半導体製造装置の主要な技術のひとつに、EUV(極端紫外線)露光装置があります。EUV(極端紫外線)露光装置は、わずか13.5nmという短い波長を使用して、シリコンウェハー上に数十億のトランジスタを含む微細なデザインを印刷することができます。
高性能なEUV露光装置は半導体メーカーから熱望されています。特にASMLはEUV露光装置の「世界唯一の」供給元とされており、その株価も上がり続けています。
なぜASMLはここまで求められているのでしょうか?本記事では、EUV露光装置の驚異的な能力と、それが業界にとってなぜ重要であるのかを探ります。
EUV露光装置は何が凄いのか?
EUV(Extreme Ultraviolet Lithography)露光装置が必要とされる理由は、わずか13.5nmというEUV波長の短さにあります。EUV露光装置なしでは、数nmレベルでの精密なチップ製造は不可能です。
以下に、従来技術のDUVと、EUVの違いを示します。
特徴 | DUV(深紫外線) | EUV |
---|---|---|
波長 | 193nm | 13.5nm |
解像度 | 38nm〜40nm | 8nm(EXEシリーズ) 13nm(NXEシリーズ) |
生産性(ウェハー/時) | 最大295枚 (TWINSCAN NXT:2050iモデル) | 最大200枚 |
主な用途 | 基本的なチップおよび一部の先進チップ | 最先端のプロセッサチップ |
光源 | アルゴンフッ化物(ArF)エキシマレーザー | 極端紫外線 |
技術の複雑さ | 高いがEUVよりは低い | 非常に高い |
コスト | 約60億円(最新機種) | 約330億円 (3億ドル以上) |
従来技術であるDUV(深紫外線)技術の193nmと比較して、EUVは13.5nmの波長を利用しており、解像度も大幅に改善しています。
もちろん、既存技術のDUVは依然としてミドルレンジのチップ製造には使用されていますが、EUV技術は更に高度なアプリケーション(最新のiPhoneなど)に不可欠な装置となっています。
たとえば、TSMCの7nmプロセスでは、EUV版がDUV版よりもトランジスタ密度が21%高いと報告されています。UVプロセスはDUVプロセスに比べて、より少ないマスク層での露光が可能であり、生産効率が高く、コスト削減にもつながります。
ASMLはEUV露光装置で独占的地位を得た
現状、半導体の量産用製造装置では、EUV技術を持つASMLがほぼ独占的な地位を占めています。簡単に言えば、ASML以外のメーカーはEUV装置を製造することができません。それゆえに、半導体メーカーも、ASML製の高性能マシンを一台でも多く入手しようと、ASMLとの協力関係を強めようとしています。
競合としては、キヤノンやニコンなどが挙げられます。キヤノンは、NIL(ナノインプリントリソグラフィ)技術を半導体業界向けに提供していますが、NIL技術はまだ大量生産における一部の課題、特にスループット(単位時間あたりの生産量)やコストの面で、EUVリソグラフィなどの他のリソグラフィ技術と比べて劣っていると考えられています。
結果、ASMLは、EUVリソグラフィマシンの製造において世界で唯一無二の存在になりました。
ASMLの時価総額は、欧州企業で3位(2024年3月時点)となり、大手チップメーカーであるIntelさえも上回るほどで、TSMC、サムスンといった業界の巨人たちが、次の半導体製造技術を手に入れるためにASMLと交渉しています。
なぜ半導体メーカーはEUV露光装置を求めるのか?
インテルやTSMC、サムスンといった半導体メーカーがEUV露光装置に強く関心を持つ理由は、EUV(極端紫外線)露光装置を用いることで、非常に小さなスケールで非常に高い精度を持った回路パターンをシリコンウェハー上に形成することが可能になるためです。1つのチップ上に数十億ものトランジスタを配置することができるようになれば、デジタルデバイスの性能向上に直結します。
EUV技術の重要性を理解するには、現代のデジタルデバイスがどれだけ小さなコンポーネントで高い計算能力を持つかを考えれば良いです。スマートフォン、パソコン、自動車、データセンターなど、私たちの生活を豊かにするほとんどのデバイスは、高性能なチップを必要としています。EUV露光装置により、これらのチップをより小さく、より速く、そしてより省エネで製造することが可能になります。
具体的には、EUV技術は従来の光源を用いた露光技術に比べて、はるかに短い波長を使います。この短い波長により、より細かい回路パターンを正確にウェハー上に転写することが可能になり、結果としてチップ1つあたりのトランジスタ数を増やすことができます。トランジスタ数が増えると、チップの処理能力が向上し、デバイスの性能が飛躍的に向上します。
しかしながら、EUV露光装置は非常に高価で導入には大きな投資が必要です。また、技術的にも高度で複雑あるため、そのセットアップやメンテナンス、制御には高い技術力が必要です。
それでも半導体メーカーがEUV技術に投資する価値があるのは、それによって実現されるチップの性能向上と、それがもたらす広範な産業への影響が計り知れないからです。半導体メーカーは性能向上の最前線で勝てるかどうかが生き残りを左右するため、EUV装置を含めた先端半導体製造装置技術を使いこなす必要があるのです。
ASMLの次世代技術:High-NA EUV
今後の技術動向として、High Numerical Aperture (High-NA) EUVリソグラフィマシンを紹介します。
次世代技術として期待されるHigh-NA EUVリソグラフィマシンは、EUVリソグラフィをさらに進化させたもので、より高い解像度と細かいパターンの製造を可能にします。High-NA EUVは2nm以下のような超微細プロセスでの使用が見込まれており、半導体業界の技術進化をさらに加速させることが期待されています。
Intel、TSMC、サムスンといった大手チップメーカーだけでなく、AMDやNVIDIAといった企業にとっても重要な技術であり、各社はHigh-NA EUV技術を利用して、ロジック半導体の競争の先端に立とうとしています。
High-NA EUVの実用化目途は2024年後半?
競争はすでに始まっています。Intelは、2025年から量産用設備として、ASMLのHigh-NA Twinscan EXEスキャナーを採用する計画を発表しました。Intelは2024年3月、計画を2024年後半に前倒しするともしており、High-NA EUVの導入により1.8nmの半導体製造が実現すると期待されています。
中国への輸出はできない
目下、EUV露光装置はASMLにしか製造することができませんが、輸出規制によって中国はこの技術をASMLから購入することはできません。中国のリソグラフィ ツールの著名なメーカーはShanghai Micro Electronics Equipment Group (上海微電子、SMEE) だけです。SMEEは2023年末に28nmのリソグラフィマシンの開発に成功したとされていますが、13.5nmを実現するASMLほどの技術力は期待できません。
ASMLの技術が使えないことは、中国の半導体製造において5nm以下を実現することが難しくなる一因となっています。近年の進捗では、ファーウェイとSMICがSMICの第2世代7nmクラスのプロセス技術を使ったスマートフォンプロセッサを開発したのが唯一の成功例です。
対抗措置として、中国のSMICとHuaweiは5nm半導体の技術要件を達成するために、SAQP(self-aligned quadruple patterning)と呼ばれる技術を利用した特許を出願するなどしています。SAQPは過去にインテルもその技術を検証しており、当時の目的はASML製のEUVリソグラフィ装置への依存を排除することでしたが、現在もインテルはASMLの技術に依存しています。つまり、SAQPではEUVを代替できないという事です。
まとめ
EUV露光装置は、従来のDUV技術をはるかに超える解像度を実現する半導体製造装置で、ASMLはこの分野で独占的な地位を築いています。IntelやTSMC、サムスンなどの大手チップメーカーがこの技術を積極的に取り入れようとしており、製造装置の奪い合いが進み、成長期待からASMLの株価も上昇しています。
次世代のHigh-NA EUVリソグラフィマシンの開発も進んでおり、今後半導体はさらなる微細化と高性能化を実現しようとしています。
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