量子コンピュータ開発の現状と全世界での主要プレイヤーの一覧

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量子コンピュータは、科学、技術、産業の多くの分野で革命を起こす可能性を秘めた技術です。

古典的なコンピュータを超えるスピードとスケールで複雑な問題を解決できることから、量子コンピューティングは世界中の企業や組織から大きな注目を集めています。

本稿では、量子コンピュータ開発の現状と、世界の量子コンピュータ産業における主要プレイヤーを紹介します。多国籍企業からスタートアップまで、量子コンピュータの発展を牽引し、その未来を形作る組織を紹介します。

量子コンピュータのトップランナー

量子コンピュータの開発は競争が激しく、常に進化しているため、特定の企業を「トップランナー」として挙げることは困難です。量子コンピュータの開発と商業化における主要なプレイヤーは以下のようなリストに挙げられる企業群です。

  • IBM
  • グーグル
  • マイクロソフト
  • アリババ
  • インテル
  • リゲッティ・コンピューティング
  • Quantinu(ハネウェル)
  • ザナドゥ
  • PsiQuantum
  • サパタ・コンピューティング

IBMが量子コンピュータで先行していることはよく知られています。

開発企業機器名称量子ビット数稼働年
GoogleSycamore542019年
IBMOsprey4332022年
富士通・理研642023年
ここで取り上げる量子ビットは量子ゲート方式の量子コンピュータを指す

QV(Quantum Volume(量子ボリューム))や量子ビット数が、量子コンピュータの性能のひとつの指標になります。量子ビット数の観点ではIBMが最も進んでおり、QVでも IBMの量子コンピュータは高い性能を誇ります

以下の記事では、量子ビット数やQVについて詳しく解説しています。

出願数の推移でみてもIBMが多く、マイクロソフトが追従している

特許数で見てもIBMは先行しており、量子コンピュータ開発の最前線を進んでいるのは IBMではないかと考えられます。以下の記事では、量子コンピュータ関連特許の出願数を調査した結果を紹介しています。

以下で、量子コンピュータを扱う企業各社について紹介します。

IBM

IBMは、量子コンピュータの開発・普及に力を入れている企業の1つです。IBMは、クラウドサービス「IBM Quantum Experience」を提供しており、これを用いて量子アルゴリズムを開発し、量子コンピュータを操作することができます。また、IBMは「Qiskit」というオープンソースのフレームワークを開発し、これを用いて量子アルゴリズムを開発することができます。

Google

Googleは、量子コンピューティングの分野において、研究開発に多大な投資を行っている企業の一つです。Googleは、超伝導量子ビットを含む量子ハードウェアと、量子コンピュータのソフトウェアの開発に重点を置いています。

2019年にグーグルが開発した量子コンピュータが、現在のコンピュータよりも計算能力が高い「量子超越性」を達成したことでも注目されました。

Googleの量子コンピュータ研究開発については、以下の記事で詳しく解説しています。

マイクロソフト

Microsoftは、2021年に「Microsoft Quantum」というブランド名で量子コンピュータ開発プログラムを立ち上げました。Microsoft Quantumは、量子コンピュータのハード、ソフト、ツールを提供することを目的としています。

Microsoftは、量子アルゴリズムを設計するための「Q#」というプログラミング言語を開発し、これを用いて量子アプリケーションを開発。「Azure Quantum」というクラウドサービスを提供していて、これを使って開発者が量子アプリケーションをテストおよび実行することができます。

アリババ

Alibaba Groupは、中国を代表する大手IT企業です。量子コンピュータに関する詳細な情報は公表されていませんが、Alibaba Groupは量子コンピュータの研究・開発に力を入れていると考えられており、将来的に量子コンピュータ関連のサービスやソリューションを提供する可能性があります。

インテル

インテルは大手半導体メーカーであり、近年量子コンピュータに関する研究・開発にも力を入れています。

インテルは、量子コンピュータのなかでも、既存の半導体技術の応用で開発される「半導体方式(シリコン量子ドットとも)」に注力しています。IBMやGoogleの採用する超電導方式とは異なるものですが、量子ビットを高密度で集積できる可能性があり、注目されている技術でもあります。

Rigetti Computing

米Rigetti Computingは量子コンピュータを中心としたクラウド・インフラストラクチャ・サービスを提供しており、量子アルゴリズムの開発・実行、量子ソフトウェア・ツールの開発・提供などを行っています。

GoogleやIBMと同じく超電導方式の量子コンピュータを開発している企業としてよく知られています。

Quantinu(旧Honeywell(ハネウェル))

Quantinu(旧Honeywell(ハネウェル))は、量子コンピュータの開発・製造に積極的に取り組んでいる米国の企業です。

Quantinuは「イオン方式」と呼ばれる、量子に電子ではなくイオンを用いる方法を研究開発しています。イオン方式は、GoogleやIBMの採用する「超電導方式」とも、インテルの「半導体方式」とも異なる手法で、イオンに電場をかけて操作する方式です。

イオン方式は非常に高い精度で計算できることがメリットの一つで、「超電導方式」や「半導体方式」と比べても、最も高い精度で計算が可能です。デメリットとして、量子ビットの数に制限があり、一部の演算に制限がある(量子版XORなどが不向き)ことが挙げられます。

Quantinuの量子コンピュータは、化学、金融、物流などの分野で複雑な問題を解決することを目的とした商用利用を想定しています。

Quantinuumは、Cambridge Quantum Computing(CQC)と量子コンピューティングに特化したハネウェルの一部門であるHoneywell Quantum Solutionsの合併に伴い、2021年に設立されました。世界最大級の量子コンピューティング企業となっています。

Xanadu(ザナドゥ)

Xanadu(ザナドゥ)は、カナダに本拠を置く量子技術企業で、フォトニクス量子コンピューティングを開発しています。

フォトニクス方式の量子コンピュータは、GoogleやIBMの採用する「超電導方式」とも、インテルの「半導体方式」とも、Quantinuの「イオン方式」とも異なる方式で、低温での操作が必要ないため必要な電力が少ないとされます。従来の半導体の製造技術が活用できるため、高集積化が期待できます。

他方式ほど確立された技術がないため、まだ基礎研究の段階に近いと考えられますが、技術的ブレイクスルーが実現し、一気に主流になる可能性もあります。

PsiQuantum

PsiQuantumも、Xanaduと同じくフォトニクス量子コンピューティングを扱う米国企業です。その拠点はシリコンバレーにあります。

シリコンチップ上にパターン化されたフォトニック回路を構成して、量子として光子(光の粒子)を操作します。回路構成には、従来の半導体製造プロセスを活用できるとされています。

企業規模としては、PsiQuantumは約150人の従業員を持ち、ほとんどがシリコンバレーにいます。PsiQuantumの評価額は約31億ドルとされており、これまでに数回の資金調達ラウンドを実施してきました。

現在のところ、PsiQuantumはまだ機能する量子コンピュータを持っていないこと、また、光子検出器の効率などに関連する技術的な課題が挙げられます。さらに、このような大規模なプロジェクトには膨大な資金が必要であり、特に半導体製造プロセスの開発や改良には高いコストがかかります

Zapata Computing

米Zapata Computingは、2018年に設立されたアメリカの量子コンピューティング企業です。同社は、量子コンピュータのソフトウェア開発に注力し、ソフトウェアに加えて、超伝導量子ビットをベースとした独自の量子ハードウェアの開発にも取り組んでいます。

Zapata ComputingのプラットフォームであるOpenFermionは、量子化学シミュレーションのためのオープンソースライブラリで、ユーザーは量子コンピュータ上で材料シミュレーション(分子系)を行うことができます。

また、同社はOrquestraプラットフォームと呼ばれる、量子開発とシミュレーションのためのクラウドベースのプラットフォームを提供しており、ユーザーがZapata Computing社の量子コンピュータやサードパーティの量子コンピュータ上で量子アルゴリズムやシミュレーションを実行できるよう、ウェブベースのインターフェイスを提供しています。

量子コンピュータとは

量子コンピュータとは、量子力学を利用してデータの保存や処理を行うコンピュータの一種です。ビットを使って情報を表現し、計算を行う古典的なコンピューターとは異なり、量子コンピューターでは、同時に複数の状態で存在することができる量子ビットを使用します。量子ビットは同時に複数の状態を取り出せる(量子並列計算)ため、特定の計算を高速に行うことができます。

量子コンピュータは、暗号技術、化学、機械学習など、古典的なコンピュータでは解決できない複雑な問題を解決できる可能性があります。しかし、まだ開発の初期段階にあり、動作には超低温が必要であること、量子エラーの影響を克服する必要があることなど、技術的に大きな課題を抱えています。

量子コンピュータの分類

Googleの超電導方式の量子コンピュータ

量子コンピュータは量子ゲートを利用したもので、利用する量子や扱う手法によって分類されます。とくに量子ゲートを利用した方式での分類は以下のようになります。

方式マシンタイプ研究・開発する機関
量子ゲート方式
(盛んに研究される)
超電導IBM、Google、Rigetti、Quantum Circuits、アリババなど
フォトニクスXanadu Quantum Computing
PsiQ
シリコン量子ドット
(半導体方式とも)
インテル
Silicon Quantum Computing
イオントラップIonQ
Quantinu(旧ハネウェル)
トポロジカルマイクロソフト
光パルス東京大学

超電導方法の量子コンピュータは、高度に制御された環境下での実行が必要ですが、高速な計算が可能です。IBMやGoogleなどのトップランナーが採用している方式で最も注目が集まっています。

量子コンピュータの分類については、以下の記事で詳しく解説しています。

量子コンピュータを解説する記事で、以下のような説明をよく見ます。

「量子コンピュータには、ゲート型とアニーリング型の2種類あります。ゲート型はあらゆる計算ができる汎用的な量子コンピュータで、アニーリング型は組合せ最適化問題を解くのに特化した量子コンピュータです。」

この説明は、あまりに色々な記事で登場しますが、実は専門家の認識はかなり違います。世界中で、「量子コンピュータはゲート型とアニーリング型の2種類」と言っているのは日本だけです。量子アニーリングマシンのことを量子コンピュータと呼ぶ専門家もほぼ皆無で、通常アニーリングマシンは量子コンピュータとは別のものとして扱われます。

量子コンピュータの課題

量子コンピュータはまだ開発の初期段階にあり、広く普及させるためにはいくつかの大きな課題に直面しています。量子コンピュータが直面する主な課題には、以下のようなものがあります。

量子ビットの安定性

量子ビットは量子コンピュータの構成要素ですが、エラーや不安定性が高く、コンピュータの動作に支障をきたす可能性があります。量子ビットの安定性を高め、エラーを減らすことが重要な課題となっています。

スケーラビリティ(拡張性)

現在、量子コンピュータは数個の量子ビットを搭載していますが、複雑な計算を行うためには、さらに多くの量子ビットを搭載する必要があります。安定性と誤り訂正を維持したまま、量子ビットの数を増やすことは、量子コンピュータの開発における大きな課題です。

誤り訂

量子コンピュータの信頼性を高めるためには誤り訂正が重要ですが、そのためには大量の量子ビットが必要であり、複雑なプロセスです。効率的かつ効果的な誤り訂正方法の開発は、量子コンピュータの大きな課題です。

ソフトウェアとアルゴリズム

量子コンピュータの計算には、専用のソフトウェアとアルゴリズムが必要です。量子コンピュータをより多くの人に利用してもらうためには、これらのソフトウェアやアルゴリズムの開発が大きな課題となっています。

古典的な計算機とのインターフェイス

量子コンピュータは、古典的なコンピュータとは異なる計算を行うため、古典的なシステムとのインタフェースが難しくなることがあります。量子コンピュータと古典コンピュータの間の効果的なインターフェースを開発することは、量子コンピュータを広く普及させるための大きな課題です。

実用化は2030年以降

エラー訂正1%以下、量子ビット数100万を超えるのは2030年代後半あるいは2040年代となる可能性がある

量子コンピュータが、実際的な問題を解決できるようになるのは2030年以降であるとの見方が強いです。

GoogleやIBMは、10万~100万量子ビットの量子コンピュータが実現すれば、より実際の社会課題を解決することができるようになるとしています。

米IBMは、東京大学とシカゴ大学に2023年からの10年間で計1億ドルを投資すると発表しています。IBMのアービンド・クリシュナCEOは、10万量子ビットを搭載した量子コンピューターを2033年までに実現するとの目標を表明しています。

これらのことからも、より実際の課題解決に量子コンピュータが用いられるようになるのは、2030年以降であると考えられます。

本記事の量子コンピュータの基礎に関する記載は、書籍「量子コンピュータが本当にわかる!」の内容を参考にしています。本書では、量子コンピュータの仕組みが、数式なしに「ざっくり」分かるようになる本です。

量子とは何か、重ね合わせとは何かなど基礎的なところから、量子コンピュータ実現にむけた具体的な研究開発内容まで触れられています。量子コンピュータに関する技術は難しい内容ですが、本書は読みやすいです。量子コンピュータについて学びたい方が最初に読む本としておすすめできます。

まとめ

量子コンピューティングの分野は急速に発展しており、世界中のさまざまな企業や組織から多大な投資と注目を集めています。

主な企業としては、IBM、Google、Microsoft、Alibaba、Intel などの多国籍企業や、Rigetti Computing、Honeywell、Xanadu、PsiQuantum、Zapata Computing などの中小企業などが挙げられます。

量子コンピュータが、科学技術における新たなブレークスルーを起こすことが楽しみです。

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