全固体電池の開発競争が激化しています。
全固体電池の材料技術については日本が先行していると考えられていますが、近年は中国・韓国企業の製品適用を見据えた発表が目立ちます。
全固体電池の研究開発において、日本は国際的に先進的なポジションにいるというイメージがありますが、実際のところどうなのでしょうか。
各国の全固体電池研究の進捗を推測するために、日本、米国、中国、韓国、ドイツについて、全固体電池関連の論文数の推移を調査しました。
各国の全固体電池論文数の推移
全固体電池の論文数の推移を調査しました。
2010年代前半まで、日本が研究を先行しています。これは、全固体電池の材料である固体系電解質の研究が、産学で活発であったためと考えられます。
2016年ごろから、中国、米国が急激に論文数を伸ばしています。特に中国の伸びは著しく、2021年時点で日本は、中国、米国の後塵を拝しています。
韓国も論文数を伸ばしていますが、成長率は日独と同等です。
一般に、論文の数は中国が勝り、質は日本が先行すると考えられています。
所属ごとの論文数
論文の発行元で整理しました。論文の数は、中国の国家研究機関がトップ3を占めています。
日本のトップは大阪府立大学です。全固体電池研究所が設置されるなど、全固体電池研究が盛んで、論文数も多いものと考えられます。
トップのChinese Academy of Sciences(中国科学院)は、中国における科学の最高研究機関であり、文献内容も実用化に向けた研究が行われていることが推察できます。
中国科学院の論文キーワード(全期間)
上の図は、Chinese Academy of Sciencesが発行している全固体電池関連の論文(全期間)のから作成したWordCloudです。
注目されているキーワードとして、Performance(性能)やInterface(界面の抵抗を指すと考えられる)、Compounds(材料組成)などが挙げられます。
論文で扱うテーマは、高いエネルギー密度を実現するための、活物質と固体電解質の界面に関する材料研究が多いことが想定できます。
中国科学院の論文キーワード(2020-2021)
近年の研究課題に絞ってWordCloudを作成しました。
全期間と比較して、主要な用語は変化なく、Interface(界面)やconductivity(導電性)が重要な課題であることは変わりません。
2020年以降の注目テーマとして、Flexible(柔軟性)、stability(耐久性)、rechargeable(充電式)、safety(安全性)、cycling(繰り返し)など、より実用的課題に対するアプローチを行っていることがわります。
NIOの全固体電池でアピールされていたin-situ solidification hybrid electrolyteはゲル化による界面抵抗低減、Nickel-Ultrarichはカソード(正極)をNiリッチにしてエネルギー密度上げてるってことなので、特別な事をしてるわけじゃなく正常進化品だという認識。これを大量生産することが難しいのでは。 pic.twitter.com/q71kxc44AL
— Montenegro Hasimoto (@mnt_hasi) January 9, 2021
中国のEVメーカーNIOが、2021年1月に発表した全固体電池に関するスピーチでは、界面抵抗を低減するための工夫や、正極のニッケルを増やすことで高容量化する、などの工夫点が挙げられています。
これらNIOの取り組みは、近年の中国での全固体電池研究キーワードに近く、このスピーチで発表されている成果は中国科学院を含む、中国研究機関での成果が組み込まれていると考えられます。
出資者ごとの論文数
研究論文の「お金の出どころ」ごとに論文数を分けると、中国の国家自然科学基金委員会がとびぬけており、多大な研究資金を提供していることが推察できます。
日本のトップは文科省の予算です。日本のお家芸である材料研究と電池産業に対する研究予算はかなり充実しているはずですが、それでも中米の予算レベルと比べると見劣りすると言わざるを得ません。
研究機関以外での論文数(日本国内)
日本国内で発表された論文について、企業ごとに論文数を比較しました。(研究機関を除く)
トヨタ自動車が圧倒的で、パナソニック、日立などが続いています。これらは、全固体電池の国内特許数で比較した場合と同様の傾向にあります。
筆者の所感
全固体電池の実用化に向けた日本の国際競争力は高いと考えます。
産業界では、トヨタが2026年頃、日産やホンダが2028年ごろに、全固体電池を自動車向けに実用化することを表明しています。
一方で、材料研究など研究機関向けの投資では、日本は中国に劣っており、全固体電池が実用化された後、代わらず現在の優位を保てるかどうか、懸念が残ります。
まとめ
日本および諸外国における全固体電池開発の現状を公開論文から分析しました。
- 論文数は2018年以降中国が最多
- 日本は研究予算の面で米中に見劣りする
今後も動向を注視していきます。
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