ソフトバンクの次世代電池は何が凄いのか【リチウム空気電池・MI】

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ソフトバンクは2021年11月プレスリリースを出し、次世代電池の開発で大きく前進したと発表した。

ただ、プレスリリースは出ているものの、そのほとんどが共同研究であり、ソフトバンク自身が何を成し遂げたのかが見えにくい。

今回は、ソフトバンクが共同研究先と共に取り組む3つの技術について解説する。

技術の概要

ソフトバンクが発表した技術は以下の3つ。

・全固体電池向けの正極材

・MI(マテリアルズ・インフォマティクス)による予測

・高容量の電池の試作

これらを順に解説する。

全固体電池向けの正極材

全固体電池の構成イメージ(QuantumScape資料より)

全固体電池の正極(カソード)材料を、東工大と住友化学の共同研究により開発した。

しかし、開発した正極材量について「高容量のリチウム過剰系正極活物質」としか記載がない。

この全固体電池に用いた電解質については、LGPSと記載があるが、LGPSは東工大が2017年に開発したもので、既にトヨタが採用することを発表しているような、いわば既存技術と言える。

そのため、開発されたのは正極材量であり、正極材量について議論すべきと思う。

一般に、リチウム過剰系正極材料は、蓄電エネルギー量を飛躍的に増大させる材料として期待されている。

そのため、材料探索や実用電池への適用に向けた研究開発が世界中で進められている。

理論容量 は380~460mAh/gだが、実際には理論容量を得ることは難しく、利用可能な容量は最大320mAh/gと言われている。

それに対して、今回共同研究で実現した容量は250mAh/gであり、目標に一歩近づく成果と言える。

派手な進化でない一方で、着実に研究が進められている印象を受ける。

この研究に対するソフトバンクの立ち位置は、東工大への共同研究資金の出資と考えられる。ソフトバンク自身が材料を調合しているとは考えにくい。

マテリアルズインフォマティクスによる予測

マテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは、機械学習などのモデル化手法で新規材料を探す、というもの。

機械学習により、既存のデータを学習させて予測モデルを作り、目的の性能を満足する材料の組み合わせや比率を探す。

たとえば、材料AとBとCを混ぜると、どの程度の物性値が得られるのか、過去のデータをもとにモデル式により予測する。

ソフトバンクと共同研究をする慶應義塾大学は、モデルを使った新規材料探索により、既に1000Wh/kgを超えると予想される正極材料を発見したという。

材料データ50個から、電位、容量、エネルギー密度を予測できるモデルを開発。「機械学習モデルはニューラルネットワークのうち線形モデル」とあるが、詳細は記載されていない。

あえてテストデータに外挿の点を入れる事で、外挿予測の精度をもつモデルとなっていることを示している。機械学習的な工夫点が面白い。

この研究でもソフトバンクは出資が主な役割のように思う。最終的にはマテリアルズ・インフォマティクスの手法を取り込みビジネス化したいという思惑もあるのかもしれない。

素材メーカーと共同研究すればいいものを…

教師データとした50個のデータが「論文から引っ張ってきた」というところがミソ。大学は材料のデータなど持っていない、という事を示している。

データを持っているであろう素材メーカーや材料メーカーに声をかけて巻き込んで共同研究すればいいものを…と考えてしまう。一方で、素材メーカーは独自にこういった取り組みをしているはずで、ソフトバンクと手を組む理由があまりないのかもしれない。

革新的材料の開発は目前、は嘘

マテリアルズインフォマティクスという技術の存在を世に広めてくれそうなソフトバンクには感謝しかないが、これで「1000Wh/kgを超える電池が現実味を帯びてきた」などと抜かすメディアがいるので、釘を刺しておくと、材料開発はそんな生ぬるくない

現実目線でいうと、高いエネルギー密度を実現する正極材料の候補が見つかっても、製造課題や耐久性などを解決できる材料であるかどうかは別の検討が必要で、そう易々と完璧な材料が見つかるものではない。

MIは、データ量が全てと言って間違いない。その点材料開発をしないソフトバンクに優位性は低く、この技術で第一線を走るのは素材・材料メーカーとなると考えられる。

参考:マテリアルズ・インフォマティクスの基本と課題

高容量の電池の試作

Enpower green techと共同開発したリチウム金属電池セルが、質量エネルギー密度520wh/kgを達成した。初期性能のみでなくサイクル寿命100サイクル以上を達成している点も興味深い。

重量エネルギー密度としては全固体電池を超える圧倒的容量と言える。

経産省自動車新時代戦略会議の資料抜粋

重量エネルギー密度500Wh/kgは、全固体LIBの先を行く革新型電池に相当するもので、実現は2030年以降との見方が有力。

Enpower green tech社のリチウム金属電池も、実用化は10年以上先になると考えられる。

今回の発表は、2021年3月に発表されたリチウム金属電池の続報。

・リチウム金属の界面制御技術と電解液技術を駆使

・非活物質の使用比率を低減

・充放電安定性を維持

上記のような工夫により、性能を向上させている。

リチウム金属電池とは

従来の液系電池にLi金属を使った場合

リチウム金属電池は、負極に従来の黒鉛ではなくリチウムを採用したもの。充電容量を格段に増やすことができる一方、充放電に弱くコストも高い。

なお、この電池は全固体電池ではなく、従来と同じ電解液を用いる液系電池にあたる。

リチウム金属電池が実現に至った背景には、負極に利用するLiが電解液を還元してしまい、金属表面に被膜が形成される課題を解決したことが挙げられる。

Enpower green tech社はコーティングによりLi金属負極を保護しながらも、黒鉛電極よりも高い容量を実現することができている。

リチウム金属電池は、全固体電池よりも先を見据えた研究と考えられる。実験室ベースだが、これだけ高容量の電池を開発できている事には驚いた。

この研究に対しても、ソフトバンクの立ち位置は出資および研究施設の提供と思われる。

まとめ

3つの技術について解説した。

特に3番目のリチウム金属電池は注目に値する。一方でマテリアルズ・インフォマティクス(MI)については、メディアが持て囃しすぎとも思う。

ソフトバンク自身が材料開発を行うわけではなさそうだが、出資した会社が最終的にソフトバンクグループに入ることもあり得るのかもしれない。

今後も動向を注視していきたい。

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