全樹脂電池の仕組みと技術を解説、エネルギー密度は?実用化目途は?

次世代電池

全樹脂電池とは、電池の電極やセパレーターに使用する材料に樹脂を使用することで、電池内部の金属部品を減らし、高い安全性と耐久性を持つ新しい電池技術です。

全樹脂電池は、現在のリチウムイオン電池と比較して、エネルギー密度が低く、まだ市場投入されていませんが、注目を集める分野の一つです。

全樹脂電池の仕組みと技術について分かりやすく解説

全樹脂電池は、専門的な知識を要する新しい技術であるため、技術的に理解されていない部分の多い電池です。

そもそも樹脂とは

樹脂とは、化学的には長い分子が繰り返し重なってできた材料のことを指します。例えば、プラスチック製品や接着剤、塗料、人工大理石、インク、ゴム、繊維などが樹脂で作られています。

樹脂は、軽量で耐久性があり、形状や色、用途に応じて加工しやすいという特徴があります。

全樹脂電池とは

全樹脂電池は、APBが提唱する電池仕様で、電極を含めてほぼすべてを樹脂で形成するLi(リチウム)イオン2次電池(LIB)です。

電解液を樹脂に置き換え、電極厚みを増やすことで、同じ容積でもエネルギー密度を向上させることができます。

全樹脂電池は、活物質(LiやPt)を特殊な樹脂(ゲルポリマー)でコーティングすることで、電解液を不要としています。

この特殊な樹脂は電子やイオンが移動できる材料で、電解液を代替し、電池は固体のみで構成されます。

電解質が固体であるという意味では全固体電池に近いとも言えます。以下に、全固体電池と全樹脂電池の比較を示します。

項目全固体電池全樹脂電池
電解質固体リチウムイオン伝導体樹脂
セパレーター固体リチウムイオン伝導体樹脂
電解質のイオン伝導率1 × 10^-4 S/cm以上1 × 10^-7 S/cm以下
エネルギー密度400Wh/kg以上100-250Wh/kg
高温環境下での安定性200 ℃以上一定程度の耐熱性能がある
利用分野自動車、航空機、エネルギー蓄積システムなど定置用電池など

全樹脂電池は、全固体電池ほどの高エネルギー密度を実現できるわけではありません。

一方で、すでに実用化目途が立っていることや、LFP電池やNaイオン電池を上回るエネルギー密度を実現する可能性がある点は評価できます。

通常のリチウムイオン電池は、陰極(負極)としてカーボン材料、陽極(正極)として金属酸化物を使用し、セパレーターとしてポリオレフィンを使用しています。一方、全樹脂電池では、これらの材料を樹脂材料で置き換えることで、電極間の金属接触部分を減らし、高い安全性と耐久性を実現しています。

樹脂材料は、熱や衝撃に対しても強く、外部からの影響を受けにくいため、燃焼や爆発のリスクが低くなるとされています。

・全樹脂電池は、部材の多くを樹脂に置換

・電極間を輸送するイオンはリチウム

・活物質を特殊な樹脂でコーティング

用途

APBの公式サイトより

全樹脂電池は、主に次世代のエネルギー蓄積システムへの利用を想定しているようです。

EV(電気自動車)のバッテリーなどに利用されることが期待されますが、APBは車両用途は各社の要求が大きく、対応リソースがないため、定置用電池での利用を主に想定しているとのことです。

全樹脂電池のメリット・デメリット

全樹脂電池のメリット

  • 安全性が高い
  • 耐久性が高く、長寿命である
  • 電極を分厚くできる

全樹脂電池の最大のメリットは、高い安全性と耐久性です。樹脂材料は、熱や衝撃に対しても強く、外部からの影響を受けにくいため、燃焼や爆発のリスクが低いとされています。金属部品を減らすことで、短絡しても大電流が流れず、発熱量が増加することも少ないと考えられます。

全樹脂電池のデメリット

  • 製造コストが高く、リチウムイオン電池よりも高価である
  • 実用化に向けた研究開発がまだ進んでおらず、市場投入には時間がかかる可能性がある

一方、全樹脂電池のデメリットとしては、製造コストが高く、歩留まりも低い、生産スピードが遅いなどの課題が挙げられます。これら課題については、2024年の量産化に向けて改善を進めるものと考えられます。

全樹脂電池のエネルギー密度は?

2024年までにニッケル系リチウムイオン電池と同等の性能に達するとAPBは宣言している

APBは全樹脂電池のエネルギー密度を公表していません。

数値を公表しないまでも、メディアに対して従来のLiイオン電池のエネルギー密度と同等にできる、としているため、2024年までに150-250Wh/kgが達成可能と考えているようです。

そもそも、全樹脂電池そのもののエネルギー密度が高いとは考えられていません。APBは、電池をバイポーラ型とすることでエネルギー密度を高くすることを検討しています。

バイポーラ型とは、集電体を直列接続することで、電池パック構造を単純化し部品を減らすことで、トヨタがニッケル水素電池のエネルギー密度を上げて、ハイブリッド車アクアに搭載したことで知られています。

トヨタはバイポーラ構造により、1.4倍のエネルギー密度を達成した、と発表しています。バイポーラ構造抜きにした、純粋なAPB電池のエネルギー密度は、100-150Wh/kg程度ではないかと推定されます。

全樹脂電池のエネルギー密度は150-250Wh/kgを想定

全樹脂電池を製造する企業の分析

全樹脂電池を製造する企業としてAPBを挙げていますが、川崎重工業、JFEケミカル、帝人、グンゼと三洋化成工業などは、全樹脂電池の開発や製造に必要な材料の開発に力を入れており、高性能な全樹脂電池の実現に貢献しています。

川崎重工業

川崎重工業は、高い耐熱性と耐薬品性を持つ樹脂電解質を開発し、高性能な全樹脂電池の実現を目指しています。また、川崎重工業は、高純度の負極材料であるハードカーボンの提供も行っており、全樹脂電池の製造に必要な材料の開発にも力を入れています。

JFEケミカル

電池材料(JFEケミカルHPより)

JFEケミカルは、電池材料の開発に力を入れており、全樹脂電池にも応用されることが期待されています。

APBに負極材料のハードカーボンを提供する企業として公表されています。

帝人

帝人の機能性極細カーボンファイバー(帝人HPより引用)

帝人は、カーボンナノファイバーの製造に必要な原料を製造しており、全樹脂電池に応用されることが期待されています。

帝人は、高性能なカーボンナノファイバーを製造する技術を保有しており、APBの全樹脂電池の電極添加剤として利用されています。

グンゼと三洋化成工業

グンゼと三洋化成工業は、樹脂集電体の開発に力を入れています。

グンゼと三洋化成工業は、樹脂集電体の材料開発に取り組んでおり、高性能な全樹脂電池の実現に貢献することが期待されています。

全樹脂電池の今後の見通し

APBは、2021年から全樹脂電池の生産を開始し、現状のリチウムイオン電池の価格の1/2、30GWh/年程度の量産工場の新設を目指すと宣言していました。

しかし、2023年3月に当初の計画を撤回、2025年に高速量産の実現、2026年度からの大規模量産化すると再度宣言しています。

現在も小ロットでのサンプル提供は行っているようですが、量産と呼ぶには遠い状況です。

全樹脂電池は2025年に高速量産、2026年度から大規模量産を予定

筆者の見解

筆者は、全樹脂電池は高いコストパフォーマンスが期待できる電池と考えており、リチウムイオン電池と並んで実用化されることを期待しています。

一方で、筆者は全樹脂電池の普及に関して少し懐疑的です。

そもそも、”全樹脂電池”という学術的な定義は存在せず、全樹脂電池は技術名というより、商品名と考えたほうが自然です。

また、電池の生産は投資体力が勝負です。投資体力の強靭な大手メーカーも、リチウムイオン電池市場に既に参入しています。APBが、電池を量産できるだけの企業体力があるかというと、NOだと考えます。

APBは2021年からの2年間、資金提供者を見つけるのに難航しています。量産に向けて、資金援助を行うパートナーが必要で、国内外の投資資本をどれだけ集められるかに注力する必要があります。

他の次世代電池と比較して異色の存在と考えており、APBは車載用途も見据えていないことから、市場に大きくひろがるような電池ではないと考えます。

まとめ

以上、全樹脂電池についての解説でした。

全樹脂電池は、金属部品を減らすことで、高い安全性や耐久性を実現する新しい電池技術です。一方で、製造効率など、まだ実用化に向けた課題が残されています。

全樹脂電池は、リチウムイオン電池や全固体電池、LFP電池、ナトリウムイオン電池などの競合する電池と比較されています。

現在はまだ市場投入されていないため、正確な性能や市場投入時期については不明な点が多いですが、今後の研究開発の進展に期待が寄せられています。

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