Blue Solutionsの全固体電池は何が凄いのか

全固体電池

Blue Solutionsは、フランスのボレログループの子会社であり、「全固体電池製造の最古参」とも言われています。近年では鴻海がBlue Solutionsとの協業を発表、全固体電池を2026-28年に、電動バイク向けに製造するとしています。

Blue Solutionsの開発する「LMP」という全固体電池技術の何が凄いのか、解説します。

Blue Solutionsとは

Blue Solutionsは、フランスの大手交通・物流システム会社であるボレログループの子会社です。2002年から全固体電池の研究開発を行っており、2011年からはBlue Solutionsという社名に変更、「LMP(Lithium Metal Polymer)」という固体電池を年間1.5GWh生産、グローバルの電池大手と比較すると決して大きい規模ではありません。

Blue Solutionsの固体電池「LMP」は、世界15カ国で導入されています。LMPバッテリーを搭載した電気自動車や電気バスは、すでに3億キロ以上、世界7周以上を走行しているそうです。

Blue Solutionsはフランスとカナダの両方で、固体電池、モジュール、パックを生産する生産ラインを運営しています。

LMPセルの何が凄いのか?

リチウムメタルポリマーを略してLMPと呼んでいる(Blue Solutions社Youtubeより)

LMP電池セルの最も大きな特徴は、固体のポリマー電解質で構成されていることです。液体電解質を使わないため、安全性が高いのが特徴です。

負極に金属リチウム

正極に安価なLFP、負極に金属リチウムを用いており、電池セルはパウチ型を採用している

通常、電池の負極には黒鉛(グラファイト)が使われますが、LMPセルでは負極に金属リチウムを用いています。金属リチウムを用いることで、負極のリチウム容量が向上し、電池の容量が向上することが期待できます。

一方で、リチウム金属負極を用いると、充放電の際にリチウムが膨張し、セルを壊してしまうという問題があります。

LMPのセルは、パウチセルをモジュール化して搭載することで、金属リチウム特有の膨張収縮問題を回避している

LMPセルは、金属リチウムの膨張や収縮に対して柔軟に対応することができるよう、パウチ型と呼ばれる形状で作られています。(電池セル形状ごとの特徴は以下の記事で解説しています)

競合にあたるファクトリアルエナジーも、リチウム金属負極を用いた全固体電池を開発中しています。2026年に実用化すると宣言していますが、本当に実現するかは定かではありません。同じく競合であるエンパワー社は、リチウム金属電池をパウチではなく円筒型で開発、パイロットテスト段階にあります。

コバルトやニッケルを利用しない

また、LMPセルは環境負荷が低い事も知られています。コバルトやニッケルなどの貴金属や希少な鉱物も使わずに製造されており、素材の調達のリスクも小さいと言えます。

特にコバルトは、採掘の労働環境が過酷であり、子供たちも採掘に関与しているという情報もあり問題となっています。子供たちが採掘現場で働くことは、国際的に「最悪の形態の児童労働」ともされており、コバルトを利用しない電池の開発も議論されるほどです。

NMC正極の素材割合は、2030年にかけてニッケル量が増加するとされている

ニッケルについても、今後数年の間需、要が伸び続けるとされています。その主な要因は、現在主流の液系リチウムイオン電池の「ハイニッケル化」という手法が、近年のトレンド(最も手っ取り早い方法)であるためです。ハイニッケル化は、正極「NMC」のニッケル成分比率を上げることで性能を向上させる手法で、特に高性能電池では電池セル1つあたりに利用されるニッケル量が増える傾向にあります。

ニッケルやコバルトといった貴金属を利用しない電池は、他社大手電池メーカーとの素材調達競争に関わる必要がなく、安定供給面で高い価値があります。

エネルギー密度は低い

ただし、実際にはLMPセルはEV(電気自動車)業界で広く使われているわけではありません。液系リチウムイオン電池と電池と比較してエネルギー密度が低く、使い勝手があまり良くないからです。

LMPセルのエネルギー密度と課題

LMP電池は液系リチウムイオン電池パックと比較して体積エネルギー密度で劣る

LMPセルは、親会社のボレログループのカーシェアリングサービス向けの電気自動車や電動バスなどに使われていますが、電気自動車への応用にはまだ問題があります。

LMPセルの電池パックは、他の電池と比べて体積エネルギー密度が非常に低い状況にあります。2015年時点でパックのエネルギー密度は100Wh/Lとされており、2022年時点でもテスラの電池パックの体積エネルギー密度には達していません。

また、急速充電にも向いておらず、充電には5時間以上かかる、常温ではLiイオン伝導率が低いドライポリマーの固体電解質を用いるため、高い充放電性能を実現するには温度を80度に上げる必要がある、など課題は山積しています。

2023年に発表されたCATLのCondensed batteryは既に500Wh/kgを実現したとしている。2028年時点で300Wh/kgのエネルギー密度は、他全固体電池との比較の面でも決して優位とも言えない

2026~2028年ごろには、Blue Solutionsは鴻海と共同で第4世代のLMPセル(GEN4)の量産を始める計画があります。GEN4セルは、重量エネルギー密度が300Wh/kgを大きく超え、急速充電も可能になるとされています。

他社と比較すると、まだ見劣りする部分が多いです。2023年にCATLが発表したCondensed batteryは既に500Wh/kgのエネルギー密度を実現しており、2028年時点での300Wh/kgは、他の全固体電池と比べて優れているとは言えません。

筆者の視点

Blue Solutionsは「全固体電池の最古参」と報道されていますが、実態はあくまでポリマー電解質を用いた電池であり、近年注目されている硫化物型の固体電解質を用いた高性能リチウムイオン全固体電池とは異なります。

ポリマー電解質を用いた電池のエネルギー密度は非常に低く、2026-28年とされる「Gen4」電池でも、電池大手が開発する液系電池と並ぶ程度のエネルギー密度しか期待できないと考えられます。

全固体電池の本命はアジア(とくに日中韓)の電池大手および自動車メーカーが2028年頃に投入する、硫化物型の固体電解質を用いた全固体電池と考えます

その他にも液系電池の進化や、LFP,LMFPなど廉価版電池の登場、リチウム空気電池などの次世代電池の登場など、2030年にかけて目が離せない状況で、Blue Solutionsはその他大勢の中の1社という印象です。

鴻海がBlue Solutionsと協業

台湾の企業である鴻海科技集団(Foxconn)と電池材料メーカーの台湾ソリッドエッジ(SolidEdge Solution)、Blue Solutions(ブルー・ソリューションズ)は協業を発表しました。電動バイク向けの全固体電池システムとそのサプライチェーンを一緒に作り上げることが目標です。SolidEdge Solutionは2021年に設立された鴻海の子会社です。

協業により開発する電池の具体的な量産開始の時期はまだ公表されていませんが、2026-28年頃とされています。

このプロジェクトでは、Blue SolutionsのLMP電池のGEN4技術を活用するとされています。このシステムをインドネシア市場の電動バイク向けに展開する予定で、2030年までに1300万台の電動バイクが出回る市場を作り上げるとしています。

まとめ

Blue SolutionsのLMPセルは、固体ポリマー電解質と金属リチウム負極を使用し、液体電解質を必要としない高い安全性を持ち、世界中で広く導入されています。一方でエネルギー密度が低く、課題は山積しています。

今後、LMP電池セルの「GEN4」技術の導入により、エネルギー密度の向上と急速充電の可能性が期待されています。鴻海との協業により、電動バイク向けの全固体電池システムの開発も進めるとされており、今後躍進の可能性も見いだせます。他の電池大手と比べると規模は大きくありませんが、今後も技術革新に注目していきたい企業です。

関連記事

コメント

タイトルとURLをコピーしました