米国の水電解、「補助金」の条件が厳しすぎる

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最近、アメリカ政府は水素エネルギーの生産を促進するための新しいルールを発表しました。ここでは、この政策がどういうものか、そしてそれが直面している課題について簡単に説明します。

米国における水素製造「補助金」の条件

バイデン政権の設けた新指針は、水素を作る企業は作った水素1キログラムにつき0.6~3ドルの税金が控除されることを規定しています。2022年に成立した「インフレ抑制法(IRA)」に基づくもので、米財務省が策定に関わっています。ただし、この補助金を得るための詳細なルールが発表され物議をかもしています、具体的には、以下のように条件が設けられています。

  1. 水素を作る電力は、新しく作られたクリーンエネルギー発電所から来ている必要があります。
  2. 電力は水素製造装置のある地域で作られたものでないといけません。
  3. 水素の生産と電力の発電は同じ時間に行われる必要がある

これらは非常に厳しいルールで、水素が「厳密にクリーンである」ことを求める規制です。

既存の太陽光・風力発電設備から電力を調達して水素を製造する場合、補助金の対象外となります。また、太陽光発電によって昼間に発電された電力を使って、夜間に水素を生産することも認められません。

なぜこのようなルールになった?

厳しいルールが設けられた理由は、環境保護団体からの強い圧力に影響を受けています。環境保護団体は、水素製造が本当に環境に良い影響をもたらすようにするために、厳しい基準の設定を求めててロビー活動を行いました。

環境保護団体の懸念は、既存の太陽光発電所からの電力を使用し、それが火力発電所の増加につながる場合、水素の製造が実質的な排出削減にはならないという点です。要するに、環境保護団体は「補助金を受けて製造する水素、完璧にゼロエミッションにしてね」と主張しているのです。

厳しい条件は水素製造の投資を減速させる

これらの厳しい条件について、業界団体の米FCHEA(燃料電池・水素エネルギー協会)は以下のような声明を発表しました。(※FCHEA電力会社や自動車メーカーが加盟する団体、日本のトヨタやホンダも加盟する)

”The guidance announced today by the Biden-Harris administration will place unnecessary burdens on the still nascent clean hydrogen industry. The nation needs common sense solutions for this tax credit that are aligned with the congressional intent to spur robust economic development and create jobs while reducing carbon emissions.”

「バイデン-ハリス政権が本日発表した指針は、まだ発展途上のクリーン水素産業に不必要な負担を強いるものである。この税額控除は、炭素排出を削減しながら、力強い経済発展と雇用の創出を促進するという議会の意図に沿った常識的な解決策が必要である。

https://www.fchea.org/press-releases Fuel Cell and Hydrogen Energy Association Statement on Release of Section 45V Credit for Production of Clean Hydrogen Guidance

水素社会が到来する以前の、いわば実証実験に近いフェーズで過剰な規制と条件を設けることは、技術開発の足かせになると主張しています。要するに、水素技術を開発する企業は「ルールが厳しすぎる」と考えているわけです。

既存の太陽光や風力発電所からの電力を利用している企業は補助金の対象外となり、新たな投資が必要になり、結果として水素の生産コストが増加します。

クリーン水素業界はまだ発展途上にあり、追加的な制約は業界の成長と技術革新を遅らせることになります。

米国の競争力をも低下させる

“The United States cannot achieve its climate goals without clean hydrogen and these proposed regulations and requirements will unnecessarily hold back our domestic industry, driving investment, manufacturing, and technology leadership overseas.”

「米国は、クリーンな水素なくして気候変動目標を達成することはできない。このような規制や要件案は、不必要に国内産業の足かせとなり、投資、製造、技術のリーダーシップを海外に押しやることになる。

米国での規制が厳しい場合、各企業は米国に投資して設備を構えることを再考し、中国や欧州、アジアなどの税制優遇のある他地域での技術開発を進めることを考えるかもしれません。

結果的に米国の競争力が下がり、目下成長している米国の水素製造ベンチャーなども息が続かなくなる危険性もはらんでいます。

どうすればいいのか

水素が完全にクリーンな電力で製造される必要があることは、水素関連製品を開発している技術者は誰しもが理解しています。一方で、技術開発の初期段階で厳しい規制を設けることは、結果的に技術の芽を摘んでしまう事にもなりかねません。

米国の環境活動家の意見は正論ですが、正論は時に技術の進歩を阻害します。米国には環境配慮と技術開発、市場開拓のバランスを考えた政策が求められます。

まとめ

水素製造は今後10年間で多くの注目を集める技術です。

水電解やPEM、SOECといった技術が徐々に実用化されていく中で、水素の製造に用いられる電力に関する規制が考えられることは「本当にクリーンな水素」を目指すうえでは自然な流れです。

一方で、完璧を求めるあまりに、技術の芽を摘んでしまっては元も子もありません。適切な妥協案を、各国が考え抜くことを望みます。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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