全固体リチウム硫黄電池とは?他電池との比較、開発するメーカーも紹介

技術系読みもの

近年、電気自動車やスマートフォンなど、様々なデバイスに使用されるリチウムイオン電池が注目されていますが、その次の世代の電池技術として、全固体電池が注目されています。

その中でも、全固体リチウム硫黄電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、より高いエネルギー密度や安全性が期待されており、多くの企業が研究開発に力を入れています。

本記事では、全固体リチウム硫黄電池について、その仕組みや従来のリチウムイオン電池との違い、現状や課題などについて解説します。

全固体リチウム硫黄電池とは

リチウムイオン電池とリチウム硫黄電池は、電解質を固体にすることで全固体電池とすることが可能

全固体リチウム硫黄電池とは、リチウムと硫黄を用いた固体電解質を使用して、電気を蓄えたり放出することで電力を供給する電池のことです。

リチウム硫黄電池は、従来のリチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度を持ち、より軽量・薄型な電池を実現できると期待されています。

全固体リチウム硫黄電池は、リチウムイオン電池と比較して安全性が高く、充放電サイクル数も多いため、長寿命な電池として注目されています。

  • 固体電解質を使用する新しいタイプのリチウム硫黄電池。
  • 液体電解質を使用する従来のリチウム硫黄電池と比べて、高いエネルギー密度を持つ。

全固体リチウム硫黄電池と従来の全固体リチウムイオン電池との違い

項目液系リチウムイオン電池液系リチウム硫黄電池全固体リチウムイオン電池全固体リチウム硫黄電池
通称Liイオン電池LiS電池全固体電池全固体LiS電池
電解質液体液体固体固体
負極グラファイトリチウムグラファイトリチウム
正極リチウムコバルト酸化物リチウム硫黄化合物リチウムコバルト酸化物硫黄と多孔炭素の複合材
エネルギー密度200-300 Wh/kg350~500Wh/kg400 Wh/kg500 Wh/kg以上
実用化の目途スマホ、車などで実用化済み2030年以降2025年以降2030年以降

全固体リチウムイオン電池は、一般的に「全固体電池」と呼ばれるものであり、トヨタ自動車などが2025年以降を目途に本格的な実用化を目指すと宣言している電池です。全固体電池は、液体の電解質を使用せず、リチウムイオンを導電する固体の電解質を使用しています。

一方、今回取り上げる全固体リチウム硫黄電池は、更に先の2030年以降を見据えた電池です。リチウム硫黄電池という種類の電池があり、その液体電解質を固体にしたものが、全固体リチウム硫黄電池です。

全固体リチウム硫黄電池の実用化は2030年以降との見方が強い

全固体リチウム硫黄電池の電池容量の比較

チリウム硫黄電池は、高エネルギー密度の次世代電池として期待される

リチウム硫黄電池は実験室で350~500Wh/kg程度のエネルギー密度を実証しています。硫黄の高い容量とリチウムの低い原子量から、理論的には2,500Wh/kgという高いエネルギー密度を達成することが可能です。

全固体リチウム硫黄電池の場合、液体電解質に関連する問題(デンドライト形成、漏液、可燃性など)を軽減できる可能性があるため、エネルギー密度は液体電解質電池よりもさらに高くなる可能性があります。しかし、この分野の研究はまだ初期段階にあり、将来的に達成可能な最大エネルギー密度について明確な答えは出ていません。

全固体リチウム硫黄電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、高いエネルギー密度を持ちます。このため、より長時間の充放電が可能であり、より長い航続距離を持つ電気自動車や、より長時間稼働する機器に利用されることが期待されています。

全固体リチウム硫黄電池は、500Wh/kg以上の高いエネルギー密度が期待できる

全固体リチウム硫黄電池のメリットとデメリット

メリット

全固体リチウム硫黄電池のメリット

  • 高いエネルギー密度を持ち、より長時間の充放電が可能である。
  • 液体電解質を使用しないため、液漏れや燃焼のリスクが低い、より安全な電池である。
  • 硫黄が豊富に存在し、地球におけるリチウム硫黄電池の製造に必要な資源は比較的安定している。
  • リチウムイオン電池に比べて、充放電サイクル数が多く、寿命が長い。

デメリット

全固体リチウム硫黄電池のデメリット

  • まだ商業的に普及しておらず、高価である。
  • リチウム硫黄電池は、充放電時に発生するリチウム多硫化物が、電池の充放電サイクル数によって蓄積され、電池の性能が低下する問題がある。
  • リチウム硫黄電池は、充放電時に硫黄が拡散しやすく、劣化が起こることがある。

全固体LiS電池に限らず、全固体電池は、商業的に普及しておらず、高価であることです。現在、全固体リチウム硫黄電池は実用化されておらず、研究段階にあります。また、全固体電池自体がまだ高価なため、全固体リチウム硫黄電池も高価であるとされています。

リチウム硫黄電池に特有の問題点もあります。リチウム硫黄電池は、充放電時に発生するリチウム多硫化物が蓄積されることによって、電池の性能が低下する問題があります。また、充放電時に硫黄が拡散しやすく、劣化が起こることがあるとされています。これらの問題点は、現在研究者たちが取り組んでいる課題の一つであり、解決することが求められています。

全固体リチウム硫黄電池に関連する企業

(トヨタ自動車企業WEBサイトより)

トヨタ自動車は、全固体リチウム硫黄電池の開発に力を入れています。トヨタ自動車は、国内で複数の特許を出願しており、その中には全固体リチウム硫黄電池用正極や製造方法に関するものがあります。

以下がトヨタ自動車の特許となります。

No.文献番号発明の名称
1特開2022-158610全固体リチウム硫黄電池用正極
2特開2020-119761全固体リチウム硫黄電池用正極の製造方法
3特開2019-197713正極合材の製造方法
4特開2018-060680全固体リチウム硫黄電池用正極
5特開2018-026200全固体リチウム硫黄電池の製造方法
6特開2018-026199全固体リチウム硫黄電池の製造方法

トヨタ自動車が出願した特開2022-158610は、正極に関するものです。

この特許は、全固体リチウム硫黄電池の正極(プラス側)の製造方法について述べています。

正極、負極、固体電解質の作り方の一つにスラリーを使った方法があります。スラリーは、液体の中に粉末が浮遊している状態のものです。しかし、正極のスラリーに一般的な溶媒(液体)を使うと、硫黄を含む正極中の硫黄が偏ってしまうことがあります。これによって電池の性能が低下してしまいます。

そこで、この特許では、特定の溶媒を使うことで、硫黄の偏りを抑制し、高性能な全固体リチウム硫黄電池を作ることができると主張しています。正極活物質層内の硫黄の偏りが減少し、電極構成物質間の接触面積が良好に維持されるため、電池の性能が向上します。

正極活物質(リチウム)と固体電解質の間に空隙が多くできてしまい、電池の性能が低下してしまう問題を、メカニカルミリング処理(機械的に粉砕する方法)と非酸素条件下(酸素がない状態)300℃~500℃の熱処理で低減する。

トヨタ自動車が出願した特開2019-197713は、リチウム硫黄電池用の正極(プラス側)合材の製造方法について説明しています。

従来の製造方法では、正極活物質(リチウム)と固体電解質の間に空隙が多くできてしまい、電池の性能が低下してしまう問題がありました。

新しい製造方法では、リチウム(Li2S)を含む正極活物質、固体電解質、導電助材を混ぜた原料を粉砕し、複合体(成分が混ざり合って反応したもの)を作ります。その後、この複合体を酸素がない状態で、300℃~500℃の温度で熱処理を行います。これにより、正極合材の空隙率が低下し、電池の容量が向上することがわかりました。

全固体リチウム硫黄電池の実用化に向けて、今後もトヨタ自動車をはじめとする多くの企業が研究開発を進めていくことが予想されます。

まとめ

全固体リチウム硫黄電池は、従来のリチウムイオン電池に比べて、より高いエネルギー密度を持ち、より安全な電池として期待されています。

しかし、まだ実用化には至っておらず、技術的な課題が残っています。今後も材料の改良や、電解質の改良などが進められ、全固体リチウム硫黄電池の実用化が進むことが期待されます。

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