中国が船輸送の制約から解放されつつある

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中国の自動車産業が、長年にわたる輸送面での制約から解放されつつある兆しを見せています。特に電気自動車(EV)の輸出において、中国は新たな局面を迎えています。

中国EV輸出のボトルネックは輸送力

2023年には中国の車輸出台数が491万台に達し、初めて世界首位となりました。しかし、中国自動車メーカーの欧州市場でのシェアはまだ3%程度に過ぎません。トヨタ自動車や現代自動車は、1社でも3%以上のシェアを持ちます。中国メーカーの欧州での市場シェアが思うように上がらない最大の要因は、輸送面でのボトルネックです。

自動車運搬用の運搬船チャーター料は、1日あたり平均11万5千ドル(約1800万円)に達し、2019年の7倍に高騰しました。輸送コストの上昇は、中国EVの欧州への輸出コストを大幅に押し上げることになります。輸送コストも最終的には消費者の車両購入価格に反映されるため、中国製自動車の市場競争力を低下させています。

BYDは自社でRORO船を所有する

中国の自動車メーカーの多くは、トヨタや韓国の現代自動車のように自社専用のチャーター船を持たず、海運会社に依存して自社の輸送枠を確保する必要があります。

海運市場は供給と需要の変動によって運賃が大きく変わるため、海運会社に依存していると輸送コストの予測が難しくなります。特に、需要が高まるシーズンや燃料費の上昇、船舶の供給不足などが発生した場合、運賃が急騰し、自動車メーカーの利益を圧迫します。

同様に、全世界の輸送能力は有限であり、必要な輸送枠を確保できない場合は製品の出荷遅延に直結します。輸送中の品質管理も困難で、自動車の輸送では輸送中の温度や振動も気になるところですが、これらをすべて海運会社に完全に委ねることになり、輸送中の損傷リスクが高まります。

特にバッテリーを搭載した電気自動車(EV)の輸送では、適切な温度範囲を保持することが重要です。RORO船を所有できれば、温度調節可能な保管エリアを設けることで、バッテリー性能の低下や損傷を防ぐことができます。同様に、振動を吸収する特殊な固定装置や、輸送中の車両が安定して保持されるように設計された積載システムを用いて、車両へのダメージを最小限に抑えることも可能です。

byd explorer no 1

中国輸出の最大の課題である輸送力を解決するために、BYDは自社専用のRORO船を独自に保有する計画を打ち出しました。

BYDは、2年以内に自社専用のRORO船を8隻確保する計画を進めており、「BYDエクスプローラーNo.1」がその先駆けとして、2023年2月下旬にオランダとドイツの港に到着しました。BYDエクスプローラーの導入により、BYDは自社専用の輸送能力(EV7,000台を積載できる)を手に入れ、輸送の自由度と効率性を大幅に向上させています。

RORO船(Roll On/Roll Off船)は、その名の通り、「転がして乗せて、転がして降ろす」方式で車両を積み下ろしする船のことです。この方式は、特に自動車、トラック、トレーラー、重機などの輪がついた車両を効率的に輸送するために設計されています。
コンテナ船や一般貨物船では、クレーンやその他の機械を使用して貨物を積み下ろします。これに対して、RORO船では、車両が自力で船内に入出することで積み下ろしが行われます。

2024年、欧州での勢力図が変わる

中国が船輸送の制約から解放されることは、欧州の自動車市場における「中国色」の強化を意味します。2023年まで、中国車の流入は月5万台以下に抑えられており、2024年以降は中国車の流入が劇的に増え、EVの勢力図が大きく変わることが予想されます。

中国EVが欧州で受け入れられるようになる

RORO船を含む自社専用輸送手段の拡充により、中国製自動車はより多く、より速く欧州市場に届けることが可能になります。注文から納車までの時間短縮にも寄与し、顧客満足度の向上につながります。これは、ブランドイメージの向上にも貢献する重要な要素です。

輸送コストの削減は、最終的な販売価格に反映され、中国製自動車のコスト競争力をさらに強化します。BYDは部品内製による徹底した低コスト化と、余剰在庫を値下げ戦略により売りさばく低価格戦略をとります。欧州でも中国EVの価格の安さ(欧州車大手の同型車より2~4割安い)は評価されており、今後更に市場シェアを広げていくことは間違いありません

車載電池すらも中国に依存する

独フォルクスワーゲンは、車載電池の開発や製造において、中国電池大手であるGotion(国軒高科)への依存が進んでいます。CATLなどの大手電池メーカーも低価格戦略を進めており、低価格帯の電池であるLFP電池のシェアも広がり続けています。

Gotionのリチウムイオン電池や、CATLのリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)については、以下の記事で詳しく解説しています。

まとめ

このように、中国の自動車産業は、輸送の制約を克服し、国際市場での存在感を強化しています。これは、中国が世界の自動車産業における重要なプレーヤーであり続けることを示すものであり、その影響は今後も拡大していくことが予想されます。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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