燃料電池システム

システム構成

トヨタの燃料電池システムの構成図*です。青色が冷却水、緑色が空気、赤色が水素のフローです。

スタックと昇圧コンバーター

初代MIRAIの燃料電池スタックと昇圧コンバーター

昇圧コンバーターは回路図上ではPCU(Power Control Unit)と記載されています。

PCU

PCUは車両の主要な電力制御センターで、複数の電力変換および制御機能を統合したものです。これには、FCコンバーターからの電力だけでなく、バッテリーからの電力も扱います。

PCU内の昇圧コンバーターで、電力をモーターの動作に必要な高電圧に変換します。また、電力の流れを管理し、電力需要に応じて燃料電池とバッテリーからの電力を最適に分配する役割も持っています。

電動コンプレッサー

燃料電池に空気(酸素)を供給するために使用されます。

FCコンバーター (FCPC)

燃料電池スタックからの電圧を調整して、モーターやバッテリーが使用しやすい電圧に変換します。

燃料電池スタックからの直接的な出力を扱います。

FDC

FDC (Fuel Cell DC-DC Converter)は、燃料電池からの直流(DC)電圧を調整して、他のシステムコンポーネントに適したレベルに変換します。

燃料電池からの電圧は、発電状態や負荷によって変動するため、このコンバーターはその電圧を安定化し、システムが要求する電圧に変換します。基本的には燃料電池の電圧を最適化し、モーターやバッテリーなどの他のシステムが利用しやすいように調整します。

水素タンク

水素ガスを貯蔵しておくためのタンクです。

ラジエーター

燃料電池や電子機器の発熱を冷却するために水などの冷却媒体を利用します。

HV ECU/FC ECU

車両全体の電気系統や燃料電池の制御を行う電子制御ユニットです。

システムの制御

燃料電池システムの制御には、特有の制御方法が含まれます。本稿では、燃料電池において必要とされる制御について、紹介します。

シャットダウンパージ

燃料電池のようなデバイスの電源を切った場合、ただちに動作が停止するわけではありません。特に “残留水(residual water) “と呼ばれる燃料電池が作動していたときに残った水については、後始末が必要です。寒冷地では、残った水が凍結し、燃料電池の作動に必要なガスの流れを妨げるなどの問題を引き起こす可能性があります。そのため、燃料電池の電源を切ったときにこの水を取り除く方法が必要で、寒冷時に簡単に再始動できるようにする必要がある。

この水を取り除くプロセスは、”シャットダウンパージ(Shutdown purge) “として知られています。水を除去する主な方法は、燃料極は水素で、空気極は空気で、残留した水を「吹き飛ばす」ことです。ドライヤーで濡れたものを乾かすようなイメージです。他にも窒素(気体の一種)を使う方法などが研究されていますが、少し複雑であまり使われていません。

触媒の活性化制御

新たに製造されたメンブレン電極接合体(MEA)内の触媒層は、「未活性化」状態で、活性化プロセスを経て一定の安定した性能を引き出します。

一般的に最も使用される活性化手法は「オンライン活性化」(Online Activation)です。オンライン活性化手法は、MEAを燃料電池内で直接活性化する方法であり、特に電圧制御や電流制御を用いた方法が主流になっています。

特に、電圧サイクル活性化や定電圧法などが有効であり、これらの方法により、触媒層内での電気化学反応の効率が向上し、燃料電池の始動性能や長期安定性が改善されることが多くの研究で示されています。

燃料電池の加湿と、露点・相対湿度

燃料電池を高効率で動作させるためには、電解質膜を乾かさないように加湿が必要です。

PEM(固体高分子電解質)燃料電池の場合、膜は適切な湿度でなければ効率的にプロトンを伝達できません。燃料電池における加湿は重要なプロセスで、電解質膜(PEM)が十分なプロトン伝導性を保つために行われます。

加湿の方法

電解質膜は、加湿(humidification)によって性能を維持しています。加湿には、加湿器などを利用する外部加湿と、燃料電池の動作中に発生する水を利用する内部加湿があります。

外部加湿器

外部加湿(external humidification)では、燃料電池に供給する水素ガスと酸素(または空気)を、電池に入れる前に加湿器を通して湿らせます。これにより、ガスが膜を通過する際に膜を湿らせ、プロトンの伝導性を高めます。

内部加湿

内部加湿(self-humidification)では、燃料電池の作動中に発生する水を再利用して、ガスの流れの中で直接加湿する方法です。この方法では、燃料電池から排出される水蒸気を再循環させて加湿するため、外部からの水供給が不要になります。

初代MIRAIは加湿器レスを採用している(豊田自動織機HPより)

初代のMIRAIは、アノード側に水素循環システムを追加し加湿することで、カソードに空気を供給するエアコンプレッサーの加湿器レス(内部加湿方式)を実現したことが知られています。

露点と相対湿度

燃料電池の加湿については、相対湿度と露点、飽和水蒸気量についても理解すべきです。

露点と飽和水蒸気量

空気が飽和する温度のことで、この温度になると空気中の水蒸気が凝縮して露(つゆ)となります。高い露点は、空気が多くの水蒸気を含んでいることを意味し、低い露点は空気が乾燥していることを意味します。

バブラーの露点は、ガスを湿らせるための装置であるバブラーを通じて燃料電池に供給されるガスの温度に関するものです。バブラーは、ガスを水に通すことでそのガスを湿らせるシンプルな装置です。ここで言う「露点」とは、湿らせたガスが冷やされた時に水蒸気が凝結して液体の水が発生し始める温度を指します。

バブラーを使用する際、供給されるガスは水の表面を通過する過程で湿度が増加します。ガスはバブラーの温度に応じた飽和水蒸気量に達するまで水蒸気を吸収します。飽和水蒸気量は温度に強く依存しており、温度が高いほどより多くの水蒸気を空気(またはガス)が保持できるようになります。

バブラーを出たガスの露点は、バブラー内の水の温度がそのままガスの露点となるため、バブラーの水温を調整することで、燃料電池に供給するガスの露点を制御できます。

燃料電池システムにおいては、このバブラーの露点を適切に管理することが重要です。露点が燃料電池の作動温度よりも高いと、燃料電池内で水滴が発生し過ぎ、パフォーマンスの低下やフラッディング(水で満たされる現象)を引き起こす可能性があります。

一方、露点が低すぎると、燃料電池が十分に湿度を保てずに乾燥し、プロトン伝導率が低下することがあります。

相対湿度

空気が持つことができる水蒸気の量に対する、現在の水蒸気量の割合です。100%に近い相対湿度は空気が飽和しており、これ以上水蒸気を保持できないことを意味します。相対湿度が低いと、空気は乾燥していると言えます。

燃料電池では、通常、高い相対湿度が望まれますが、水蒸気の量が多すぎると水滴が形成され、セル内でのガス流れが妨げられる可能性があります。バランスが重要です。加湿を行う際は、露点温度や相対湿度を調節して、最適な燃料電池の性能が得られるようにします。

圧力損失

水生成を考慮した圧力損失

PEM燃料電池の設計や性能評価において、ドライ(乾燥)条件と液水を考慮した(加湿)条件下の圧力損失の両方を考慮することが重要です。

論文**によると、濡れた状態(二相流)と乾いた状態(単相流)の圧力損失を比較・分析しています。研究では、空気-水および水素-水の二相流の圧力損失を測定し、既存のモデルと比較することで、濡れた状態と乾いた状態の両方を含む圧力損失についての詳細な分析が行われています。

加湿条件ガス流量 (Q) [mL/min]圧力損失 [Pa]
dry953.0191199.27
1200 μL/h952.8001400.72
空気ガス流路における圧力損失、加湿条件は水の供給量

実験の結果によると、ガス流量1L/minにて水流量を0.02 mL/min追加すると、圧力損失が16%増加するとされています。

ただ、本実験は燃料電池流路を模擬した直角流路で行われており、発電環境でもありません。圧力損失の増加の程度は目安です。

バイポーラプレート

バイポーラプレートの構造も、セル・システムの圧力損失を決定する重要な要素です。

トヨタのMIRAIには、3Dファインメッシュ流路(3D fine-mesh flow-fields)と呼ばれる構造のバイポーラプレートが採用されています。ペンシルバニア州立大学の研究*では、3Dファインメッシュ流路の効果をモデルで検証しています。

燃料電池
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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