アンペアは、ルノーグループが設立した新しい会社で、電気自動車(EV)とソフトウェアに特化しています。この記事では、既存の自動車メーカーがEV開発を別組織で開発するのかに焦点を当て、ルノー資本のアンペアの展開する電気自動車ブランドについて解説します。
なぜ既存のメーカーはEVを別組織で開発するのか?
EVを既存のメーカーが別会社で立ち上げて開発する理由は、既存組織ではできない給与体系を使って他業界の重要人物を引き抜き、開発を進めたい思惑から来ています。
近年のEVはソフトウェアの塊であり、車載ソフトウェアのコードは10億ステップ(コード行数)にも至ると言われています。このような高度なソフトウェアの開発は既存の自動車メーカーでは手に負えない(必要なソフトウェア開発人員は1万人とも言われる)ため、ソフトウェア業界から優秀なエンジニアを採用する必要があります。
一方で、自動車業界の給与体系はソフトウェアよりも低い水準であり、既存の人事制度ではソフトウェア人材の採用が難しいのが現状です。そのため別組織を立ち上げ、完全に別の給与体系で車両開発をすることがトレンドとなっています。
EV組織を別会社として立ち上げるほかに、会社内にEV組織を作る企業も見られます。トヨタ自動車のBEVファクトリーはその例で、開発/生産/事業をすべてBEVファクトリー内で行うとしています。
アンペアとはどんな企業か?
アンペア(Ampere)は、フランスの大手自動車メーカーであるルノーが設立した新会社です。主に電気自動車(EV)およびソフトウェアを開発します。アンペアは一部の株式を上場するとも報道されており、上場によりEV開発に必要な莫大な資金を確保する目論見です。
アンペアの設立は2023年11月。CEOは、ルノーのCEOであるルカ・デメオ(Luca de Meo)氏です。アンペアの計画では、欧州での新車販売の100%を、2030年までにEVにする予定です。
日産・三菱も出資
日産自動車も最大で6億ユーロ、三菱自動車も最大で2億ユーロをアンペアに出資する予定とされています。アンペアの出資元であるルノーと日産、三菱はアライアンス関係にあることが知られていますが、アンペアへの出資に関してルノーは「無理強いはしていない」とのことです(本当か?)。
出資されるアンペアは、アンペアブランドだけでなく、日産の「マイクラ(日本名マーチ)」の後継車や、三菱自動車向けの電気自動車1車種も生産する予定とされています。
アンペア上場を2024年前半に予定
ルノーは15日、新会社「アンペア」を2024年前半に上場すると発表しました。しかし、ロイター通信が2023年10月末に関係者の話として報じたところによれば、アンペアの評価額が70億ユーロを下回れば、ルノーはIPOを見送る可能性があるとのことです。もし上場が延期されても、ルノーは直ちに資金不足にはなりませんが、アンペアの成長が阻害されることは避けられないでしょう。
各国の金利の上昇が原因で、IPOに資金が集まりにくくなっていることも懸念材料とされています。欧州市場での2023年7月から9月までのIPOによる資金調達額は46億ユーロで、前年同期の半分以下にとどまっていました(プライスウォーターハウスクーパーズによる調査結果)。
新会社を設立するルノーの狙い
ルノーは新型の小型電気自動車「新型トゥインゴ」を発表しました。新型トゥインゴは、2万ユーロ(約350万円)以下の価格で販売されます。今後、2031年までに以下の車種をラインナップに加える予定です。
- メガーヌ E-テック
- シーニック E-テック
- ルノー 5
- ルノー 4
- 廉価版のトゥインゴ
- その他未指定の追加車両7車種
アンペアは2027~28年までに、開発変動費を40%削減することを目標としています。Cセグメントの電気自動車を対象に、バッテリーや電動パワートレインのコスト削減、プラットフォームや上部ボディのコスト削減、製造コストと物流コストの削減などによって、開発費の40%削減を実現しようとしています。
アンペアは、自動車メーカー特有の「細分化された業務」によって、全体最適が図られていない部分を特に問題視しているようです。生産工程や組織内のタスクが小さな部分に分けられ、シャシー、パワトレ、ボデーなどの専門部門がそれぞれ独立して作業を進め、最後にすり合わせによって自動車を完成させることを非効率だと考えているようです。
アンペアは設計技術の最適化を進め、コスト削減と共に設計サイクルの短縮化を進め、成果を上げようとしています。
アンペアの具体的な車両開発技術について、以下で解説します。
プラットフォームを開発しコスト削減
アンペアは、設計上のコスト効率の向上のために、目的に適した2つのEVプラットフォームを開発しています。ひとつはBセグメント向けの「AmpR Bセグメント向け小型プラットフォーム(旧CMF-B EV)」、もうひとつはCセグメント向けの「AmpR Mediumプラットフォーム(旧CMF-EV)」です。
プラットフォーム開発は多くの自動車メーカーでも行われており、特に目新しいものではありません。注目すべきなのは、ギガキャスティングのような、車体構造を一体成型する技術が用いられるかどうかですが、発表会ではこれらに関する情報は得られませんでした。
ソフトウェアはクアルコムと協業しandroidを活用
クアルコムと共にソフトウェアプラットフォームを開発、Snapdragon(スマートフォンなどに搭載されるプロセッサの愛称)を搭載し、androidを車載OSとしたプラットフォームを用いて、自動運転やクラウド接続などの機能を実現するとしています。
クアルコムは、この一連のプラットフォームを「Snapdragonデジタルシャーシソリューション」と呼び、自動車各社に提供しているようです。
モジュール削減で電池搭載を効率化
発表されたRenalut5に搭載される次世代のバッテリーでは、バッテリーモジュールを12個から4個に減らすことにより複雑さを回避しコストを低減、過去モデルと比較して20%の部品を削減したとされています。
バッテリーモジュールは、バッテリーセルを電池パックに搭載するために用いられる部品(入れ物)で、近年はモジュールを無くすことによって、電池セルの搭載量を増やす試みが進められています。
決して目新しい技術ではなく、中国の自動車メーカーでは常識的に行われている設計手段です。セルやモジュール、パックについては以下の記事で詳しく解説しています。
日産はアンペアとのすみわけを図る
日産は、価格競争の激しい小型車「Nissan Micra(マイクラ)」(日本名マーチ)のEVの開発をアンペアで実施するようです。一方で、「リーフ」「ジューク」「Qashqai(キャシュカイ)」といったEVは日産自身が開発し、すみ分けを図るようです。
まとめ
ルノーが設立したアンペアは、EV業界において注目される新興企業であり、ルノーとの関係が強いことが特徴です。アンペアの上場には懸念もありますが、成功すれば資金調達や事業展開の加速が見込まれます。さらに、アンペアの電気自動車戦略や競合他社との評価比較も考慮しながら、その今後の成長に注目が集まっています。
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