中国の電池大手CATLは「麒麟電池」と呼ばれる技術を用いて、EVの航続距離を伸ばしています。
この記事では、「麒麟電池」とは何か、その技術のメリット・デメリットと、搭載されている車種について紹介します。
CATLとは
CATL(Contemporary Amperex Technology Co. Limited)は中国の電池製造会社で、主に電気自動車(EV)向けのリチウムイオン電池を製造・供給しています。中国のEVメーカーへの供給だけでなく、世界的な自動車メーカーにもその製品が採用されており、EV電池の大手として知られています。
ハイエンドEV向けの「麒麟電池」を発表
2022年7月、CATLは新型バッテリー「麒麟電池」(英語名:Kirin Battery)を公開し、2023年に量産開始しました。これはCTP(Cell to Pack)技術を採用したハイエンドEV向けのバッテリーパックで、EVの航続距離を大幅に伸ばすことが期待されています。
麒麟電池は何が凄いのか
「麒麟電池」は、CATLがリリースした第3世代のCell-to-Pack(CTP)技術を採用したモジュールレスのバッテリーパックです。麒麟電池によって実現できるメリットは以下のようなものがあると考えられます。
- 高いエネルギー密度:パックのエネルギー密度を、ハイパフォーマンスの三元系電池で255Wh/kg、安価なリン酸鉄リチウム(LFP)電池を用いても160Wh/kgまで高めることができ、航続距離は1,000kmを実現できます。
- 高い体積利用率:バッテリーパックの体積利用率が72%に達し、車両のスペースを効率的に活用します。
- 高速充電対応:セルの大型表面冷却技術を採用し、5分間でバッテリーの加温が可能(緊急再起動機能)、10分間で80%までの急速充電に対応します。
- 高出力化:テスラなどのバッテリーに用いられる円筒4680バッテリーと同等サイズのバッテリーパックで比較すると、麒麟電池は4680バッテリーと比べて13%の高出力化を実現します。
麒麟電池の構造
麒麟電池は、角形のバッテリーセルを複数搭載した電池パックです。
従来の電池セルは、セルのまま電池パックになるわけではありません。
モジュールと呼ばれる単位にパッキングされ、複数のモジュールを電池パックに収める構造になっています。
麒麟電池は、電池セルを直接電池パックに収めることで、モジュール化する際に失われるスペースを有効活用する狙いがあります。
このように、セルを直接パックに収める方法を「Cell to Pack」と呼びます。
Cell to Pack(CTP)の技術により、バッテリーパックの体積利用率が72%に達し、車両のスペースを効率的に活用できるようになります。
同じ搭載スペースに多くの電池を積むことができるようになると、EVの航続距離を大きく伸ばすことができるようになります。
デメリット
CTP方式にはいくつかのデメリットも存在します。セルがモジュール化されないため、安全性の面での懸念があります。モジュールには電池の過充電や過熱を防止する保護回路やバッテリーマネジメントシステムなどの安全性を確保する機能が組み込まれていましたが、CTP方式ではこれらの機能パック全体として設計されるため、より高度な設計が必要となります。
また、セルを直接パックに接合するため、リサイクル時に取り外しが困難となる可能性もあります。モジュールでの設置であれば、モジュール単位での解体で済むものが、パックのような大物を解体するには特別な設備が必要になるなど、リサイクルの課題も浮上しています。
既に供給を開始
「麒麟電池」は既に供給が開始されており、その主な顧客は中国の自動車メーカーです。以下で、麒麟電池を搭載した車種について紹介します。
Zeekr 009
中国のEVメーカーである吉利汽車ホールディングスが所有する高級電気自動車ブランド「Zeekr」が最初の世界量産モデルにこのバッテリーを採用しています。Zeekrの中大型MPVである「Zeekr 009」は140キロワット時 (kWh) のCATL Qilin バッテリーを搭載し、CLTCテストサイクルでの航続距離は511マイル (822 km) に達しています。
これはMPVとしてはかなり強力な数字であり、航続距離に関するユーザーの不安を大幅に解消するものとなっています。また、Zeekr 009には116kWhバージョンも存在し、航続距離は436マイル(702km)となります。
Zeekr 001
Zeekr 001モデルの新バージョンにも麒麟電池が採用されています。
Zeekr 001は、約1,000 kmの航続距離を提供するとされており、100kWh~140kWhバッテリー容量まで、2つのバッテリー容量構成から選択できます。
Ceres Aito
CATLは中国のEVメーカーであるセレス(Ceres)との5年間の長期戦略的協力協定も発表しました。
セレス社の新しいプレミアムEVブランド「Aito(アイト)」に、麒麟電池システムを使用する予定とされています。セレスのAitoはファーウェイが支援することでも知られ、市場での展開が期待されています。
Li Auto Mega
中国新興自動車メーカーのLi Autoは、自社として初めてのEVに搭載する電池に麒麟電池を選択しています。
なお、日本での販売はないと考えられます。Li Autoは中国国内での事業に専念しており、グローバル拡大を目指すNioやXPangとの戦略の違いも垣間見えます。
Li Autoについては、以下の記事でも紹介しています。
まとめ
CATLの「麒麟電池」の登場により、中国の電動車産業はますます成熟し、世界の電動車市場においても大きな影響を及ぼすことが予想されます。
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