電池材料開発に用いられる分析手法まとめ

リチウムイオン電池

近年のEVの増加に伴い、リチウムイオン電池が車載用のエネルギー源として広く利用され始めています。電池の性能向上や新しい材料の開発には、材料の特性や構造を正確に理解することが不可欠です。

電池材料開発にはさまざまな分析手法が用いられています。本稿では、電池材料開発における主要な分析手法を以下にまとめ、それぞれについて解説します。

電池材料開発に用いられる分析手法まとめ

電池材料開発に用いられる手法は以下の通りです。

分類対象手法アウトプット
結晶構造解析結晶構造XRD
形状解析表面SEM
三次元X線CT測定
組成解析表面TOF-SIMS
内部ラマン分光

実際の電池開発に用いられるものを挙げるとすれば、これらだけで十分とは言い切れませんが、上記はいずれも電池材料分析において主要な分析手法です。

以下、これら手法について詳しく解説します。

結晶構造解析

結晶構造解析は、電池材料の結晶構造や結晶性を解析するための手法です。

XRD(X-ray Diffraction、X線回折)

XRD(X-ray Diffraction)は、結晶構造解析に広く用いられ、結晶の格子パラメーターや結晶性を特定します。結晶性物質の結晶構造を解析するのに使用されます。X線が物質に照射された際に生じる回折パターンを測定し、物質の結晶構造や格子パラメーターを特定します。

新品のリチウムイオン電池は、リチウムイオンが電極に均等に広がる一方で、電池が劣化するとリチウムイオンうまく広がらなくなってしまいます。

XRDは、充放電中に電池電極中でリチウムイオンがきちんと広がっているかをチェックし、電池の劣化が起こっていないかを観察できます。XRDでリチウムイオンの分布を観察することで、電池がどれくらい古くなっているかを考察することができます。

形状解析

形状解析は、電池材料の表面形態や微細構造を調査する手法です。

SEM(Scanning Electron Microscopy)

「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」事後評価報告書より

SEM(Scanning Electron Microscopy)は、表面の形態解析に特に有用です。

高エネルギーの電子ビームをサンプル表面に照射し、その後に生じる電子の放出パターンを観察します。

走査電子顕微鏡(SEM)を使ってリチウムイオン電池の正極材料を観察することにより、電池内部の小さな粒子がどのような形や大きさをしているかが見えてきます。SEMを通じて、材料の細かな構造や粒子間のつながりを観察することができます。劣化の兆候を予測したり、不純物の確認もSEMで行う事になります。

X線CT測定

「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第 2 期)」 事業原簿【公開】 より引用

X線CT測定は、材料の三次元構造を非破壊で可視化できます。

X線をサンプルに照射し、その透過X線の情報を用いてサンプルの内部構造を再構築します。X線CTによって得られるデータは、電池材料の粒子サイズ、孔隙構造、材料の均一性などを調査するのに役立ちます。

組成解析

組成解析は、電池材料の組成や表面組成を解析する手法です。

TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry、飛行時間型2次イオン質量分析法)

「高性能・高信頼性太陽光発電の 発電コスト低減技術開発」 事業原簿 【公開】より引用

TOF-SIMS(Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)は、表面の組成解析に特に有用であり、高感度な元素分布の解析に役立ちます。

TOF-SIMSの観察では、リチウムイオン電池の電極表面の化学組成を特定できます。科学組成の検出は、スペクトルではなく、断面画像にマッピングすることができ、電極と電解質の界面で起こる化学反応を解析することができます。

デンドライトの解析もその一例です。デンドライトは、リチウムイオン電池の充電中に電極上に成長する金属リチウムの結晶で、電池の性能低下や安全性の問題(短絡や火災のリスク)を引き起こすことが知られています。TOF-SIMSを使った界面反応の分析では、デンドライトの形成を観察することができます。

ラマン分光(Raman spectroscopy)

(革新型蓄電池先端科学基礎研究事業 事業原簿【公開】より引用)

ラマンは、物理学の分野で使われる用語で、光が物質に当たったときに、そのエネルギーが変化する現象を指します。

材料に光を当てたときに、その材料がどう光を反射するかをラマンスペクトルとして測ります。この反射の仕方で、その材料がどんな状態にあるかを知ることができます。電池材料開発では、これを使ってバッテリーの充放電サイクルを繰り返し、前後の構造変化を調査しています。

まとめ

電池材料の開発においては、結晶構造解析、形状解析、三次元形状解析、組成解析などの分析手法が重要な役割を果たします。これらの手法を適切に組み合わせることで、電池材料の特性や構造を包括的に理解し、性能向上や新しい材料の開発に貢献することが期待されます。

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