中国SVOLTの「コバルトフリー電池」は何が凄いのか?

車載電池

中国の電池メーカーであるSVOLT Energy Technology Co., Ltd(エスボルト・エナジー・テクノロジー)は、EV用電池の大手企業として注目を集めています。

本記事では、SVOLTの事業と電池技術について解説します。

SVOLTとは?

SVOLTは中国資本のバッテリーサプライヤーです。長城汽車の電池部門が分離独立した企業で、現在の主要顧客はSVOLTのスピンアウト元である長城汽車のほか、ステランティスを含む複数の有名OEMから受注しています。

コバルトフリー電池はその名の通りコバルトを使わない

SVOLTのコバルトフリーバッテリー、SVOLTHPより

SVOLTは、従来の三元系(NMC)やリン酸鉄系(LFP)といった主流のリチウムイオン電池にとどまらず、新しい電池の技術開発を進めています。特筆すべきは、コバルトフリーバッテリーの大量生産を2021年7月に開始したことです。コバルトフリーバッテリーは、その名の通りコバルト資源に依存せず、高耐久性でかつ低コストな電池です。

コバルト比率は今後縮小が見込まれている

通常、リチウムイオン電池の正極活物質には、ニッケル・コバルト・マンガンの合金が用いられます。一般に「NMC系」などと呼ばれる正極材料です。NMC正極に用いられる金属(ニッケル・コバルト・マンガン)はバッテリーメタルと呼ばれており、重要な素材として注目されています。

なかでも、マンガンは採掘時の非人道的労働環境が問題視されており、コバルト使用にはリスクが伴います。また、ニッケルを増やすほど電池容量が増えることから、2020年以降ニッケル比率の増加が進められており、コバルトは使われなくなってきています。

SVOLTのコバルトフリーバッテリーは、ニッケル 75%、マンガン 25%で構成された活物質を用いており、コバルトを使用していません。コバルトを使用しないことで、材料調達のリスクを低減し、かつニッケル比率を高めることができます。

耐久性を向上

SVOLTのコバルトフリー電池の技術的な特徴として、電極材料の単結晶化が挙げられます。純度の高い単結晶の電極材料(活物質や導電助剤)を、超高圧ロールプレスで圧縮して製造することにより、従来に比べて10倍の耐久性向上を実現したとしています。

品質の低い電極材料では、超高圧ロールプレスによる圧縮によって電極の微細な構造が変形し、大きな劣化が起こるのに対して、単結晶の高品質材を用いることで、圧縮時の構造変化を小さくでき、耐久性を向上させています。

SVOLTに限らず、すべての電池メーカーが、素材メーカーと協力しながら、こういった小さな技術開発の積み重ねによって電池の性能を向上させています。

単結晶と多結晶のどちらが高性能であるか、については研究が進められており、耐久性の観点からは単結晶が良く、一方で初期性能が高いのは多結晶のNMCで、多結晶のNMCの方がコストも安い、という研究結果もあります。以下の記事でも研究内容について詳しく解説しています。

エネルギー密度は235Wh/kg

また、ナノネットワークコーティングを施すことで活物質表面に被膜を形成し、電解質との反応性を防ぎ、高電圧下(充電量の多い状態)でのサイクル特性を改善しています。

H-プラットフォーム
エネルギー密度235Wh/kg
耐久サイクル3000サイクル

SVOLTのコバルトフリーバッテリーは、「Hプラットフォーム」と「Eプラットフォーム」の2種類が開発されています。ハイエンドモデルに搭載されるバッテリーのHプラットフォームは、セルとしての重量エネルギー密度は235Wh/kgと比較的高く、その寿命は3,000サイクルを超えます。SVOLTのバッテリーはSVOLTのスピンアウト元の長城汽車で繰り返しテストされ、航続距離は驚異の880kmに到達したとされています。

コバルトフリーはコストへの影響度も大きい

1kWhのLIBに必要な原料鉱石の輸入価格(NEDO「電気自動車用革新型蓄電池開発」(中間評価)プロジェクトの概要(公開版)資料より)

コバルトを使用しないことで、コストを大幅に下げることができます。NMC正極のコストの内、大きな部分を占めるのがコバルトです。20%しかコバルトを含まないNMC(532)であっても、コストの半分を占めるコバルトを不要とできることから、コストの低減も可能です。

コバルトフリーは市場に出回っている

2021年8月、長城汽車のオーラブランド初のSUVに、コバルトフリー電池を利用した電池パックが採用されています。バッテリーパックは容量が82.5KWh、エネルギー密度が170Wh/kgとされています。

SVOLTの設立経緯と出資元

魏建軍(Wei Jianjun)氏

SVOLTは、中国の中堅自動車メーカーである長城汽車(Great Wall Motor Company Limited)の電池開発部門が分離独立して2018年に設立されました。目下のところ主要株主である魏建軍(Wei Jianjun)氏は、長城汽車の董事長(会長に相当)を務めています。

SVOLTはバッテリーセル、バッテリーモジュール、バッテリーパックと、それに対応するソフトウェアを提供しており、自動車メーカーに車載用のリチウムイオン電池を提供しています。

シェアと主要顧客

2021年時点でのSVOLTの世界シェアは1.6%で、電池容量換算で0.84GWh(ギガワット時)、企業別のランキングでは8位に位置しています。目下のところSVOLTの主要顧客は長城汽車(親会社)のEVおよびPHEVです。2023年時点では11位まで後退しており、シェアの拡大には至っていません。

2023年時点で、世界シェア首位の寧德時代新能源科技(CATL)のシェアが36.8%、2位の比亜迪(BYD)は15.8%、3位の韓国のLG化学は13.6%を占めていることを考えると、まだ成長の余地があると言えるでしょう。

事業の拡大

SVOLTは電池事業の拡大を模索しており、特に欧州とタイ市場への進出が重要な戦略となっています。

欧州での事業拡大

SVOLTは欧州市場にも進出しており、2031年までにヨーロッパで少なくとも50GWhの生産能力を目指しています。これは最大100万台の電気自動車に電力を供給するのに十分な量だとされています。2022年時点でのSVOLTの生産量は8GWh、50GWhは業界4位のパナソニックをも凌ぐ生産量です。

欧州での需要の高まりを受けて、SVOLTはヨーロッパに5つのバッテリーセル工場を建設する計画を進行中です。そのうちの2カ所はドイツに設置される予定であり、欧州自動車大手のステランティスからも受注を受け、2025年から供給される予定です。

※ステランティスは、フランスのグループPSAと欧米のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が経営統合して発足した企業です。

タイでの事業拡大

東南アジアで2番目に大きな経済大国であるタイにおいても、SVOLTは事業を拡大しています。タイでは、電気自動車やハイブリッド車用のバッテリーパックを製造する工場の建設を2023年までに完成させる予定です。この工場では、年間6万個のバッテリーパックを組み立てる能力を持ち、バッテリーモジュールの組立ラインも設けられる予定です。

SVOLTは、長城汽車のタイの車両組立工場にバッテリーを供給するほか、中国のHozon社を含む他の潜在顧客とも交渉中とされています。

NIOと大型円筒形電池の提携へ

SVOLTは、NIOと大型円筒形電池の共同開発を目指して合弁会社を設立しました。中国EV新興のNIOは以前、電池の内製化を試みたものの、リチウム電池材料の価格高騰により撤退していました。

SVOLTとNIOが合弁で開発するのは、大型の円筒電池です。

テスラが2020年に発表した大型円筒形電池「4680」は、業界に衝撃を与えました。既存の電池セルよりもエネルギー密度が5倍、航続距離は16%向上するというその性能は、多くのメーカーが追随を余儀なくされました。

今回、NIOは新たなパートナーシップを模索することで、再び電池開発に挑戦しています。大型円筒形電池を開発し、NIOのEVに搭載するとしています。双方の技術やノウハウを結集することで、大型円筒形電池の量産化や効率化がさらに進むことが期待できます。

ドラゴンアーマーバッテリー

SVOLTは、年末直前に安全性を高め、航続距離を伸ばすためのバッテリーパックの技術革新を発表しました。新しい「ドラゴン・アーマー・バッテリー(Dragon Armor Battery)」は、2023年に世界中で予約受付を開始し、2023年に最初の量産モデルに採用される予定です。

ドラゴン・アーマー・バッテリーは、電池セルの電極が新開発されたわけではありません。バッテリーパックの設計を変更することで、同じ広さの領域により多くの電池セルを搭載することができるようにする技術です。同様の搭載技術は、競合他社のBYDは「ブレードバッテリー」、CATLは「麒麟電池」といった名称で開発・市場投入しているもので、中国の電池メーカーでトレンドとなっている技術です。

ドラゴン・アーマー・バッテリーを活用することで、EVの航続距離は800キロメートル以上(リン酸鉄系セル)から1,000キロメートル以上(三元系セル)にまで拡張される見込みです。

ドラゴンアーマーバッテリーについては、以下の記事でより詳しく解説しています。

まとめ

SVOLTは持続可能な電池技術の開発に積極的であり、コバルトフリーバッテリーやドラゴン・アーマー・バッテリーなどで競争力を築いて自動車業界における重要なプレーヤーとなっています。

欧州やタイへの進出も計画し、グローバル市場における存在感を高めることを目指しています。長城汽車との関係を基盤に、継続的な技術革新を行い、グリーンエネルギー産業への貢献が期待されています。今後も動向を注視していきます。

関連記事

車載電池
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

Montenegro Hasimotoをフォローする
シェアする
橋本総研.com

コメント

タイトルとURLをコピーしました