フッ化物イオン電池とは、トヨタ自動車と京都大学が共同で開発した電池の一種であり、リチウムイオン電池に代わる新しいバッテリー技術のひとつとして注目されています。
フッ化物イオン電池は、従来のリチウムイオン電池と比較して、より高い体積エネルギー密度を持ち、車載用途などの分野での実用化が期待されています。
フッ化物イオン電池とは

フッ化物イオン電池では、Li+ではなく、F-(フッ化物イオン)が電極間を移動するという特徴があります。負極にはPbのほか、SnやIn,Biなどの遷移金属が用いられます。
高い体積エネルギー密度が実現できるため、将来電池として期待されています。
エネルギー密度の比較
フッ化物イオン電池のエネルギー密度は、体積エネルギー密度と質量エネルギー密度に分けて紹介します。
体積エネルギー密度

フッ化物イオン電池とリチウムイオン電池とのエネルギー密度を比較すると、体積エネルギー密度はセル当たり1500Wh/L以上を目指しています。
これは、ニッケル系リチウムイオン電池の体積エネルギー密度700Wh/Lに比べて、約2倍以上の高さを誇っています。
質量エネルギー密度

一方、重量エネルギー密度については、リチウムイオン電池(NMC系)と同程度の約250Wh/kg程度となっています。
フルオライドイオン電池は重い元素のLaを使っているため、電池の重量が重くなってしまい、車載用で特に重要視される重量に対するエネルギー密度は小さくなります。
メリット・デメリット
フッ化物イオン電池の最大のメリットは、高いエネルギー密度です。
原理的には、リチウムイオン電池の少なくとも7倍、最大10倍のエネルギー密度を持つことができます。
また、フッ化物イオン電池は、リチウムイオン電池と比較して、環境負荷(採集にかかるエネルギー)が小さく、資源的な問題がないため、環境面でも優れています。
一方で、デメリットもあります。
フッ化物イオン電池は充放電特性が悪く、劣化が激しく、20回の充放電サイクルで30%性能低下するとも報告されています。
耐久性向上ために電解質の固体化も検討されていますが、薄膜の固体電解質を用いても約30回で約25%劣化するといわれています。
メーカーと用途

フッ化物イオン電池を開発しているのは、トヨタ自動車と京都大学です。
「フッ化物イオン電池」の特許はほぼトヨタ自動車の特許であり、2012年頃から50件を超える特許が出願されています。
フッ化物イオン電池の原理

フッ化物イオン電池は、プラスイオンではなく、マイナスイオンを電荷移動体として使う電池の代表的なものです。
これまで使われてきたリチウムイオン電池は、イオンを収納するために”ホスト材料”(タンクのようなもの)を使っており、その材料の重量や容積が嵩みます。
フッ化物イオン電池のは、ホスト材料を使わず、金属そのものを電極として使っている(表面にくっつける)ため、電極を大幅に小型化できます。
一方で、ホスト材料を使わないために、劣化が大きくなるのではないか、とも言われています。
実用化への課題

フッ化物イオン電池の課題の一つに、耐久性の悪さが挙げられます。
上の図は、豊田中央研究所のフッ化物イオン電池の特許の図です。負極のSnが、放電により表面に結晶粒が生成し、完全に放電するまえには、負極前面がおおわれて、電池としての性能が大幅に低下することが指摘されています。
この課題を解決するために、使用する貴金属を変更するなどによって、耐久性を向上させる試みが行われています。
実用化の目途
フッ化物イオン電池の実用化時期については、最速で2030年頃の見通しが出されています。京都大学の内本喜晴教授によれば、体積・重量ともに従来材料を大きく上回るインターカレーション系の化合物の存在が明らかになりつつあるとしています。
まとめ
フッ化物イオン電池は、リチウムイオン電池に代わる新しいバッテリー技術として注目されています。
高い体積エネルギー密度を持つため、車載用途などの分野で活用することが期待されています。
しかし、まだ実用化に向けて課題が残っており、実用化は2030年以降との見方が強いです。今後の技術の進展に期待したい分野です。
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