トランプが当選すると、EV政策が減速するのか?

北米

2024年の米大統領選の結果は、米国のEV政策の未来に大きな影響を与える可能性があると考えられます。

トランプ氏のEV政策(グリーン・ニューディール)に対する考え方をまとめておきます。

トランプはEV政策を任期初日に覆す

もしトランプ前大統領が再選された場合、バイデン政権の電気自動車(EV)政策に影響を与える可能性が高いです。トランプ氏は2023年7月に公開した動画で、バイデン政権のEV政策を彼の任期の初日に覆すと約束しています。

“That’s why I’m going to terminate these Green New Deal atrocities on day one.”

だからこそ、私は初日にこれらのグリーン・ニューディールの残虐行為を終わらせるつもりだ

Donald Trump

EV政策とは、グリーン・ニューディール政策と呼ばれるものです。

トランプ氏が再選されれば、グリーン・ニューディール政策はその方向を変える可能性があります。トランプ氏は、EV政策をバイデン政権の「大きな失敗」として非難し、EVの利用を制限することを提案しています。

トランプ氏の政策が、バイデン政権のクリーンエネルギー政策とは対照的な方向を取る可能性が高いことを考えると、EV拡大策が減速する可能性は否定できません。

トランプ・バイデンのEV政策は異なる

バイデン政権と、過去のトランプ政権の違いは明確です。

項目バイデン政権トランプ政権
排出基準強化された排出基準を設定
EVの普及を促進
オバマ政権の排出基準を緩和
EV支援政策EVの普及とインフラ構築を推進
(充電ステーション建設、税制優遇など)
EVの普及に対する
具体的な支援策は少ない
環境政策クリーンエネルギーと気候変動対策を優先化石燃料産業の支持
環境規制の緩和
パリ協定再加入し、気候変動対策を推進パリ協定からの撤退を決定
自動車産業との関係EV産業の成長を促進し
新しい雇用創出を目指す
伝統的な自動車産業との関係を重視
EVに対する公的な態度EVは環境保護と経済成長の鍵として肯定的EVへの移行に懐疑的
伝統的な車に焦点

トランプ氏の前任期中(2017年1月~2021年1月)、トランプ氏の政権は電気自動車(EV)の普及に対して積極的ではありませんでした。トランプ政権はオバマ政権時代に設定された自動車の排出基準を緩和。結果、EVへの移行を促進するよりも、エンジン車の規制を減らす結果となりました。

トランプ氏の政策には、EVや再生可能エネルギーへの直接的な支援はほとんど見られず、世界と逆行してパリ気候協定からの米国の撤退を決定。発電では、再生可能エネルギー、特に太陽光発電と風力発電に対する税制優遇措置の拡大にも消極的でした。

トランプ氏がEV政策に懐疑的な理由

トランプ氏がEV政策に懐疑的な理由は大きく以下の2点です。

  • 「アメリカ第一」政策で保護主義的貿易を望む
  • 支持基盤がラストベルト地域に多い

トランプ氏は、政府が市場に介入し特定の産業(この場合はEV)を促進することを好みません。現在のバイデン政権が、自由貿易と保護主義のバランスをとろうとしていることが、米国第一を考えるトランプ氏にはぬるく映るのかもしれません。トランプ氏には、国内の産業と労働者を外国競争から保護することを目指す傾向があります。

トランプ氏の支持基盤が、化石燃料に関するエネルギー産業や、製造業が強いラストベルトと呼ばれる地域に多いことも理由の一つです。ラストベルトは、かつて製造業が盛んだったものの、現在は製造業の衰退により経済的な困難を経験している地域で、アメリカ合衆国の北東部から中西部(オハイオ州、ミシガン州、ペンシルベニア州、インディアナ州など)にあたります。

ラストベルトの地域では、EVへの移行が既存の雇用に悪影響を及ぼすとの懸念があり、トランプ前大統領はラストベルト地域での支持を得るために、EVへの移行を批判しています。

トランプ・バイデンのどちらの政策が米国にとって「真に良いか」は議論のあるところで、それ故に米国内でも意見が割れています。トランプが敗北したとしても、中国を排除しようとするバイデンの政策は結果的に米国を保護する方向に動くでしょう。

実際には大きく変わらない、という見方

ジョン・ケリー米国気候公使は政権によりEV政策が逆行することは望んでいない

一方で、ジョン・ケリー米国気候公使は、2024年の米大統領選の結果に関わらず、クリーンエネルギーや電気自動車への移行は中断されないと述べています。

ケリー氏はダボス会議の聴衆に対し、「この経済革命は進行中であり、それはどの政治家や個人よりもはるかに大きい」と語っています。この数年で起きているエネルギー移行(≒EVへの移行)は、特定の政治家や、個人を超えた経済革命であり「継続すると信じている」とも述べています。

根拠としているのは、既にグリーン・ニューディール政策の恩恵を受けている自動車関連企業の経営陣が、簡単に方向性を変えて「内燃機関を継続する」という選択はとらないだろう、というものです。

多くの自動車メーカーや関連企業は、EV技術やインフラに既に重大な投資を行っています。このような投資は長期的な計画に基づいており、短期間で方向性を変えるのはコストがかかるため、短期での方向転換は容易ではありません。

市場がEVを望んでいるのか?

ただ、最終的にEVが普及するかどうかは、市場が決めることです。消費者がEVに利便性を感じることができるのであれば、自然とEV移行は進むはずです。

現在の市場動向を俯瞰すると、世界的に電気自動車(EV)の販売は大きく伸びています。

2022年には、世界中で1,000万台以上の電気自動車が販売され、2023年にはさらに35%増加し、約1,400万台に達すると予測されています。EVの市場シェアは2020年の約4%から2022年には14%に増加し、2023年には約18%まで上昇しており、消費者の関心がEVに大きくシフトしていることを示しています。

トヨタ自動車の豊田章男会長が、EV化は「政治ではなく、お客様や市場が決めること」と発言していることは有名です。

結局は、消費者が望むEVを、メーカーが提供できるかどうかにかかっていると言えそうです。

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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