全固体電池が実用化に近い、と言われ続けて数年経ちます。
全固体電池の研究開発が、最前線で具体的にどのように行われているのか、イメージがつきにくいのも事実です。
今回は、学会誌Sustainable Materials and Technologiesの最近のレビュー記事”An advance review of solid-state battery: Challenges, progress and prospects“から、全固体電池の研究開発の最前線について紹介します。
以下、論文の和訳ではなく、筆者の所感や経験も含まれますのでご容赦ください。
現行の液系電池の課題

2022年現在、車載電池として主流のリチウムイオン電池(LIB)は、液体の電解質を用いるためにエネルギー密度の向上に限界があります。同時に、多くの安全性の課題もあります。
液系電池のエネルギー密度をこれ以上向上させるには、Ni添加量を増やす程度しか出来る事がなく、コストアップの要因になります。
液系電池の安全性を改善するために多くの添加剤が検討されていますが、現状、問題を完全に解決することはできません。
将来的には革新的電池が必要です。
解決策としての全固体電池

Cong Li, Zhen-yu Wang, Zhen-jiang He, et al.An advance review of solid-state battery: Challenges, progress and prospects,Sustainable Materials and Technologies, Volume 29,2021,e00297,ISSN 2214-9937,
エネルギー密度が高く、安全性の高い、全固体電池が世界的に注目されています。
電解質を液体から固体にすることで、安全性の問題を解決できると考えられています。

全固体電池は、可燃性の電解液とセパレーターを使わないため、従来のリチウムイオン電池の安全性の問題を解決できます。
同時に、固体電池は液体よりも平均寿命が長くなります。電池以外の部品は従来液系LIBを転用できます。
固体電解質は、エネルギー密度の向上という意味で、並外れた可能性を秘めています。
車載だけでなく、ポータブル電子機器にも高電力を要求する傾向を考えると、全固体電池の汎用性は非常に高いです。
必要な性能
全固体電池のための固体電解質は、以下の設計要件があります。
- 高いイオン伝導率
- 無視できる電子伝導率
- 広い動作電圧範囲
- 電極との良好な化学的適合性
これらを備えた全固体電池の開発のために、日々研究開発が行われています。
全固体電池の課題
全固体電池の実用性には4つの大きな課題があります。
- 固体電解質の物性値(強度・導電性)
- 界面特性評価技術
- 設計と大規模製造
- 持続可能な開発
上記に加えて、全固体電池の商業化を確実にするためには、以下が更に重要です。
5. 低コスト化の技術と、より精巧な経済性の精査
研究機関や企業は、これら課題に対する対応を日夜行っているというわけです。
電解質が液体であれ固体であれ、 正極材や負極材、電解質が形成する界面がリチウムイオン電池の充放電の性能を左右します。液体の電解質であれば正負極材の間に浸透して安定した界面が形成されやすい一方で、材料が全て固体だと均一な界面を維持することが難しく、界面の設計にも技術開発が必要になります。
開発競争の経緯
全固体電池の開発には、様々な国や地域の研究機関や企業が次々と参入しています。
2011年、フランスのボロレは、エネルギー密度が約100Wh/kgの電気自動車用の最初の商用全固体電池を発表しました。5年後、別の固体電解質リチウム金属電池が、アメリカSolid Energy Companyの全固体電池は300Wh/kgに達しています。
全固体電池課題への対応策
全固体電池の課題への対応策として、以下のものが検討されています。
ポリマー架橋

固体電解質の性能を改善する方法として、ポリマーの架橋及びブレンドが多く採用されています。
ポリマーは上の図の長細い線です。
ポリマーを反応させて3Dネットワーク構造(うねうねしている構造)のポリマーに変化させるプロセスを架橋と呼びます。
ポリマー架橋は、以下のようなメリットがあります。
・室温でのイオン伝導性を高める
・機械的特性の劣化を抑制する
微粒子やナノワイヤーの添加
微粒子の添加剤(フィラー)を、全固体電池に添加して、強度を向上させます。
添加する微粒子として窒化アルミ、アルミナ、ジルコニアなど、一般的によく使われる金属酸化物をポリマーを全固体電池に充填します。添加する微粒子のサイズや比率を調整することで、機械的強度を向上させます。
一方で、粒子の分散が不均一であると、粒子が凝集し、イオン伝導性が低下し電池性能が悪化します。また、粒子の添加では強度を向上させる能力が大きくないため、ナノワイヤー形状の添加剤も考案されています。

Engineering a “nanonet”-reinforced polymer electrolyte for long-life Li–O2 batteries
J. Mater. Chem. A, 7 (43) (2019), pp. 24947-24952
ナノワイヤは、優れた機械的柔軟性と強度を備えています。柔軟であることは、ウェアラブル端末などに使われるバッテリーにとって重要な要素です。
ナノワイヤは、
・体積膨張を制限できる
・機械的劣化を抑制できる
・サイクル寿命を延ばす
このナノワイヤーを三次元に拡張した添加剤も考案されています。

Cross-linked beta alumina nanowires with compact gel polymer electrolyte coating for ultra-stable sodium metal battery
Nat. Commun., 10 (1) (2019), p. 4244
超薄型2Dナノ材料は、厚さが5 nm未満であり、2Dナノ材料のグラフェンおよびグラフェン類似体が広く研究され、適用されています。この種の2Dナノシートは、強力な面内共有結合と薄い原子層の厚さを備えており、優れた機械的強度と柔軟性に貢献します。
走査型電子顕微鏡で観察されるデンドライトの成長は観察されません。
さらに、大きな比表面積が与えられます。
巨大な表面積のための2Dナノ材料は、支持能力をもたらすことが知られています。
ただし、ランダムに配置された2Dナノ材料には、表面の利用が最大化されるかどうかを決定する重複するスタッキング領域があります。その結果、方向性のある整列によって構築されたナノメートルの骨格が現れ、より優れた機械的特性を示します。2Dナノシートの規則正しい配置は、さまざまな方法で誘導でき、真空ろ過が最も簡単で最も低コストの方法です。
将来的には、フィラーとしての固体電解質への2D材料の適用には多くの可能性があり、さらなる調査と研究に値します。
活性フィラー添加剤

これまで議論した添加剤は、電池の機械強度を向上させる目的で添加していました。
活性フィラーは、更にイオン伝導性と熱安定性を向上させるために、イオン伝導性の高い固体電解質粒子をポリマーに添加した電解質です。
活性フィラーの添加により、リチウムイオンの移動と伝導が実現し、複合材料のイオン伝導性が大幅に向上します。イオン伝導度に大きな影響を及ぼします。
デンドライトの成長を阻害するために使用されることもあります(デンドライトをブロックするための剛性部分としての機能を持つ)。
活性フィラーの割合が増加するにつれて、「ポリマー中のセラミック」から「セラミック中のポリマー」に移行します。
リチウムイオンは、活性フィラーと高分子電解質の間の界面を急速に伝導する可能性があります。このため、イオン伝導度は充填率の増加とともに増加します。しかし、特定の充填率では、高濃度フィラーの凝集によりポリマーとセラミックフィラー間の界面が減少するため、イオン伝導度が低下し始めます。要するに、活性フィラーを入れるほど性能が向上するわけではなく、最適な添加量の研究が必要ということです。
活性フィラーは、粒子・ワイヤー・3Dが考案されており、現在、3D無機フィラーは、アスペクト比が大きく、他のフィラーよりも優れた移行ルートがあるため、最も注目されています。
界面抵抗への対策
電解質が液体から固体に変化すると、電解質と電極の界面は固体と固体の界面となります。電解質と電極間の固固界面には多くの課題があります。
接触を実現する事が困難
第一に、液体電解質とは対照的に、固-固界面間に濡れ性がないため、完全な接触を実現することが困難です。電解質/電極の間の小さな有効界面積は、より高い接触抵抗となります。
電解質と電極が化学反応する
次に、サイクリング中に電解質/電極界面で発生する化学反応を考慮する必要があります。化学反応は主に酸化還元電解質分解反応と電解質/電極間の化学反応に分けられます。これらの2つの反応は、独立してまたは同時に発生する可能性があり、LIBの電気化学的性能を決定します。
理想的な界面層は、イオン伝導体であり、かつ電子絶縁体でなければなりません。

界面層がイオンと電子の混合導体であるか、不安定な状態にある場合、界面反応は常に起こり、生成された反応物は界面層に堆積します。界面層の厚さが増すと、電気化学的性能が大幅に低下します。インターフェースの問題を解決する方法は、固体電解質の組成を調整することであり、もう1つは全固体電池構造全体を設計することです。
電解質のゲル化による接触抵抗の低減
無機セラミック電解質を用いた全固体電池は、Liと固体電解質のインタフェースとの間に課題が多いです。副反応により接触を失う、電気化学的に不安定などです。セラミックは割れやすく、界面性能をさらに低下させます。更に言うと、充電中にリチウム金属電極の体積は膨張するため、電解質が粉砕することすらあります。

Enhancing interfacial contact in all solid state batteries with a cathode-supported solid electrolyte membrane framework
Energy Environ. Sci., 12 (3) (2019), pp. 938-944
半固体電解質=ゲル電解質は、セラミック電解質に液体溶媒を添加し構造信頼性と界面抵抗の問題を解決します。このような構造はポリマー複合材と呼ばれ、柔軟性が高いという利点があります。
ポリマーは、複合電解質を形成するセラミック電解質と配合されると、より良好な界面での接触が得られ、界面抵抗の問題を緩和することができます。さらに、無機セラミックと柔らかいポリマーで構成される複合電解質は、優れた界面接触を提供し、高い圧縮を達成することができます。複合電解質の組成を合理的に制御することで、界面インピーダンスを低減し、界面反応を防ぐこともできます。
この考え方を応用したNIOの全固体電池は、2022年Q4に車載すると発表しており、そのエネルギー密度は360wh/kgに達するとされています。
製造課題も山積している
界面の問題を解決できる、さまざまな電池構造を紹介しました。固体電解質と電極間の理想的な界面を設計することは、電池性能の向上において重要です。
これまでのところ、「多層電解質の設計」は界面設計のなかでも最もメジャーな手法です。
薄膜法の製造が徐々に成熟してきたおかげで、LIB(液体電解質)と比較して、全固体電池は数年間で3倍のエネルギー密度をもたらすまでに成長しました。
一方で、複雑な製造プロセスは全固体電池の大規模製造に程遠いのが現状です。
製造プロセスの課題解決に向けて、特に産業界(製造業)が設備改良を進めている状況です。
今後の研究動向
全固体電池が実用化を達成するために、今後の研究課題は以下のようなものが考えられます。
リチウムイオン輸送のメカニズムと界面間の反応
より高いエネルギー密度と安全性を備えたリチウムイオン電池の設計をするために、イオン輸送の観察と界面反応の研究が必須です。
より高度な評価、観察技術とシミュレーションを開発する必要があります。
放射光ベースのX線技術(XAS、STXM、X線コンピューター断層撮影)、HRTEM 、ラザフォード後方散乱分光法などのイオン輸送メカニズムと電解質/電極界面特性の研究の進歩が必要ということです。
製造技術の開発と、汎用性の拡充
全固体電池の実用化を実現するためには、電池構造の設計と運用を最適化し、3Dプリンティング技術などの高度な電池準備技術を開発する必要があります。
携帯型電子機器、医療機器、玩具、電気自動車、その他の分野で広く使用できるように、変形可能な全固体電池も開発する必要があります。
以上が、全固体電池の最近の研究動向のまとめです。
参考になれば幸いです。
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