CAE技術者の社内配置:設計 vs 専門組織

CAEの考え方

製造業では、CAEを活用した設計で設計サイクルを短くし、コストダウンを図ることを目指し続けてきました。最近ではDXの名目でもてはやされることも多くなっています。

ここ20-30年間の努力の甲斐もあり、少しずつ製造業のデジタル化が進んでいるなかで、CAEの組織をどのように社内で持つべきなのか、組織論が議論されることが増えてきました。

CAEとは

CAE (Computer-Aided Engineering) は、コンピュータを使ってエンジニアリングの設計・分析・シミュレーションを支援する技術のことです。

CAEを活用することで、設計者が製品の性能を予測し、問題を早期に発見することができます。結果として、製品開発のスピードアップ、品質の向上、コストの削減などのメリットが享受できます。

企業はCAE技術者をどこに配置すべきなのか

「CAE技術者を、会社内のどこに配置するべきなのか」という議論は、CAEが流行り始めてから常に行われてきました。選択肢としては大きく2つです。

1.設計部門にCAE技術者を配置する

1つ目は、CAE技術者を各設計部署に配置する、という考え方です。

大企業では、製品ごとに部署が分かれており、製品Aの設計、製品Bの設計が部署として独立しています。それぞれの設計部門でCAE技術者を持つという選択肢が1つ目です。

メリット

CAE技術者を各設計部署で持つメリットは、以下のようなものが考えられます。

・設計課題をタイムリーに把握できる

・必要な技術のみを開発できる(無駄が少ない)

CAE担当者は1つの製品の設計に詳しくなり、どこでCAEを活用すると最も効果的かを見極めやすくなります。本当の意味でCAEのコストメリットを出すためには、設計部署にCAE技術者を配置することは必須です。

デメリット

一方で、CAE技術者を各設計部署で持つデメリットもあります。

・技術研鑽が難しい

・CAE専任となりにくく、図面を書く、実験もする、など設計業務全般を担わされる

CAE技術者としてのスキルアップの機会を持ちにくくなる点がデメリットです。設計部署にCAE技術者が1人しかいなければ、新しい技術の調査や勉強を自身一人で行わなければなりません。

2.先行開発部署に集めてCAE専門部隊を作る

2つ目の選択肢は、製品開発部の技術者をすべて同じ部署に集めて、CAE専門の部署を作る方法です。

メリット

CAE専門部署を持つメリットは、以下のようなものが考えられます。

・設計と切り離した時間軸でCAE技術の高度な研究、開発が可能

・高度な専門をもった技術者の育成が可能

純粋な技術力を磨くためには、専門領域に特化したチームを作ることで専門知識やノウハウを共有することができ、専門的なタスクをスムーズに実行することができます。

デメリット

CAE専門部署を持つデメリットは、以下のようなものが考えられます。

・設計課題の把握が難しい

・キャリアパスの構築・開拓が難しい

CAE専門部署を持つ場合の注意点として、設計とのコミュニケーションを意識的に行う必要があるという点です。

CAE技術だけ完成しても、設計に活用されなければ意味がありません。実験や試作回数が減ることで、設計の進め方の中にCAEが入り込んでこそ意味があります。

理想の姿

CAE技術者の、理想的な組織配置はどのようなものなのでしょうか。

CAEも分野が様々あり、また各社状況が異なることから、一概にこの方法が理想という結論を出すことは難しいです。

私の経験では、先行開発にCAE専門の部署を持ち、かつ設計部署にもCAEに詳しい技術者がいる、という状態が理想に近いと感じます。

特に大企業では、設計と先行開発でCAE技術者を数年ごとにトレードして、CAE技術力の底上げと設計課題の共有を円滑に進められるようにしています。

CAE技術者自身は、どこに身を置くべきか

私自身は、現在は先行開発のCAE専門部隊でCAE技術開発をしている身であり、過去には設計でのCAEも担当してきましたが、どちらにも一長一短があります。

設計にいるとCAE技術以外の業務(図面作成、資料作成、発注などの調整、試験や実験の調整)も行う必要があり、相対的にCAEに割く時間が減ってしまいます。

ただ、製品について詳しくなると、CAEにおいても「どこがこの製品設計の肝か」が理解できるようになります。CAE結果の考察も2~3段深く考えることができるようになり、設計技術者としてのレベルが大きく向上します。

先行開発では「ほんとにこの技術使うのかよ」と思いながらCAE技術開発することも少なくありません。また、実験を設計任せにしてCAEだけを行うことが多いため、実験結果に誤りがあった場合に気付けなかったり、実験の測定ミスを有意差としてCAEに入れ込もうと頑張ってしまったり、考慮すべき前提を見失ってしまったりします。現地現物から遠くなる、ということです。

CAE専門部隊では、他にもCAEについて詳しい技術者が同僚として身近にいるため、スキルアップや自己研鑽が進みます。CAEソフトの中でどのような計算が行われているのか、CAEの高度化、自動化、最適化、機械学習活用など、デジタルの専門知識が学べます。

設計と先行開発を適宜行き来して、技術と知見・経験を重ねるのが、理想的なキャリアパスなのだと思います。

まとめ

CAE技術者を、社内組織のどこに配置すべきかについて議論してきました。

CAE技術の専門性を高めるためには、CAE専任部隊が必要です。一方で、CAE部門が開発した技術を設計部署で活用する流れを作る必要があり、各設計にもCAE担当者を置き、意識的なCAE技術者間でのコミュニケーションを図ることが望ましいと言えます。

参考になれば幸いです。

CAEの考え方
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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