2021年7月、IBMの量子コンピュータが日本で稼働開始するというプレスリリースが行われました。量子コンピュータは、近年着実に実用化に近づいています。
本記事では、国内の特許情報から、先行する企業・メーカーを調査した結果を紹介します。当初、IBM一強ではないかと想定していましたが、IBMを超える特許出願を行っている企業も存在しました。
海外の状況
まず、海外での「量子コンピュータ」に関する特許出願数と、その推移を紹介します。
海外での特許の出願数
Google Patentsにて、国際特許出願状況を調査しました。国際特許はIBM一強の様相を呈しています。
海外での特許出願数の推移
特許出願数の推移をみると、2018年以降、急激に特許出願数が増加していることがわかります。
各企業に注目すると、2019年以降にIBMの特許出願数が増加しており、現在最も勢いのある企業はIBMと考えられます。
論文数の比較
論文の発行状況についても同様に調査しました。特許と異なり、企業での研究の実態を測る指標にできます。論文は大学が発行していることが多く、営利企業のみでランキングを作成すると、以下のようになります。
ランキングには大企業が並んでいます。
NTTとMicrosoft Researchは、特許検索では名前が出てきませんでしたが、量子コンピュータ研究は行っている模様で、いずれも研究成果を論文やプレスリリースで発表しています。
特許で見えない注目すべき企業もいくつか押さえておく必要がありそうです。
日本国内での状況
日本国内での量子コンピュータ関連特許の出願状況や推移を見てみます。
日本での特許出願数
国内特許についてj-platpatにて「量子コンピュータ」をキーワードに検索。特許出願数ランキングは、上位から以下の通りです。
国内特許ではIBMが最多、現状のトップランナーであることが分かります。
日本での特許出願数の推移
国内特許出願数の推移です。
IBMは、20年以上前から量子コンピュータ関係の特許を出願しており、直近でも継続的に量子コンピュータ関連の特許を出願しています。ここ5年でも、さらに特許数を伸ばしていることがわかります。
近年、特許出願の多い企業
また、2020年代に入ってから特に特許数を伸ばしている企業は注目に値します。
これら企業の特徴を簡単に説明します。
IBM
国内で量子コンピュータ特許1位であるIBMは、量子コンピューティングの研究開発に多額の投資を行っています。27量子ビットの「IBM Quantum System One」を皮切りに、より強力なマシンを次々に発表しています。
また、IBMは、クラウドベースのプラットフォーム「IBM Quantum Experience」も開発しており、最大65量子ビットの量子コンピュータにアクセスすることができます。
IBMは、世界中のパートナーと協力し、国家規模の量子エコシステムを構築しています。今後、量子コンピューティングの分野が進化を続ける中、IBMや他の企業がどのような新しい技術を打ち出してくるのか、注目されています。
Honeywell International, inc
国内で8位の特許数を誇るHoneywell International, Inc (ハネウェル)は、2020年6月頃から、量子コンピュータSystem Model H0を一般提供しています。
2021年にはそのアップグレード版であるSystem Model H1も発表しています。
beijing baidu netcom science and technology co. ltd
国内特許数9位のbeijing baidu netcom science and technology co. ltd は、名前にもあるように中国バイドゥ(baidu)の科学技術研究機関です。Baiduは世界最大のインターネット企業の一つであり、”中国のGoogle “と呼ばれることもあります。
Baiduは量子ビットのハードウェア実装に関する特許を出願しており、実用的な特許を日本でも押さえておきたいという動きが見えます。2021年に3件の特許公開があり、今後も重要な特許を押さえてくると考えられます。
日立製作所
日立製作所は、量子コンピュータ分野においても独自の技術開発を進めています。2019年には、同社の量子コンピュータ研究開発チームが、自社の量子コンピュータ技術で、2つの素因数の積を分解する「ショアのアルゴリズム」を実行することに成功し、注目を集めました。
日立製作所の量子コンピュータは、超伝導回路を用いた「ワンウェイ量子コンピュータ」と呼ばれる方式を採用しています。この方式は、量子ビットを繋ぐ「量子エンタングルメント(絡み合い)」と呼ばれる現象を利用し、量子ビットを計算に用いる方法です。日立製作所のワンウェイ量子コンピュータは、冷凍庫に設置された複数の超伝導回路からなる量子ビットを用いて、量子コンピューティングを実現しています。
QunaSys
国内特許数5位のQunaSysは東京大学発のベンチャー/スタートアップで、量子コンピュータを実装するための技術やソフトウェアの開発、化学計算による産業界の課題の解決を推進しています。
Pick up:メルカリの量子コンピュータ特許
興味深いことに、メルカリやデンソーといった企業も量子コンピュータ関連特許を出願しています。
メルカリは、ロボットアーム等、ロボットの姿勢が所定の条件を満たすような関節の角度を量子コンピュータに探索させる探索装置として出願、2021年に公開しています。
現在のメルカリのビジネスとは遠いように思われるかもしれませんが、メルカリが梱包・配送に関わるビジネスである事を考えれば、この特許を出願する意味も見えてきそうです。
まとめ
まとめると、特許数・論文数から判断するに、企業レベルで先行して量子コンピュータ開発で先行しているのはIBMであり、今後さらにプレイヤーが増えていくものと考えられます。
産業界が注目し始めている量子コンピュータですが、まだまだ先進技術の枠を出ていないのが大方の見方です。
国内から見るとIBM一強と思われがちですが、Googleが量子コンピュータの研究開発拠点を立ち上げるなど、国際的には群雄割拠の様相を呈しています。
一方で、ハードウェアの制御が非常に困難な量子コンピュータは、先行者利益が大きいとも考えられるため、早くから動き出している企業にまずは注目し、今後も情報収集をしていきたいところです。
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