EV用電池のコバルト需給の見通しと採掘の実態

車載電池

リチウムイオン電池は、携帯電話、タブレット、ノートパソコンなどの小型電子機器の充電式電池として広く利用されています。

小型電子機器の市場が拡大することで、リチウムイオン電池の主要な原料であるコバルトの需要が急速に増加しています。

コバルトの主要産出国

バッテリーメタルのサプライチェーン。RDはDemocratic Republic(民主共和国)の略

コバルトは、その約50%がコンゴ民主共和国に存在しています。今後のコバルト埋蔵量は350万トンとされており、オーストラリア、キューバ、フィリピンが続きます。

コンゴ共和国(DRC)はアフリカ大陸の内陸に位置(GoogleMapより)

コンゴ民主共和国はアフリカ大陸に位置し、世界で最も貧しい国の一つです。

何十年もの間、内戦や政情不安に苦しんできました。

コンゴでは、採掘業者(内資・外資)による採掘だけでなく、個人による採掘も行われており、コバルト採掘はコンゴの主要な産業となっています。

コンゴ共和国シャバラ鉱山(朝日新聞社HPより)

現在、コバルト採掘の20%は、コバルト南部で手掘りによって採掘されています。

コンゴでは11万~15万人の鉱山労働者が手掘りの採掘作業に従事しています。

個人による採掘は労働環境が過酷であり、子供たちも採掘に関与しているという情報もあります。子供たちが採掘現場で働くことは、国際的に「最悪の形態の児童労働」とされ、政府はこれを禁止し根絶する必要があります。

企業は、紛争関与や人権侵害のリスクを低減する目的から、自社のサプライチェーンにおける鉱物資源の原産地や供給源を追跡し、透明性を確保する取り組みを行っています。

それでも、コンゴの鉱山で児童労働が横行し、日本企業がコンプライアンス上の問題を懸念していることが背景にあり、日本企業のコバルト調達のシェアは低い傾向です。

朝日新聞社Youtubeより

コンゴでのコバルト採掘には、中国企業が大きな影響力を持っており、生産シェアの3割超が実質的な中国資本となっています。

中国のコバルト製品メーカーである浙江華友コバルトの子会社、コンゴ国際鉱業(CDM)も、コンゴでのコバルト採掘に関与しています。

中国資本の採掘業者は、中国や韓国のバッテリー部品メーカーにコンゴで採掘したコバルトを加工した製品を販売しています。

コバルトは、酸化コバルトの形でリチウムイオン電池の正極材料として用いられます。

世界的に進む自動車の電動化に合わせて、リチウムイオン電池の需要が増大していることから、材料としてのコバルトの需要も増加しています。

今後の見通し

コバルトの需給について、今後の見通しを短期・長期の目線で解説します。

短期的目線

https://jp.tradingeconomics.com/commodity/cobalt

短期的な価格の予測では、コバルト価格が下落するとの見方が強くなっています。

2023年のJOGMEC(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の金属資源情報によれば、景気後退による需要減を主な理由として、コバルト価格が約39%下落すると予測されています。

実際、予想された通り、2023年の年初来コバルト価格は40%程度の下落が起こっています。

ただ、これは短期的な目線での価格変動であり、長期的目線では違う見方ができます。

長期目線

長期的に見ると、コバルトの需要は10年で5倍以上に増えると推定されています。

リチウムイオン電池に用いられる三元系電極(MNC)には、ニッケル・コバルト・マンガンといった貴金属が用いられます。

近年、正極材料のコバルト使用量は減少傾向にあります。

コンゴを含むコバルト産出国の政情不安から、供給リスクがあること、コバルトよりもエネルギー容量を持つニッケルを増やすことで高容量の電池が期待できること、などが主な理由です。

将来的に、1つの電池セルに用いられるコバルト量は、現在の半分にまで減少すると予想されています。

経産省資料 蓄電池産業戦略より、蓄電池市場の拡大

しかし、電池の需要自体は大幅に増加する見込みがあり、2019年から2030年までの間に、世界の蓄電池市場は10倍以上に拡大すると予測されています。

結果として、電池1セルに用いられるコバルト量は減るものの、電池の需要そのものが増加するため、結果的にコバルトの需要も増え続けるものと考えられます。

コンゴ南部のKolwezi(コルウェジ)の鉱山

このような需要増加の背景には、電気自動車(EV)の普及が大きな要因となっています。

EV市場の成長は著しく、多くの自動車メーカーが電動車両の開発と生産に力を入れています。

EV用電池の需要は、その性能と容量の向上によって急速に増加しており、コバルトは電池の重要な材料として欠かせません。

まとめ

EV用電池に重要なコバルトについて解説しました。

コバルトの主要な産出国はコンゴ民主共和国であり、その埋蔵量の約50%が同国に存在しています。コンゴ民主共和国は内戦や政情不安に苦しんでおり、コバルトの採掘には採掘業者と個人の採掘が関与しています。

長期的には、次の10年間でコバルトの需要が5倍に増加すると予想されています。三元系(MNC)正極のコバルトの使用量は減少する一方で、電池需要は大幅に増加する見込み(2019年から2030年までの世界の蓄電池市場は10倍以上増加する予測)で、結果的にコバルトの需要が減ることはなさそうです。

今後も情勢を注視していきます。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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