工程受託) |
2021年、オンセミはSiCの結晶技術を持っている米国のGT Advanced Technologies(GTアドバンスト・テクノロジーズ、GTAT)を買収しました。これにより、オンセミ社は自社でSiC結晶を作るための基板(ウエハー)を切り出し、それを使ってパワー素子を作り、パワーモジュールにまとめることができるようになりました。いわゆる「垂直統合型」のモデルを実現できるようになったのです。
また、オンセミの現在のSiC MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)は、プレーナ型の形状ですが、次世代の製品ではトレンチ型という形状に移行する予定です。
トレンチ型は、より効率的で小型化することができるため、性能向上につながると考えられています。
パワー半導体は、先端のMOSトランジスタ(スマホのCPUやメモリに使われる半導体)のように、極端な微細化を追求するわけではありませんが、電力変換装置全体を小型化するために、パワー半導体も小型化は必要です。そのため、従来のフラットなプレーナ型から、小型化しやすいトレンチ型への変更が進んでいます。
MOSトランジスタは主にデジタルおよびアナログ回路の制御に使用され、低電力および中電力アプリケーション向けです。一方、パワー半導体は電力制御および高電力アプリケーション向けであり、電力変換装置や電力供給などの用途で重要な役割を果たします。
SiC事業の市場シェア
2021年の時点でのSICパワー半導体の市場シェアは、1位がSTMicroelectronicsで40%、2位がInfineon Technologiesで22%です。これらの企業は欧州の代表的な企業で、合わせて全体の62%の市場シェアを持っています。
オンセミは5位、シェアは7%にとどまります。
SICパワー半導体はまだ市場への進出が始まったばかりですが、現在はマイクロエレクトロニクスがテスラにSICの半導体を供給していることから、最も市場シェアを握る形を持っています。
半導体各社の動向については、以下の記事でも解説しています。
SiCというのは、「炭化ケイ素」とも呼ばれる炭素とシリコンの化合物です。このSiCは、次世代のパワー半導体として注目されています。
炭化ケイ素(SiC)チップは、通常のシリコンベースのチップよりも高い電圧、温度、周波数で動作することができます。
具体的には、SiCを使ったパワー半導体素子(パワー素子)をコンバーターやインバーターなどの電力変換器に適用すると、従来のSiよりも電力損失を大幅に削減することができます。SiCは高温でも動作することができ、小型化にも向いています。
SiCはまだまだコストが高いため、普及には課題があります。しかし、これらの課題は解決に向かっていて、将来的には電気自動車などで一気に利用されることが予想されています。また、エネルギーインフラや再生可能エネルギー、鉄道、産業機器など、高出力や高耐圧が求められる分野でもSiCの利用が進んでいくでしょう。
まとめ
炭化ケイ素(SiC)を利用したパワー半導体素子の需要は急速に成長しており、オンセミはその成長に積極的に取り組んでいます。特に電気自動車やエネルギーインフラなどの分野での採用が進んでおり、SiC市場のシェアを着実に拡大していく戦略をとっています。
オンセミは買収を通じて垂直統合型のビジネスモデルを実現してきており、今後も注目が必要な企業です。
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