量子コンピュータってなに?分類を解説

量子コンピュータ

量子コンピュータが、現在主流の古典コンピュータをいずれ置き換えるだろうと考えられてます。それは2030年以降との見方が強いですが、既に多くの研究機関や企業が開発を行っており、様々な型式の量子コンピュータが生まれています。

この記事では、量子コンピュータとは何か、その型式は、実用化の目途も含めて、詳しく解説します。

量子コンピュータとは

Googleが開発する量子ゲート方式の超電導量子コンピュータ「Sycamore」

量子コンピュータとは、量子力学を利用したコンピュータの一種です。ビットを使って情報を表現し、計算を行う古典的なコンピューターとは異なり、量子コンピューターでは、同時に複数の状態で存在することができる量子ビットを使用します。量子並列計算と呼ばれるこの性質を利用して、量子コンピュータは特定の計算を高速に行うことができます。

量子コンピュータ方式の分類

量子コンピュータを分類したものが以下の表です。

方式マシンタイプ研究・開発する機関
量子ゲート方式
(盛んに研究される)
超電導IBM、Google、Rigetti、Quantum Circuits、アリババなど
フォトニクスXanadu Quantum Computing
PsiQ
シリコン量子ドット
(半導体方式とも)
インテル
Silicon Quantum Computing
イオントラップ方式
(イオン方式とも)
IonQ
Quantinu(旧ハネウェル)
トポロジカルマイクロソフト
光パルス東京大学

量子ゲート方式

量子ゲート方式の量子コンピューターには「命令」を与えるための特別なツール(量子ゲート)があります。量子ゲート方式は、コンピューターが「命令」を実行する方法に似ています。
量子ゲートは、量子ビット(qubit)と呼ばれるビット(情報の最小単位)を操作します。現在のコンピュータのビットは0か1のいずれかの状態しか持ちませんが、量子ビットは0と1の両方の状態を同時に持つことができる特別な性質(重ね合わせ)を持っています。量子ゲートを使って、量子ビットを操作し計算を行います。

量子ゲート方式の中でも、以下の3つの方式は研究が進んでおり、注目されています。

超電導イオントラップ光パルス
実装超電導回路電場・磁場によるイオンの捕捉情報処理に使われる光子
Qubitエンコーディング超電導回路の電荷・磁束状態イオンの内部状態光子の偏光または経路
計算方法マイクロ波パルスを用いた量子ゲートレーザーパルスによるイオン制御光子の干渉とエンタングルメント
柔軟性様々な量子アルゴリズムに対応可能様々な量子アルゴリズムに対応可能だが、スケールアップが困難な場合がある特定の種類のアルゴリズムに限定される
スケーラビリティ大量の量子ビットにスケールアップできる可能性がある。多数の量子ビットに拡張するのは困難である大量の光子を発生させ、操作することは困難である
エラー訂正とフォールトトレランスエラー訂正やフォールトトレランスを実装できる可能性があるエラー訂正やフォールトトレランスを実装できる可能性があるエラー訂正やフォールトトレランスを実装できる可能性がある
エネルギー消費量動作に非常に低い温度を必要とするため、エネルギーを消費する可能性がある超伝導量子コンピュータよりも低エネルギー消費超伝導量子コンピュータよりも低エネルギー消費
現在の開発状況比較的先進的で、複数の大手企業で使用されているまだ研究段階であり、取り組んでいる企業も少ないまだ研究段階であり、取り組んでいる企業も少ない
量子ゲート方式の分類

この方式のなかで「どれが主流か」を一概には言い切ることができません。現在は超電導方式が最も注目されていますが、量子コンピュータの開発はまだ「入口に立った程度」です。

最終的な目標とされる100万~1億量子ビットに対して、2024年現在の最新の研究でも100~500量子ビット程度(超電導方式でIBMやGoogleが開発)しか実現できていません。

今後、長い期間をかけて研究が進む中で、超電導方式を上回る効率・安定性で計算が可能な方式が登場する可能性もあり、どの技術が本当に主流となるのかを判断するには時期尚早すぎます。

実用化は2030年以降

エラー訂正1%以下、量子ビット数100万を超えるのは2030年代後半あるいは2040年代となる可能性がある

量子コンピュータが、実際的な問題を解決できるようになるのは2030年以降であるとの見方が強いです。

GoogleやIBMは、10万~100万量子ビットの量子コンピュータが実現すれば、より実際の社会課題を解決することができるようになるとしています(理想的には、1億量子ビットなどさらに高い能力を実現できれば、より複雑な問題を扱えるようになります)。

米IBMは、東京大学とシカゴ大学に2023年からの10年間で計1億ドルを投資すると発表しています。IBMのアービンド・クリシュナCEOは、10万量子ビットを搭載した量子コンピューターを2033年までに実現するとの目標を表明しています。

これらのことからも、より実際の課題解決に量子コンピュータが用いられるようになるのは、2030年以降であると考えられます。

量子コンピュータ「冬の時代」がくる

2024年現在、量子コンピュータは多くの注目を集めており、投資も加速しています。一方で、実際の研究現場ではまだまだ地道な基礎研究が進められており、今後数年で投資が回収できるほどの性能には至っていません。AIが注目されては見放される「冬の時代」を何度もを迎えたように、量子コンピュータも今後50年で何度か冬の時代を迎える可能性があります。

開発企業機器名称量子ビット数稼働年
GoogleSycamore542019年
IBMOsprey4332022年
富士通・理研642023年
ここで取り上げる量子ビットは量子ゲート方式の量子コンピュータを指す

各社が発表している量子コンピュータの量子ビット数は上記表のとおりです。

以下の記事では、量子コンピュータの規模を表す量子ビットと、その性能を表す指標について解説しています。

量子アニーリングマシン

D-waveの開発する量子アニーリングマシン

量子コンピューターを広義に捉えたとき、日本のメディアでは「量子アニーリングマシン」も量子コンピュータとして解説されることがあります。量子アニーリングマシンの開発企業を以下に示します。

方式マシンタイプ研究・開発する機関
量子アニーリング
(広義で量子コンピュータに含まれる)
量子アニーリングD-Wave
NEC
ノースロップ・グラマン
コヒーレントイジング
(古典コンピュータによるシミュレーション)
NTT
スタンフォード
古典アニーリング
(古典コンピュータによるシミュレーション)
富士通
日立製作所
東芝

量子アニーリングというのは、量子コンピュータに特有の最適化問題の解法の 1つを指す言葉です。その解法を実行するためだけに作られた専用装置は「量子アニーリングマシン」と呼ばれます。

「量子コンピュータには、ゲート型とアニーリング型の2種類あります。ゲート型はあ らゆる計算ができる汎用的な量子コンピュータで、アニーリング型は組合せ最適化問題を解くのに特化した量子コンピュータです。」

この説明は、あまりに色々な記事で登場しますが、実は専門家の認識はかなり違います。世界中で、「量子コンピュータはゲート型とアニーリング型の2種類」と言っているのは日本だけです。量子アニーリングマシンのことを量子コンピュータと呼ぶ専門家もほぼ皆無で、通常アニーリングマシンは量子コンピュータとは別のものとして扱われます。

量子アニーリングマシンは、ゲート型の量子コンピュータよりも以前から開発されています。D-waveは2011年から量子アニーリングマシンの実機を販売していること有名です。その実機を使って色々な問題を解いてみる研究が盛んに行われており、面白い研究分野であることは確かです。

一方で「量子アニーリングマシンが本当に現在のコンピュータに対して優位なのか?」は、まだ答えが出ていません。量子ゲートを利用した量子コンピュータが量子超越性(現在のコンピュータを超える性能)を実現していることと比べると、量子アニーリングマシンの成果は見劣りするかもしれません。

Googleが量子ゲート方式での量子超越性を実現した内容については、以下の記事でも詳しく解説しています。

まとめ

量子コンピュータの分類について解説しました。

学術的に量子コンピュータを理解するには、量子力学についてのより深い理解が必要です。ただ、量子力学を紐解きながら解説すると膨大な内容となるため、この記事では「まずどんな分類があり、なにができるのか、どのような企業が研究開発をしているのか」を分かるように解説しました。

現在は量子ゲートを利用した超電導方式が主流ですが、実用化は2030年代から2040年代となる可能性もあります。今後も新しい型式や大規模化された量子コンピュータが開発されていくことでしょう。

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