量子ビット数の現在の最高水準と、今後の目標値

量子コンピュータ

量子コンピュータで議論されれる量子ビット、その数が多いほど量子コンピュータの処理能力も拡大します。

では、現状の量子ビットはどの程度の数が実現しているのか、今後はどの水準を目指して開発するのか、詳しく解説します。

量子コンピュータのビット数の現状

Googleの開発した量子コンピュータ「Sycamore」(GoogleのYoutubeチャンネルより)

2023年時点での量子ビット数の最高水準は数十以上です。例えば、Googleの「Sycamore」は54量子ビットを搭載しており、IBMは433量子ビットの量子コンピュータを実用化しています。他の企業も同じような多数の量子ビットを持つ量子コンピュータを開発しています。

開発企業機器名称量子ビット数稼働年
GoogleSycamore542019年
IBMOsprey4332022年
富士通・理研642023年
ここで取り上げる量子ビットは量子ゲート方式の量子コンピュータを指す

量子コンピュータの性能は、量子ビットの数と品質が主な指標とされています。量子ビットの数が増えると、コンピュータはより複雑な問題を処理できるようになりますが、同時に量子ビット間の誤差や環境からの干渉の制御も難しくなります。

将来的には、さらに多くの量子ビットを搭載したシステムが開発されると予想されています。

各社の量子コンピュータの量子ビット数の推移(各社発表をもとに当サイト作成)

量子ビット数はこの数年で成長を続けており、今後も継続的に成長が期待されています。

しかし、実用的な問題に取り組むためには、量子ビットの数だけでなく、エラー率の低減やアルゴリズムの改善など、多くの技術的な課題も克服する必要があります。

現在の量子コンピュータは、その多くが日本でいうところの「ゲート方式」であり、電子を超電導回路上で扱う「超電導方式」で実現されています。超電導方式は汎用性と理論的な広がりが期待され、Google、IBM、Microsoftなどの大手技術企業によって、広範な研究が行われています。

量子コンピュータの方式については、以下の記事で詳しく解説しています。

量子コンピューティングのビット数の目標

Googleの定めるロードマップ(Google量子コンピュータサイトより)

最終的な量子ビット数の目標は約100万量子ビットだと言われています。

Googleの掲げる、100万量子ビットを最終的な目標とする、というマイルストーンが、実用化のひとつの目安として知られています。

最初の目標:100量子ビット

現在実現している100個の量子ビットは、量子コンピュータの基礎的な動作をテストできている段階です。この段階では、量子コンピュータがどれだけ正確に動くか(エラーが少ないか)を確認する程度で、実用的な課題解決に使える範囲は限られます。より大きな量子コンピュータにステップアップするための最初の一歩です。

ステップ2:1,000量子ビット

1000個の量子ビットがあれば、量子コンピュータは情報をもっと長く保持できるようになります。イメージとしては、スマホやパソコンのメモリが大きくなるようなものです。量子データを1年近く保存できる見込みです。この段階では、量子コンピュータの部品(配線、増幅器、フィルター、電子機器など)を小さくして、より効率的に動かすことが大事になります。

IONQは2028年までに1024量子ビットを実現する(IONQの発表資料より)

IonQ が2020年に発表したロードマップでは、2028年には1024量子ビットを実現するとしています。IBMは2025年ごろに4000量子ビットを実現すると計画しており、1000量子ビットは比較的現実的な範囲の目標です。

ステップ3:10,000量子ビット

10,000量子ビットに至ると、たくさんの量子ビットがうまく連携して、もっと複雑な計算をできるようになります。量子ビット同士が通信できれば、量子コンピュータはとても高度な計算が可能になり、科学や医療など多くの分野で大きな進歩が期待できます。

このためには、高度なクライオスタット(非常に低い温度を長期間維持するために使われる装置)が必要で、チップ間のコヒーレンスが必要であり、製造技術や制御ソフトウェアなども開発する必要があります。

クライオスタットとは

量子コンピュータの量子ビット(qubit)は、極端に低い温度でのみ正確に機能します。この低温環境は、量子ビットが外部の干渉やノイズに影響されるのを最小限に抑え、量子状態を安定させるのに役立ちます。クライオスタットは、これらの超低温を維持するために用いられます。たとえば、液体ヘリウムや液体窒素を使用して、-269°C(4ケルビン)やそれ以下の温度を作り出し、維持します。

量子ビットとは

量子ビット、または「qubit」という用語は、量子コンピューターにおける基本的な情報単位を指します。量子ビットは、従来のコンピューターで使われる「ビット」とは根本的に異なります。従来のビットは0か1のいずれかの状態しか取ることができませんが、量子ビットは量子力学の原理を活用して、0と1の状態を同時に取ることが可能です。この能力は「重ね合わせ」と呼ばれています。

重ね合わせのおかげで、量子ビットは従来のビットよりもはるかに複雑な情報を表現できます。これは、量子コンピュータが特定の種類の問題を解決する際に非常に強力なツールとなり得る理由の一つです。

もう一つの重要な量子ビットの特性は「量子もつれ」です。これは、二つ以上の量子ビットが互いに密接に関連し合い、一方の量子ビットの状態が他方に即座に影響を与える現象を指します。この相互作用は、量子ビット間での情報の共有や伝達を可能にし、量子コンピューターにおいて複雑な計算を高速に行うための基盤を提供します。

量子ビットが増えると性能は指数関数的に向上する

Googleだ2019年に導入したマシンは量子コンピューターの構成要素として53個の量子ビットを搭載していましたが、次世代デバイスは70個を搭載するとされています。

より多くの量子ビットを搭載することで、量子コンピューターのパワーは指数関数的に向上し、新しいマシンは2019年のマシンの2億4100万倍のパワーを持つことになります。

53量子ビットの量子コンピュータは253(約9.0クアドリリオン)の異なる状態を同時に表現できます。一方、70量子ビットの量子コンピュータは270(約1.2クイントリリオン)の異なる状態を同時に表現できます。処理可能な状態の数だけであれば13万倍ですが、アルゴリズムの進化など他要因も含めてグーグルは2億4100万倍のパワーを発揮すると言っているようです。

量子コンピュータの性能をQVで評価する

物理的に実装された量子ビットの数は、計算性能と直結しません。ノイズの影響を抑えるために実装された量子ビットが存在するため、実装された量子ビットがすべて計算機能を担うとも言えないためです。

量子ビット数で性能を語ることが難しくなってきていることから、IBMは量子コンピュータの性能を「QV:Quantum Volume(量子ボリューム)」という指標であらわすことを提案しています。量子ビット以外の性能を含めた、QVは、イオントラップ式の量子コンピュータとも性能の比較が可能であることから、新しい指標として注目されています。

日付Quantum volume[a]企業
2020, January2^{5} = 32IBM
2020, June{\displaystyle 2^{6}} = 64Honeywell
2020, August{\displaystyle 2^{6}} = 64IBM
2020, November2^7 = 128Honeywell
2020, December2^7 = 128IBM
2021, March{\displaystyle 2^{9}} = 512Honeywell
2021, July2^{10} = 1024Honeywell
2021, December2^{{11}} = 2048Quantinuum (旧Honeywell)
2022, April{\displaystyle 2^{8}} = 256IBM
2022, April2^{12} = 4096Quantinuum
2022, May{\displaystyle 2^{9}} = 512IBM
2022, September2^{{13}} = 8192Quantinuum
2023, February{\displaystyle 2^{7}} = 128Alpine Quantum Technologies
2023, February2^{{15}} = 32,768Quantinuum
2023, May2^{16} = 65,536Quantinuum
2023, June{\displaystyle 2^{19}} = 524,288Quantinuum

2023年6月には、QVが219となる量子コンピュータをQuantinuumが開発しています。

量子ビット以外の性能指標

量子コンピュータの評価指標は、量子ビット数だけでなく、エラー率、処理能力、および持続時間も考慮する必要があります。

エラー率は、量子ビットが情報を正確に処理する信頼性を示す指標です。低いエラー率は、量子ビットの情報処理の正確性を向上させます。

処理能力は、複雑な計算を行う能力を表します。処理能力が高い量子コンピュータは、高度な問題や計算を効率的に解決できる可能性があります。

持続時間、またはコヒーレンス時間は、量子ビットが状態を保持している時間を表します。長いコヒーレンス時間は、量子ビットの情報の保持力を高め、長期間にわたって計算を実行することができます。

これらの指標は、個別ではなく、全体として考慮する必要があります。量子ビット数だけでなく、エラー率、処理能力、および持続時間を総合的に評価することが、量子コンピュータの性能評価において重要です。

まとめ

量子コンピュータの実用化が進むことにより、革新的な解決策や効率的な計算手法が可能となり、さまざまな分野に大きな影響を与えることが期待されています。

現在の量子コンピュータの量子ビット数は、多いものでも100量子ビット前後ですが、最終的な目標は100万量子ビットと言われています。

量子コンピュータの能力は単純に量子ビット数だけで語れるものではなく、量子ビット数の拡大と共に、エラー率や、処理能力、持続時間も考慮する必要があります。今後の研究開発が期待されます。

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