BYD(比亜迪)は、自動車業界において革新的な技術開発で知られる中国のメーカーです。
現在はテスラを抜きEVで世界販売数トップであり、日本を含む多くの国でEVを販売しています。BYDは車載用の全固体電池も開発しており、その動向が注目されています。
本記事では、BYDの開発する全固体電池開発の最新状況をまとめます。
BYDとは
BYD Auto Co.(比亜迪汽車)は、中国陝西省西安市に本社を置く、上場している中国の多国籍メーカー比亜迪(BYD)の自動車子会社です。
比亜迪は2002年に新川汽車有限公司を買収し、BYD Auto(比亜迪汽車有限公司)が誕生しました。BYDは電気電池部門であるFinDreams Batteryを保有(主にリン酸鉄リチウム電池に注力)しており、2022年上半期の世界市場シェアは12%、電気自動車用電池の世界第3位のメーカーとなっています。
BYDの全固体電池は2倍のエネルギー密度を実現
BYDは、2016年以前から全固体リチウム電池の研究開発に取り組んでいます。その中でも、硫化物系(トヨタなど自動車メーカーが開発)および高分子系電解質(全樹脂電池に相当)を使用した全固体電池の開発に力を入れています。
BYDの全固体電池はシリコンベースの材料を負極として使用するとされており、エネルギー密度は400Wh/kgに達すると予想されています。現在主流のBYDの2世代目のブレードバッテリーのエネルギー密度は180Wh/kgであり、報道の通りであれば、全固体電池は2倍以上のエネルギー密度向上が期待されています。
日本のNEDOプロジェクトが2030年に狙う全固体電池は、電池パックのエネルギー密度を400Wh/kgとしており、BYDの目標もこれと同等となります。
業界関係者の目線からすると「まあそれくらいだよね」といったラインの性能で、特別高い目標でもない、現実的な目線と言えます。
中国での全固体電池特許はBYDが先行
中国における全固体電池の特許数では、BYDが76件で1位(2021年時点)。2位から6位までは、景泰能源(63件)、蜜蜂能源(55件)、威蘭新能源(25件)、寧徳時代(21件)、易威リチウム能源(9件)となっています。
BYDが最初に出願した全固体電池関連特許は、2017年8月に全固体リチウムイオン電池正極複合体および固体リチウムイオン電池発明特許で、それ以降継続して特許出願を続けています。
実用化の目途は2030年
BYDは、全固体電池を2030年に量産化することを目指しているとされています。
BYDは重慶で全固体電池の生産を行い、車両試験を近々行う予定です。未確認情報によれば、BYDは関連実験に合格し、固体電池の大量生産と搭載がいつでも可能であると噂されていますが、BYDはこれを否定しています。
サプライヤーとしての役割も
BYDの全固体電池を初めて搭載する車種はBYDの高級SUVとされています。
一方で、BYDの全固体電池は自社製品の車種に供給されるだけでなく、他の企業にも供給される予定とされています。特に、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、紅旗(ホンチー)への優先的な供給が考えられています。(紅旗は、中国の自動車メーカーである第一汽車が生産する高級車ブランドです)
全固体電池の外販は、自動車メーカーとしては稀で、トヨタや日産、ホンダはあくまで自社製品およびグループ会社への供給に留まるのではないかと考えられています。
中国の識者「日本が先行している」
中国科学院院士であり、清華大学の教授でもある欧陽明高(Minggao Ouyang)は、中国は自動車用パワーバッテリーの供給においてリーダーの地位にあるものの、欧米や日韓企業は次世代の固体電池の開発において先行していると述べています。
欧陽明高は、国家の視点から見ると、現在、固体電池技術の最も優れた国は日本であると指摘しています。
日本は固体電池の研究開発において非常に詳細な国家計画を策定し、各段階の役割分担が明確になっています。一方で、中国の固体電池の研究開発は各企業が独自の進展を遂げており、全体的な国家計画による推進がまだ整っていないため、日本に比べて約5年の遅れがあると述べています。
しかし、中国は常に技術の追及と革新に取り組んでおり、BYDを含む企業が全固体電池技術の開発に積極的に取り組んでいることは注目に値します。中国市場の巨大さと競争力を考慮すると、中国が固体電池技術の分野でリーダーシップを取る可能性も依然として高いです。
欧陽明高(Minggao Ouyang)氏は、中国・北京の清華大学で長江特別教授および先進パワートレイン・システム・チームのリーダーを務め、リチウムイオン電池の安全設計と管理、PEM燃料電池パワートレインと水素システム、エンジン制御とハイブリッド・パワートレイン、エネルギー貯蔵、スマート・エネルギー・システムの研究開発を指揮しています。2007年以来、中国国家重点研究開発プログラムの主任研究員を務めています。
まとめ
BYDの全固体電池は、自動車業界において革新的な技術として注目されています。比亜迪は長年にわたり全固体リチウム電池の研究開発に取り組んでおり、高エネルギー密度と高い安全性を実現するためにシリコンベースの材料を活用しています。そのエネルギー密度は、BYDの既存のブレードバッテリーよりも2倍以上も向上しています。
BYDは自社の車種に全固体電池を供給するだけでなく、他の自動車メーカーへも供給する役割を果たしています。特に、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディ、紅旗といったメーカーへの優先的な供給が予想されています。
中国は固体電池技術の開発においてまだ日本などの他の国に比べて遅れがありますが、中国の企業や研究者は着実に進歩を遂げています。今後、中国が固体電池技術分野でリーダーシップを取る可能性は非常に高いと言えるでしょう。
全固体電池は、電気自動車やエネルギーストレージなどの分野で大きな進化をもたらすと期待されています。BYDの取り組みや中国の固体電池技術開発の動向に注目し、この革新的な技術が持つポテンシャルがどのように現実化されていくのか、今後の展開が楽しみです。
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