電池材料におけるX線回折(XRD)とは何か?

リチウムイオン電池

XRDは、物質の結晶構造を解析するためのツールとして、電池開発でも重要な役割を果たしています。

結晶構造は、物質が原子や分子が規則正しく並んだパターンで配置される際に形成される、美しい3次元の構造を指します。

XRDが注目される理由の一つは、この結晶格子がX線を通じて私たちに見えるようになるからです。X線は物質に当たると、結晶内部の原子や分子によって散乱されます。この散乱のパターンを観察することで、結晶格子の配置や間隔、そして結晶構造を詳細に解析することができるのです。

この記事では、電池開発におけるXRDについて解説します。

結晶構造の変化を見ることができる

X線回折(XRD)は、物質の結晶構造を解析するための強力な手法の一つです。XRDは、物質が結晶化している場合、その結晶格子によって入射X線が回折される現象を利用しています。

登録施設利用促進機関・公益財団法人高輝度光科学研究センター (JASRI)より引用

結晶化とは、原子や分子が規則正しいパターンで配置され、周期的に繰り返される3次元の結晶格子を形成する過程です。物質が液体や気体の状態から結晶化するとき、その原子や分子は規則的なパターンで配列され、結晶が形成されます。

結晶化は、物質の状態が変化するときに起こります。通常、物質は高温や高圧の条件下では液体や気体の状態にありますが、温度や圧力が下がると、原子や分子が結晶化して固体の結晶を形成する傾向があります。

結晶化が起こると、物質は特定の結晶構造を持ちます。この結晶構造は、原子や分子が規則正しく配置された3次元の格子で表されます。結晶格子の形状や原子間の距離は、物質の組成や結合性質によって異なります。

X線回折のアウトプットイメージ

NEDO燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化資料より

X線回折の実験結果は、XRDパターンとして知られており、通常はグラフとして表示されます。XRDパターンは、入射X線の角度(2θ)を横軸に、X線の強度または回折角度に対する強度を縦軸にプロットしたグラフです。

ピークが現れる位置やピークの高さは、サンプルの結晶構造に関連しています。特定の結晶構造を持つサンプルは、特定の2θの角度でピークを示し、そのピークの位置や強度から結晶構造を推定することができます。

XRDの測定範囲

実験室で使用される通常のXRD装置では、一度に数平方センチメートルの範囲を分析するのが一般的です。大きなサンプル領域、例えば100×100mmのような範囲を分析する場合、サンプルを動かしながら多数の測定点を取る必要があります。

XRD回折をリチウムイオン電池に応用する

一般的には結晶構造解析に用いられる手法ですが、特定の条件下では組成分析にも利用できる場合があります。

リチウムイオン電池の負極においては、充電状態を負極でのLiC6の形成によって評価することができます。新品の状態や良好な状態の電池では、充電時にリチウムイオンが負極の黒鉛層に均等に挿入され、LiC6が適切な割合で形成されます。しかし、電池が劣化すると、この挿入プロセスが均一でなくなり、LiC6の量が局所的に減少することが観察されます。

LiC6の割合の減少は、電池のエネルギー容量の低下を意味しています。XRD分析によって、結晶構造がLiC6であるかどうかを調べ、これらの変化をマッピングすることで、電池の劣化状態やその進行度を詳しく調べることが可能になります。

XRDは結晶構造を調べる手法ですが、これを応用すると組成分析的なこともできるようになる、というわけです。

X線回折のメリット

X線回折(XRD)のメリットは以下の通りです。

  • 定量的に解析できる
  • サンプルを破壊しない
  • 広い応用範囲
  • 感度が高い

定量解析

XRDは、サンプル中の各成分の量を定量化するのに役立ちます。ピークの強度を使用して、組成の定量的推定が可能です。

サンプルを破壊しない

XRDは非破壊的な解析手法であり、サンプルを壊すことなく結晶構造を調べることができます。

広い応用範囲

XRDは、無機材料、有機材料、生体材料など、さまざまな種類の物質の結晶構造解析に適用できます。

感度が高い

XRDは非常に高い感度を持ち、微量の成分も検出できます。

X線回折のデメリット

X線回折(XRD)のデメリットは以下の通りです。

  • サンプルが結晶化している必要がある
  • 計測時間が長い
  • サンプルの前処理
  • 分解能が低い
  • 設備が高価で専門性が高い

サンプルが結晶化している必要がある

サンプルは結晶化している必要があります。液体やアモルファスな物質には適用できません。

計測時間が長い

XRDの実験には、時間がかかることがあります。特に粉末XRDでは、サンプルの回転やデータの収集に時間がかかります。

サンプルの前処理

XRDの実験には、サンプルの前処理が必要な場合があります。特に粉末XRDでは、サンプルの粉砕や均一化が必要です。

分解能が低い

XRDは、原子や分子の詳細な配置を解析するのには向いていません。そのため、高分解能な情報を得るためには他の手法と組み合わせる必要があります。

設備が高価で専門性が高い

XRDの実験には専用の設備が必要であり、それらの設備の維持や操作には専門知識が必要です。

回折とは?

回折とは、波が物体に当たってそこから反射される現象です。X線回折では、結晶構造を持つ物質にX線を当てると、結晶内の原子や分子によってX線が反射されます。これにより、X線の波が結晶格子の規則正しい構造によって干渉し合い、特定の方向に強められたり弱められたりします。この干渉のパターンが回折パターンとして観察され、そのパターンを解析することで、結晶の内部構造や配置がわかります。

簡単な例を挙げると、日常生活で見られる光の回折があります。たとえば、太陽光が水滴に当たると、虹が現れます。これは、太陽光が水滴内で反射し、水滴の内部で干渉して特定の波長の光が強調されるためです。X線回折も同様に、結晶内でX線が反射され、結晶格子の規則性によって特定の方向に強められたり弱められたりすることで、結晶の内部構造を解析します。

ミラー指数

XRD(X線回折)で見られる「100」や「101」などの数字は、結晶構造内の特定の面を指定するためのミラー指数(Miller indices)です。ミラー指数は、結晶格子内の面を一意に識別するために使用される3つの整数h,k,lによって表されます。h,k,lなどの数値は、結晶格子の基本単位セルに対する面の方向性を表しています。

ミラー指数とは?

ミラー指数 (h,k,l) は、結晶格子の基本単位セルの3つの軸に対する平面の傾きを表します。

  • たとえば、「100」はx軸に平行でyおよびz軸に垂直な面を意味します。これは、結晶の一方向のみに特徴的な平面です。
  • 「101」は、x軸とz軸に平行で、y軸に垂直な面を表しています。このような面は、2つの方向に特徴があり、別の方向では異なる性質を示します。

X線回折(XRD)におけるミラー指数の重要性

XRDパターンにおいて、ミラー指数は結晶構造における原子や分子の配列を理解するのに役立ちます。異なるミラー指数が示すピークは、結晶内の特定の方向性を持つ平面からの回折を反映しており、これにより結晶の対称性や格子パラメーターなどの詳細な情報を得ることができます。

具体的には、ピークの位置(2θ値)は結晶面間の距離に関連しており、ピークの強度はその面に存在する原子の量や配列に依存します。したがって、XRD分析を通じて得られるミラー指数とそれに対応するピークは、物質の結晶構造を詳細に解明する上で不可欠です。

平面の方向性は、結晶内の物理的、化学的性質を理解する上で非常に重要です。例えば、結晶の光学的、電気的、機械的特性は、しばしば特定の方向に依存します。ミラー指数を通じて、科学者や工学者はこれらの方向依存性を定量的に分析し、材料の特性を最適化するための情報を得ることができます。

まとめ

X線回折の実験結果は、XRDパターンとして知られており、通常はグラフとして表示されます。XRDパターンは、入射X線の角度(2θ)を横軸に、X線の強度または回折角度に対する強度を縦軸にプロットしたグラフです。

ピークが現れる位置やピークの高さは、サンプルの結晶構造に関連しており、XRDパターンから結晶構造を推定することができます。XRDは、定量解析や非破壊的な解析手法として広く利用されており、物質科学や材料工学などの多くの分野で活用されています。

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某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
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