リチウムイオン電池の電解液を固体としたものが、全固体電池です。新聞やニュースでも全固体電池が大きく取り上げられるようになっていますが、全固体電池開発がこの数か月で大きく進歩したわけではありません。
この記事では、なぜ全固体電池開発がここ数か月で大きく注目されるようになっているのかを解説・考察します。
ここ最近、全固体電池開発が注目される理由
ここ最近、全固体電池開発が注目されているのは、トヨタ自動車が全固体電池を含む電動化戦略を発表したことに端を発しています。電動化戦略の発表は、トヨタのEVなどの技術的な詳細を「トヨタテクニカルワークショップ」と題して報道陣に一気に公開したイベントを指します。
このトヨタテクニカルワークショップは、株主総会を直前に控え、新しい経営体制への評判をあげることを目的として開催されたと考えられており、トヨタの技術的な手の内の9割を明かしたとされています。
ここで全固体電池の実用化目途が2027-28年であると明らかにされ「トヨタのEVに対する本気度」がより伝わったことから、全固体電池開発にも注目が集まっているものと考えられます。
トヨタは株価への好影響を期待している
トヨタ自動車は、全固体電池開発の話題を株価対策として利用しているように見受けられます。
トヨタの株価は2023年6月上旬に「トヨタテクニカルワークショップ」で全固体電池の実用化時期を27~28年と公表してから上昇基調です。2023年8月には、2549円と2022年1月に付けた上場来高値(2475円)を約1年7カ月ぶりに更新しました。
私が過去に、ある全固体電池開発企業の経営陣と話した際にも「全固体電池開発は株価に有効である」という趣旨の発言がありました。企業の将来性を”魅せる”ために活用している企業は少なくない印象です。
全固体電池はEVのゲームチェンジャーとなりうる技術
全固体電池は、よく知られているように、高いエネルギー密度と安全性を実現できるという点で、電気自動車に用いられるリチウムイオン電池の「ゲームチェンジャー」となりうる技術です。
通常の電池セルのエネルギー密度が、高いものでも250Wh/kgであるのに対して、全固体電池は400Wh/kgという高い値を実現できるとされています。
同じ重量でも多くのエネルギーを蓄えることができるため、電気自動車の商品性を向上させるために必須の技術として、各自動車メーカーがしのぎを削って開発しています。
実用化目途は?
トヨタが発表しているように、最も早くて2027-28年に車載として実用化されると考えられています。
トヨタは、全固体電池の開発状況について以下のように発表しています。
BEV用全固体電池
- 課題であった電池の耐久性を克服する技術的ブレイクスルーを発見したため、従来のHEVへの導入を見直し、期待の高まるBEV用電池として開発を加速
- 現在量産に向けた工法を開発中で、2027-2028年の実用化にチャレンジ
- ①のパフォーマンス版角形電池と比べても航続距離20%向上、コストは精査中も、急速充電は10分以下(SOC=10-80%)を目指す
- また、将来を見据えもう一段レベルアップした仕様も同時に研究開発中。こちらは①と比べて航続距離50%向上を目指す
東京大学の菅野先生は今回の発表について「安全性などがクリアできる見通しが立ったのだろう。何か優れた特徴があるから実用化するのだろうが、初期はずばぬけた性能にはならないのではないか」(日経新聞引用)と発言しており、トヨタが2027-28年に実用化するのはほぼ間違いないようです。
ただ、従来の液系のリチウムイオン電池も、実用化して約30年という時間をかけて車載で普及しました。全固体電池の実用化後も改良・改善が続けられ、本格的に車載として活用されるのは2030年代後半となると考えられます。
実用化初期は、高性能な液系のリチウムイオン電池と並び搭載され、徐々に固体に置き換わっていくものと考えられます。
開発の最前線では何が行われているのか?
全固体電池の開発においては、課題が山積しています。課題は、1つを解決すれば実用化につながるわけではなく、数多くの課題をすべて潰したうえで、車載用電池として利用できるようになると考えられます。
トヨタも「課題であった電池の耐久性を克服する技術的ブレイクスルーを発見」としていますが、この課題を克服するためのブレイクスルー技術は単一のものではないと想像できます。
全固体電池の開発における課題と対策を、レビュー論文からまとめたものを以下で紹介しています。
まとめ
全固体電池開発に注目が集まるのは、トヨタの戦略発表に端を発した「実用化への期待度が上がっている」ことが原因です。
一方で、実用化目途は2027-28年とまだ4-5年後であり、今後も液系・全固体電池ともに革新技術が開発・実用化することは間違いありません。要注目です。
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