2021年7月、IBMの量子コンピュータが日本で稼働開始するというプレスリリースが行われました。
実用に近づく量子コンピュータについて、国内の特許情報から、先行する企業・メーカーを調査しました。
当初、IBM一強ではないかと想定していましたが、IBMを超える特許出願を行っている企業も存在しました。
日本での特許出願数

国内特許について、j-platpatにて「量子コンピュータ」をキーワードに検索。
特許出願数は、上位から
・IBM
・NTT
・クコ― PTY Ltd.(2005年以降出願なし)
・Honeywell International, Inc.
・D-WAVE systems inc
・東芝
・日立製作所
・beijing baidu netcom science and technology co. ltd
・QunaSys
・富士通
であり、国内特許ではIBMが最多で、現状のトップランナーであることが分かります。
特許出願数の推移

国内特許出願数の推移をみると、IBMは20年以上特許を継続的に出願しており、ここ5年でさらに特許数を伸ばしています。
また、2020年代に入ってから特に特許数を伸ばしている企業は注目に値します。
・IBM
・Honeywell International, Inc.
・beijing baidu netcom science and technology co. ltd
・QunaSys
これら企業の特徴を簡単に説明します。
Honeywell International, Inc (ハネウェル)は、2020年6月頃から、量子コンピュータSystem Model H0を一般提供しています。2021年にはそのアップグレード版であるSystem Model H1も発表しています。
beijing baidu netcom science and technology co. ltd は、名前にもあるように中国バイドゥ(baidu)の科学技術研究機関です。Baiduは世界最大のインターネット企業の一つであり、”中国のGoogle “と呼ばれることもあります。
Baiduは量子ビットのハードウェア実装に関する特許を出願しており、実用的な特許を日本でも押さえておきたいという動きが見えます。2021年に3件の特許公開があり、今後も重要な特許を押さえてくると考えられます。
QunaSysは東京大学発のベンチャー/スタートアップで、量子コンピュータを実装するための技術やソフトウェアの開発、化学計算による産業界の課題の解決を推進しています。
メルカリの量子コンピュータ特許
興味深いことに、メルカリやデンソーといった企業も量子コンピュータ関連特許を出願しています。
メルカリは、ロボットアーム等、ロボットの姿勢が所定の条件を満たすような関節の角度を量子コンピュータに探索させる探索装置として出願、2021年に公開しています。
現在のメルカリのビジネスとは遠いように思われるかもしれませんが、メルカリが梱包・配送に関わるビジネスである事を考えれば、この特許を出願する意味も見えてきそうです。
海外特許の出願数

Google Patentsにて、国際特許出願状況を調査しました。
国際特許を見ると、IBMを上回る特許出願を行う企業が複数存在することがわかります。
・D-Wave Systems Inc.
・(Affectiva, Inc.)
・Intel Corporation
などがIBMを上回る特許出願を行っています。
Affectiva, Incは、直接量子コンピュータ開発にかかわる企業ではなさそうです。ディープラーニングに関する特許について「invention could include an optical computer, quantum computer」といったように、量子コンピュータで実装した場合にも適用されるよう特許出願しているため、検索結果に含まれています。
そのほか、以下のような企業が特許出願リストに続きます。
・Microsoft Technology Licensing, Llc
・Pure Storage, Inc.
・Northrop Grumman Systems Corporation
・Kabushiki Kaisha Toshiba(東芝)
・The Mathworks, Inc.
海外特許出願数の推移

特許出願数の推移をみると、2013年以降、急激に特許出願数が増加していることがわかります。
各企業に注目すると、2019年以降にIBMの特許出願数が増加している一方、Intelは減少しています。
IBMを超える企業は?
単純に累計数でみるとIntelがIBMに勝るように見えますが、現在最も勢いのある企業はIBM, D-waveと考えられ、特にD-waveはIBMを超える特許出願数を誇ります。
量子コンピュータを初めて商用化したカナダのD-waveが実用的な特許を多く握っているとも考えられます。
参考:論文数の比較

論文の発行状況についても同様に調査しました。Scopusにて、”quantum computer”をキーワードに論文数の推移を調査。
特許と異なり、基礎研究を企業がどの程度行っているのかをみる指標にできます。
論文は大学が発行していることが多く、今回は大学や公的研究機関を除いたランキングを作成すると、
・NTT
・IBM
・Microsoft Research
・Google
・東芝
といった大企業が並びます。
NTT、Microsoft ResearchとGoogleは、特許検索では名前が出てきませんでしたが、研究対象としての量子コンピュータ研究は行っている模様で、いずれも研究成果を論文やプレスリリースで発表しています。
特許で見えない注目すべき企業もいくつか押さえておく必要があるように思います。
まとめ
まとめると、特許数・論文数から判断するに、企業レベルで先行して量子コンピュータ開発で先行しているのは、
・D-wave
・IBM
であり、今後さらにプレイヤーが増えていくものと考えられます。
産業界が注目し始めている量子コンピュータですが、まだまだ先進技術の枠を出ていないのが大方の見方です。
国内から見るとIBM一強と思われがちですが、Googleが量子コンピュータの研究開発拠点を立ち上げるなど、国際的には群雄割拠の様相を呈しています。
一方で、ハードウェアの制御が非常に困難な量子コンピュータは、先行者利益が大きいとも考えられるため、早くから動き出している企業にまずは注目し、今後も情報収集をしていきたいところです。
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