今後もテスラはSTマイクロをSiCのサプライヤーに選ぶのか?

テスラ

テスラは2017年、STマイクロエレクトロニクスのSiCパワーデバイスをモデル3に採用しました。SiCパワーデバイスは、電気モーターの電力変換に用いられるインバータの性能向上に貢献、モデル3の航続距離改善に貢献しました。自動車業界で初めて大々的に採用されたSiC技術は、STマイクロエレクトロニクスによって提供された技術でしたが、近年は他のパワー半導体メーカーもSiC市場に乗り込んできています。

モデル3投入から数年、テスラは今後もSTマイクロエレクトロニクスの技術を採用し続けるのでしょうか。

STマイクロエレクトロニクスとは

STマイクロエレクトロニクスは、世界中に事業所を持つパワー半導体(パワーデバイスとも)を製造する企業で、本社はスイスのジュネーヴにあります(法人登記はオランダのアムステルダムです)。STマイクロは炭化ケイ素(SiC)パワーデバイス製品で世界シェアの40%(2021年)を占めています。

SiCパワーデバイスは、従来のSi(シリコン)パワーデバイスと比べて電力の損失が少ないため、電気自動車(EV)の航続距離を伸ばすことに役立ちます。また、耐圧600~6500kVといった中程度の耐圧から高耐圧の利用にも適しています。

STマイクロエレクトロニクスは、自社で半導体のウェハ工場を所有・運営しており、製品の製造も自社で行っています。

STマイクロエレクトロニクスはテスラにSiCを供給

テスラモデル3(テスラ公式より)

テスラは、「モデル3」のSiCデバイスにSTマイクロエレクトロニクスの製品を採用しています。

モデル3のインバータに用いられるSTマイクロのSiCモジュール

このSiCデバイスは、テスラがモデル3を発売した時に初めて自動車分野に大々的に導入されたもので、テスラのインバーターモジュールには48個ものSiCデバイスが使われています。

SiC は充電電圧と電流を大幅に増加させることで、テスラのバッテリーを0%から完全充電するまでの時間を、60分から30分に短縮できます。

STマイクロにとってのSiCモジュールの顧客にはテスラだけではありません。BYD、ヒュンダイ、BMWグループ、ルノー、リビアン、小鵬汽車(Xpeng)、吉利汽車(Geely)、長城汽車(Great Wall)などが挙げられます。自動車メーカーだけでなく、大手サプライヤーである仏ヴァレオ(Valeo)、米ボルグ・ワーナー(BorgWarner)、仏エルドール(Eldor)にも供給しているとされています。

テスラは今後も継続して採用する可能性が高い

STマイクロエレクトロニクスのSiCパワーデバイスは、今後も継続して利用される可能性が高いです。STマイクロエレクトロニクスは、新しいSiC MOSFETを提供しており、テスラがこれに満足していると言われています

STマイクロエレクトロニクスは、意図的にSiC MOSFETの価格を下げていません。意図的にSiC MOSFETの価格を下げないのは、SiCの需要が供給を上回り続けており、数年は需要が見込めることが最大の理由です。

一方のテスラは、コスト削減の一環として将来的にSiCの使用量を75%削減すると宣言しています。ただ、STマイクロが値下げに応じるとは考えにくいのが現状です。

技術的な観点から言うと、コストを下げるためにはSiCの歩留まりの低さを改善し、設備投資をして供給能力の不足を解決しなければなりません。これはすぐに解決する問題ではなく、テスラの目論むコストカットが予定通り進むかどうかは疑問符が付きます。

テスラのインバーターは改善余地が大きい

テスラモデル3のインバータ制御基板

テスラのインバーターにはまだ改善の余地がたくさんあります。現在のテスラのインバーターは2017年の設計のままで、現在も同じものが搭載されて販売されています。2017年以降、テスラを除く他社のSiCデバイスの設計は大きく進歩しており、最新のデバイスでは必要な部品の数が少なくなるなど、小型・高効率になっています。

テスラのモデル3、Y、S、Xのインバーターに使用されているSiC半導体は古い世代のもので、電流密度が低いものが用いられています。他社のSiCモジュールは一般的に100Aの定格電流であるのに対して、テスラのSiCモジュールは50Aであり、同じだけの電流を流すには他社よりも50%大きいデバイスが必要です。

STマイクロエレクトロニクスは小型化と部品の削減に取り組んでおり、さらに高性能なSiCチップの開発と、製品の低コスト化が期待されています。

STマイクロの性能向上の方向性

STMicroelectronics は、SiC MOSFET のサイズを縮小することに努めています。業界関係者によると、STの第3世代SiC MOSFETの表面積は第2世代の25%で、これは75%の縮小を意味します。テスラが SiC 使用量の削減を発表したとき、本当に言及したのは STMの技術進歩ではないかとの憶測もありました。

SiCモジュール(特にMOSFET)は、次の10年の電気自動車の電力エレクトロニクスの中で最も注目される技術です。SiCパワーデバイス市場は過去5年間で着実に成長してきましたが、2024年から更に拡大すると予測され、Yole Développementのレポートによれば2027年には2021年比で6倍に成長するともされてます。

その他の供給先との関係

STマイクロエレクトロニクスは、大手自動車部品メーカーのZFとも協業しています。

ZFは、STマイクロエレクトロニクスが製造するSiCパワーデバイスを利用し、2025年から欧州の自動車メーカー向けの車両に搭載する予定です。そのため、STマイクロエレクトロニクスはZFに多くのSiC MOSFETを提供する予定で、数千万個も販売することになります。

STマイクロエレクトロニクスはルノーとも提携し、2026年から生産する電動車両に、STマイクロエレクトロニクスが製造するSiCパワーデバイスが搭載される予定です。

ウェハのトレンド

従来のシリコンのIGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)の製造では200mmの基板が主流でした。300mmの基板での生産も始まっていますが、まだ多くはありません。

一方、SiC材料については、現在は口径150mm(6インチ)のウェハが主流です。欧州企業が24年までに200mmのウェハを使って量産を行う予定で、生産性が向上し、コストが大幅に削減されると言われています。

STMマイクロエレクトロニクスも、200mmのSiC基板を積極的に導入する計画があります。24年までには量産工程に適用することを目指しており、150mm基板と比べて1.8~1.9倍の良品チップを作ることができるとされています。

パワー半導体の最大手で、STマイクロの競合でもあるある独Infineon Technologies(インフィニオン テクノロジーズ)も、25年に200mmのSiC基板を使ってSiCパワー素子を量産する予定です。

パワー半導体以外の製品も開発する

STマイクロエレクトロニクスはパワー半導体だけでなく、車の中の監視用のカメラの開発にも取り組んでいます。このカメラでは、ドライバーだけでなく、車の中の全体を監視することで、車の安全性や快適性をより良くすることを目指しています。

まとめ

STマイクロエレクトロニクスは、世界中の自動車メーカーとの協業を通じて、革新的なパワーデバイス技術の普及を推進しています。特にSiCパワーデバイスの活用によって、電気自動車の性能と効率を向上させ、持続可能なモビリティの実現に貢献しています。

STマイクロの革新的な技術は、自動車産業だけでなく、さまざまな産業においても大きな影響を与えることが期待されています。

関連記事

テスラ
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

Montenegro Hasimotoをフォローする
シェアする
橋本総研.com

コメント

タイトルとURLをコピーしました