水素で発電し走る燃料電池車(FCEV)、実際のところ普及するのだろうか。
FCEVの代表的車種であるMIRIAの新型が発表された当初、デザインが非常に魅力的で「これは!!」と期待に胸を膨らませた。航続距離も伸び、機能も充実、燃料電池自動車の普及が大きく進むのではないかと期待した。
ところが、2020年12月にMIRAIがフルモデルチェンジし発売、年間販売台数の目標を3万台(目標2500台/月)としているが、2020年12月の国内販売台数は実績278台/月、2021年3月は実績241台/月と大幅に下回っている。
私自身、燃料電池には深い思い入れがあり、この技術が普及することを強く願っている。ただ、厳しい現実も直視すべきだ。
なぜ、燃料電池自動車(FCEV)の普及が進まないのか。2つのシンプルな理由で説明する。
理由①インフラ整備が進まない
最もよく言われる燃料電池車の普及の課題としてインフラ整備がある。
水素ステーションを日本国内でも未だに147箇所(2021.6時点)しか整備できておらず、東名阪及び福岡などの主要都市でしか水素を充填できないのが現状だ。
マップを見ればわかるが、2019年12月から2021年6月までの1年半の間に35箇所が新たに開業しているが、それでも主要都市に集中している。
いくら航続距離が伸びたと言っても、水素ステーションの数が非常に少ない現状では移動手段としての不便さが残る。
EV の急速充電スタンドが全国で7600箇所以上設置され、自宅でも充電可能な事を考えると、(充填頻度が低いとはいえ)水素ステーションの数は絶望的に少ないと言わざるを得ない。
普及のためには、水素インフラを増やしていく必要がある。
よく鶏と卵の関係と言われるが、水素ステーションが増えないとFCEVが増えないが、逆もまたしかり、といった状況。
このジレンマは、個人的には 、FCEV がたくさん走ることによってインフラが整備されていく、という流れが自然だと考えている。次世代MIRAIの販売状況によって、今後のトレンドが決まるとも言える。
【参考】水素ステーション整備状況
cev-pc.or.jp/suiso_station/
理由②EVのデメリットが今後減る可能性がある
EV は航続距離が少なく、充電時間も長いというデメリットから、長距離移動では燃料電池車が有利とされてきた。
一方で、カーシェアと自動運転の広がりを加味すると、EVのデメリットがそこまで大きなものではなくなってきている。
自動運転車のカーシェアが実現すると、自動車を使わないときは勝手にどこかしらの充電器で自分で充電するということが可能になる。
EVのデメリットである「航続距離が短い」「充電時間が長い」などは全て解決できてしまう。
カーシェアになれば、一度に長距離の移動が必要で充電が切れるのであれば、車両を乗り換えればよい。
さらに言えば、全固体電池が実用化することにより、電気自動車の航続距離も改善される。
FCEVのメリットが減り、EVでも十分実用に耐えうるのでは、という状況が逆風となっている。
燃料電池車が普及するシナリオ
逆に、燃料電池車(FCEV)がEVよりも販売台数を伸ばすシナリオは以下のようなものがある。
Well to Wheel基準での規制導入
燃料電池車の少ないメリットとして、Well to WheelでのCO2の排出量が少ないというメリットが挙げられる。
Well to Wheelは、燃料の採掘から車両の走行までで換算した場合という意味である。
EVに供給する電気が火力発電で作られている場合、環境性能はガソリンを燃やして走る内燃機関と変わらない。
今の日本では、原子力発電を縮小しているために、EVは案外エコではない。
一方で、水素から生成した電気で走るFCEVは、完全なCO2フリーであるため環境負荷が非常に低い。
環境負荷を限りなく0に近づけるのであれば、燃料電池車を選択すべき、となる。
グローバルな規制の流れが、Well to Wheel規制に向かえば、日本でのFCEV導入の後押しとなるはずだ。
中国の水素技術導入
普及が期待できる要因の一つとして中国が挙げられる。
2019年頃から、中国の習近平国家主席がトヨタの施設に来訪するなど、水素関連技術への興味を示している。
中国には、EVだけでなく FCEV も含めた電動化技術を取り込みたいという思惑がある。
中国は国策としてインフラ整備などを進める力が非常に強く、また自動車の販売台数としても圧倒的世界一の市場を持っているため、中国国内で FCEV が流行るようなことになれば、世界的にもその波に乗ることが必要となり、 FCEV の普及が進んでいくのではないかという期待が持てる。
ただ、このシナリオが今後どう進むかは不明瞭。中国首脳陣の考えはすぐに二転三転するため、継続的に動向を注視しているかなければならない。
まとめ
私の考えをまとめると、
・燃料電池車の普及は非常にハードルが高い
・インフラ整備が進まないことが主な要因
・インフラ整備を進めるためには車両の販売が増えなければいけないジレンマ
・次世代MIRAIがどの程度販売台数を伸ばすかによって今後のトレンドが決まる
といったところ。
否定的な見解を示したが、環境負荷低減のために、EVもFCEVも技術開発と普及を進める必要があると考える。トヨタ自動車の豊田社長の話すように、市場に対して選択肢を与えることが重要だ。
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