DNPのフォトマスクは何が凄いのか?

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半導体製造における「材料」と呼ばれることも多いフォトマスク。DNPは3nmのプロセスに対応したフォトマスクを開発しました。フォトマスクの市場シェアは日本企業が強い分野ですが、そのなかでもDNPは高い技術力を持っています。

本稿ではDNPのフォトマスクは何が凄いのかを解説します。

DNPが3nmフォトマスクを開発

3ナノメートル相当のEUVリソグラフィ向けフォトマスク(DNPニュースリリースより)

DNP(大日本印刷)は、3nm EUVリソグラフィー用フォトマスクを開発しました。極端紫外線(EUV)リソグラフィーに対応した、最先端半導体製造プロセス用途のフォトマスクです。2030年には年間100億円の売上を目指しています。

何が凄いのか?

DNPのフォトマスクが注目される理由は、極端紫外線(EUV)リソグラフィーに対応する3nmプロセス用フォトマスクを開発した点にあります。3nmという超微細なフォトマスクを製造できるのは、世界中でもごく限られた企業だけです。

半導体の微細化が進むにつれて、より精密な製造技術と高度な技術力が求められる中で、DNPは特別な技術や知識、設備を保有していると言えます。

大日本印刷は2024年から、最先端の回路線幅2nmの半導体向けの製造方法開発を進めています。技術を2025年度までに確立し、2027年度には量産を始めるとしています。 

3nmのフォトマスクを製造できるのは半導体メーカーが多い

DNPのフォトマスク技術の中でも、3nmへの対応は特に注目に値します。3nmサイズは、現在の技術の中でも最先端に位置します。3nmに対応するフォトマスクを開発・製造できる企業は世界でも限られており、これまで外販されているフォトマスクは5nm品対応が最も細かく、3nmを実現することは困難でした。

フォトマスクはそもそも、半導体メーカーが内製していることも多い部材です。3nmのフォトマスクを製造できるのは半導体メーカーの中でも上位の台湾TSMCや韓国サムスン電子など一部の企業に限られており、DNPが3nmフォトマスクを量産することができているのは評価することができます。

日本企業のシェアが高い

フォトマスクの世界シェアは、内製している半導体大手を除くと、DNPとTOPPANホールディングス(旧凸版印刷)が計5割近いとされており、他に米フォトロニクスやHOYAも高いシェアを持つとされます。

EUV露光装置に対応

DNPのフォトマスクが、EUV露光装置に対応している点も驚きです。EUV露光装置は、従来技術であるDUV(深紫外線)技術の波長長さがである193nmよりも短い、わずか13.5nmを実現する装置です。iPhone用の高性能チップなど、先端半導体を製造するには不可欠な装置ですとなっています。

現状、半導体の量産用製造装置では、EUV技術を持つASMLがほぼ独占的な地位を占めています​​。それゆえに、半導体メーカーも、ASML製の高性能マシンを一台でも多く入手しようと、ASMLとの協力関係を強めようとしています。先端半導体を製造するために必要なEUV用のフォトマスクを提供できる点も、DNPの強みになります。

EUV露光装置は、バスのようなサイズの筐体に多数の装置が一体化され設置されている(CNBC Youtubeチャンネルより)

精密なパターンを露光するため、装置も非常に高価です。先端半導体を実現するための極端紫外線(EUV)露光装置は、微細なパターン転写に必要な高解像度を実現できますが、そのコストは数十億円から百億円単位に及びます。先端半導体の製造装置で高いシェアを誇るASMLのEUV露光装置については、以下の記事で詳しく解説しています。

フォトマスクはどう使われるのか?

フォトマスクはどう使われるのでしょうか。

フォトマスクは、回路パターンをシリコンウェハー上のフォトレジストに転写するための「テンプレート」または「ステンシル」として機能します。EUV露光プロセスの開始時に、フォトマスクは露光装置内の特定の位置に配置されます。フォトマスクには製造したい半導体デバイスの回路パターンが微細に描かれており、EUV光を部分的に透過させ、部分的に遮断するように設計されています。

マスクブランクスの品質も重要なポイントとなる(信越化学工業HPより)

3nmプロセスの要求する高解像度を実現するためには、フォトマスクの材料の品質も非常に重要です。従来のマスクブランクス(フォトマスクの原板)の材料では不十分な場合もあり、より高感度で、多層反射膜を有するリフレクティブマスクブランクスの開発が求められることもあります。

フォトマスクの製造工程

電子ビームリソグラフィ装置(出典:JEOL)

フォトマスクの製造工程は、まず、高純度の合成石英ガラス基板を研磨し、クロムなどの素材を蒸着させて数十nm厚の遮光膜(フォトマスク・ブランクス)を形成します。

次に、ブランクスの表面に感光性樹脂(レジスト)を均一に塗布し、電子ビームを使用して必要な回路パターンを描画します。描画後、露光されたレジストを除去し(露光された部分、または露光されなかった部分のどちらかが除去される)、遮光膜が露出した部分にドライエッチングと呼ばれる化学反応を利用した加工を施します。

最後にレジストを完全に除去し、洗浄してフォトマスクが完成します。完成したフォトマスクは、検査工程を経て出荷されます。

まとめ

DNPのフォトマスクが注目される理由は、極端紫外線(EUV)リソグラフィーに対応する3nmプロセス用フォトマスクを開発した点にあります。世界中の企業の中で、このような極めて微細なプロセス技術を持つフォトマスクを製造できるのは、ごく限られた企業だけです。

現在、DNPは2nm用のフォトマスクの開発も進めており、継続した技術開発によりシェアの拡大も期待できます。

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某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
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