ホンダの全固体電池の実力は?開発状況と特許出願推移

全固体電池

自動車業界では、電気自動車へのシフトが進む中、より効率的で安全性の高い電池技術の開発がますます重要になってきています。

そんな中、近年注目されている技術のひとつが全固体電池です。

世界有数の自動車メーカーであるホンダは、全固体電池の開発に積極的に取り組んでおり、この技術に関する特許を数多く出願しています。

この記事では、ホンダの全固体電池について、その実力と開発の現状を詳しく紹介します。また、Hondaの全固体電池に関する特許出願の動向から、この分野におけるHondaの研究開発の取り組みについて考察します。

全固体電池とは

https://global.honda/innovation/advanced-technology/all-solid-state-battery.htmlより引用

全固体電池とは、電荷を運ぶ小さな粒子であるイオンを、固体材料で輸送する電池です。

従来の電池では、液体やゲルなどを使ってイオンを輸送していましたが、全固体電池では、固体の素材を使います。そのため、液漏れや発火の危険性がある従来の電池よりも、安全で安定した電池を実現できます。

固体電池は、従来の電池よりも多くのエネルギーを蓄えることができるため、充電が必要になるまでの時間が長くなる可能性があります。また、充電速度も速くなるため、急速充電を希望する電気自動車ユーザーにとっては朗報です。

全固体電池に移行する主なメリット
・充電の高速化
・安全性の向上
・長寿命
・リサイクル性の改善

ホンダは全固体電池の開発にも取り組んでいます。

ホンダの全固体電池投入の目途

固体電池のプロトタイプ(本田自動車の公式Youtubeより)

ホンダは、開発中の全固体電池について実証ラインの建設を決定。2024年春に立上げ予定です。

国内3社の全固体電池導入の見込み
  • 2024
    ホンダ、全固体電池の実証ラインの建設を予定
  • 2024
    日産、パイロットラインを横浜工場に設置
  • 2026
    ホンダ、EVプラットフォームを導入
  • 2026-28
    トヨタ、全固体電池を投入
  • 2026-28
    ホンダ、全固体電池投入
  • 2028
    日産、全固体電池投入

24年春の立ち上げに向けて約430億円を投資し、2020年代後半に投入されるモデルへの採用を目指しています。

日産自動車が2028年まで、トヨタが2020年代後半の投入を目指すと明言するなか、ホンダもこれらと同じタイミングを狙っているものと考えられます。

全固体電池のプロトタイプ

全固体電池のプロトタイプ試作ライン(本田自動車の公式Youtubeより)

2020年、ホンダは全固体電池のプロトタイプを開発中であることを発表しました。

さらに、ホンダはEV用の全固体電池を開発するSolid Powerというスタートアップに出資しています。全固体電池スタートアップの中で、QuantumScapeに次いで有名なのがSolidPower社です。

Ford、Samsung、Hyundaiが出資、BMWと提携しています。

全固体電池の性能は?

ホンダからの公式発表では、全固体電池のセル性能については一切触れられていません。

ホンダの全固体電池の性能を調べるため、NEDOプロジェクト、先進・革新蓄電池材料評価技術開発の資料を参照します(本プロジェクトにはホンダも参画)。

NEDOプロでは、2025年普及モデルの全固体LIBの実証目標を600Wh/Lに置いており、2020年代後半にホンダが実用化する全固体電池も、このレベルの電池容量を目指すものと想定されます。

NEDO 先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)2022 年度実施方針より

同じくNEDO資料によれば、2025年普及モデルにおいて硫化物系の電解質を用いた全固体電池が主流とされています。

注目すべき数値は以下の通りです。

・2025年普及モデル(第一世代)が2025-2030年に実用化
・電池パック容量コスト 1.5万円/kW
・重量エネルギー密度 300Wh/kg
・急速充電10-20分

体積エネルギー密度は電池パックの容量コストは1.5万円/kWh。液系LIBと比べるとまだ割高な印象です。

重量エネルギー密度の目標300Wh/kgは現実的な目線と言えます。中国のNIOは既に全固体電池の実証機で300Wh/kgを達成しており、先行する自動車大手は更に高い性能を出している可能性もあります。

投入はEVプラットフォームと同時期か

ホンダのEV向けプラットフォーム(ホンダ公式HPより)

ホンダのEVプラットフォーム「ホンダeアーキテクチャ」は、2026年の導入を予定しており、全固体電池はそのプラットフォームに搭載するために開発される見込みです。

ホンダeアーキテクチャは、コンパクトカーや大型車など、複数のモデルをサポートするために設計された先進のEVプラットフォームです。GMと提携して開発されており、性能と効率の向上も期待されています。

ホンダの全固体電池の競争力は?

Comparison of Patent Applications for Solid State Batteries – Honda
J-PlatPatで固体電池の分類コードH01M10(二次電池:その製造)の推移をカウント

ホンダの固体電池の特許数推移を調査しました。国内特許数に限りますが、2018年以降、固体電池の特許を多く出願しており、実用化に向けて研究開発が進められていることが読み取れます。

Comparison of Patent Applications for Solid State Batteries

日本の大手自動車三社での比較です。

このグラフから考察できることは、以下の通りです。

・固体電池の特許は、トヨタ自動車の出願数が圧倒的
・トヨタがこの分野の研究開発に多額の投資をしていることを示唆
・競合他社よりも固体電池の市場投入に近づいている可能性

固体電池はまだ開発の初期段階にあり、電気自動車に使用するために大量生産する前に克服する必要があるいくつかの技術的課題があります。しかし、トヨタが提出した固体電池に関する特許の数は、同社がこの技術の進歩に大きく貢献していることを示唆しています。

特許内容

特開2022-180935より

この特許は、バイポーラ電極板を設計に取り入れることで、固体電池を改善することに焦点を当てています。この特許で主張されている効果は以下の通りです。

バイポーラ構造の採用により
・より良い性能と安全性を実現する
・占有されるスペースを減らし、電気抵抗を低下させる
・効率的で費用対効果の高い製造プロセスを提供する

トヨタがニッケル水素電池で実用化したバイポーラ型の電極を、全固体電池で実装しようという特許です。

バイポーラ電池がすべての固体電池で実用化されようとしていることを明言しているわけではありませんが、この発明が固体電池の性能、安全性、製造効率の向上につながることを示唆するもので、この進歩は、将来的にバイポーラ型固体電池の実用化に貢献する可能性があります。

まとめ

ホンダの全固体電池開発について紹介しました。

トヨタには遅れているものの、2020年代後半に車載として投入することを明言しており、期待が高まります。

全固体電池はEVの市場勢力図を一変させる可能性のある技術です。日本の技術力のプレゼンスが保たれているうちに、ゲームチェンジを実現したいところです。

全固体電池
この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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