CAE解析では、どの程度の予測精度が必要なのか。
10年ほどCAE解析の先任者をやっていると、計算精度の議論は尽きることがない。
もちろん、必要な制度は時と場合によるが、今回は大きく「製品設計で使う場合」と「先行開発や研究で使う場合」に分けて、経験則を述べていきたい。
設計で使う場合
絶対値が重要
序列だけでなく、予測する絶対値が重要であることが多い。
たとえば、強度計算で設計案Aは変形量が5mm、設計案Bは6mmである、といった具体的な数値が、そのまま図面に影響を与える。
実測と計算の差を埋めるために、数値をオフセットする事すらありうる。
結果の再現性が求められる
常に同じ結果が得られる必要がある。シミュレーションソフトのバージョン違いによる差が問題となる事すらある。
特に、医療や品質保証にCAE計算を用いる場合、そもそも規格認証されたソフトウェアでの計算結果である必要があったり、以前との結果・条件の相違を問いただされることがある。
分野によって活用の度合いが異なる
構造解析(強度計算など)、流体解析(流れ、圧力損失)などは普通に使われるようになっている。
一方で、化学反応、電磁場、などはまだ設計活用は難しいし、マルチスケール計算なども、さらにその先にいる。
3Dシミュレーションよりも1Dシミュレーションといった、モデルベースの設計ツールの方が使いやすい場合もある。物理現象をしっかり追いかけるよりも、inputとoutputを定義して、間を機械学習でも近似式でもよいので置いてやれば、容易に設計ツールが構築できるためである。一方で、物理現象を解いていないために、外挿データに対して精度よく予測することが難しいなど課題がある。
先行開発や研究で使う場合
序列再現がメイン
序列再現ができていれば十分な場合が多い。もちろん、予測した性能が、絶対値まで実物と一致することが望ましいが、なかなか難しい。
先行開発や研究は量産品でもないものを扱う場合も多く、実測データにもばらつきや不確かさがあり、絶対値を比較できる実測データが乏しいという点でも、設計に用いる計算ほど絶対値を重要視していない。
メカニズム解明できるか
精度よりも、むしろ現象解析やメカニズム解明を大事にする。
いわゆるワンオフの計算技術も多く、つくったものの横展できずに、最終的に腐っていく(ノウハウとしては残るが設計活用などはされない)。
計算技術の開発の流れ
計算技術開発は、
徐々に実験データも溜まっていき、計算精度が上がってきたところで、設計に展開していく場合もある。
期待される精度と現実のギャップ

設計部署が「こんな性能予測ツールが欲しい」と、計算技術を開発する部署に相談を持ち掛ける。
この時点では、設計部署はあらゆる寸法を設計できるツールを期待している。
一方で、計算技術者はそんなことは無理だとよく理解しており、この時点で依頼者と受ける側での想いのギャップがある。
計算精度を上げる1年目
1年くらい先任者を立てて本気で取り組めば、計算精度は”ある程度”のところまで向上する。
一方で、設計部署の理想は未だ高い。
前提を理解しておけば、設計にも使える計算精度が出ているにも関わらず、理想と現実のギャップがあり活用が進まない。
計算技術は、設計活用してこと意味のあるものであり、ツールだけが出来上がって使われない状態は何も生み出していないgm同然である。
設計部署の理想を下げる2年目
2年ほどたつと、設計者側が徐々に「自分たちの理想としていた計算ツールは無理なんだな」という事に気が付き始め、期待が下がってくる。
ここがチャンスで、計算精度を大きく伸ばすことなく(つまりは精度改善の工数を割くことなく)、設計部署の期待を下げることに注力する。
・計算を実際に活用した例を示す
・計算精度がどこが不足していて、その範囲なら十分使えるのか示す
・CAEソフトの使い方を教える
・サロゲートモデルなど容易に使えるツールにする
こうして設計部署の期待を下げ、計算技術を普及・活用し、モノを作る前に性能予測できるようになって初めて、この一連の技術開発が結実する。
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