トヨタのEV用次世代電池・全固体電池の方向性を考察する

車載電池

トヨタ自動車は、TOYOTA TECHNICAL WORKSHOP 2023にて、将来EVに搭載するバッテリー技術の一部を開示しました。

当日の発表では、トヨタの技術の90%を開示すると豪語していたようですが、技術の革新の部分には触れず、表面的な目標が開示されています。

この記事では、プレスリリース情報と、他社情報や技術トレンドも含めて、トヨタの電池戦略について考察・解説します。

3種類の液系電池

トヨタニュースリリースより

トヨタは、TOYOTA TECHNICAL WORKSHOP 2023にて、今後EVに搭載する3つの液系電池について発表しました。

これら3つの電池ははいずれも、電解液を用いたリチウムイオン電池となると考えられます。

電池構造の進化には、形状・構造・正極材料の変化が挙げられており、表にまとめると以下のようになります。

電池種類形状構造正極
現行bZ4X搭載電池角形モノポーラNCM系
次世代電池パフォーマンス版角形モノポーラNCM系
普及版新構造バイポーラLFP系
さらなる進化ハイパフォーマンス版新構造バイポーラNi系
トヨタ自動車発表内容をもとに当サイト作成
Toyota Europeは2028年までの車載電池技術をまとめて公表している(Toyota Europe Newsroomより)

新型電池を実現する技術は、以下の技術が活用されるものと考えられます。

  • バイポーラ構造
  • ブレードバッテリー
  • LPF

以下で、これらの技術を解説します。

バイポーラ構造

バイポーラ型を例えるならば、乾電池を切り開いて板状にして重ねたものに近いです。見て分かるように非常にコンパクトになります。

通常の電池構造と比較したバイポーラ電池のメリットは以下の通りです。

・セルを接続するコネクタが不要
・電極が1枚で済む

このバイポーラ型の特許は2021年6月末現在で、出願中も含めて約540件、うち豊田自動織機単独が約340件、トヨタ単独が約70件です。特許数を見ても、豊田自動織機が開発のメインを担っている事が分かります。

新構造はブレードバッテリーか?

トヨタはTOYOTA TECHNICAL WORKSHOP 2023において、新構造の具体的な技術名を挙げていませんが、ブレードバッテリーを指しているのではないかと想像します。

中国版テスラとも呼ばれるBYDの開発するブレードバッテリーを、トヨタも採用するとのうわさがあります。トヨタ、BYD、一汽トヨタが、BYD Toyota EV Technology (BTET) 合弁会社を通じて共同開発するbZ3において、ブレードバッテリーが採用されるとされています。

ブレードバッテリーの電池セルの形状はより平たく、細長くなっています。

この電池セルを隙間なく配置することで、電池パック内のスペースを効率的に利用することができます。

LFP電池

LFPと呼ばれるリン酸鉄リチウムイオン電池は、ニッケルやコバルトなどの高価な素材の代わりに、鉄とリン酸を使用した廉価版リチウムイオン電池です。

LFPは、テスラのmodel3の中国モデルに採用を予定しているほか、超低価格EVである宏光MINI EVにも採用されています。

希少で価格が変動しやすい原料(コバルトやニッケル)に依存していない、安価に製造できる、長寿命、毒性がないなどのメリットがある一方で、ニッケルを使う従来のリチウムイオン電池と比べてエネルギー密度が低い弱点があります。

「Ni系正極」はNMC正極とは別物か?

液系リチウムイオン電池の性能向上のために、もっとも手っ取り早い方法として用いられるのが、正極のハイニッケル化です。

2027-28年に実用化を目指す「ハイパフォーマンス版」とされる電池の「Ni系」とされる正極は、ニッケル含有率の高い電極材料を用いるものと考えられます。

従来のNMC正極は、マンガン・コバルト・ニッケルを用いたものです。エネルギー密度は150-220Wh/kgで、ニッケル比率を高めていくと、より高い240-270Wh/kgのエネルギー密度を実現できるとされています。

「Ni系」とされる電池は、NMC系の高Ni比率品であると想像します。EVの普及が加速するにしたがって、今後Ni需要が高くなることは間違いありません。

2026年のパフォーマンス版電池はレクサスから採用

2026年に発売されるレクサスのEV「LF-ZC」のコンセプトモデル。パフォーマンス版のバッテリーが搭載される。

貴金属であるニッケルの量を増やすとコストが高くなるため、パフォーマンス版電池の開発は高いコストとの戦いになりそうです。

2023年秋のジャパンモビリティショーでは、レクサスブランドから「LF-ZC」が発表され、この車両が2026年に発売されるとのことです。トヨタによると、この車両にはパフォーマンス版電池(2026)が用いられるとのことです。まずは、コスト制約の小さいレクサスブランドの高級車から、高性能電池が投入されるようです。

発売時期とコスト

普及版次世代電池(トヨタイムズYoutubeより)

トヨタは、ラインオフ(一般に言う量産開始時期)と、EVにしたときの航続距離、コスト、急速充電での充電時間を示しています。

電池種類ラインオフEV距離コスト急速充電
現行bZ4X搭載電池2022615km-30min
次世代電池パフォーマンス版20261230km20%減-20min
普及版2026-27738km40%減-30min
さらなる進化ハイパフォーマンス版2027-281353km28%減-20min
トヨタ自動車発表内容をもとに当サイト作成

特に注目されているのはEV換算の航続距離です。

EVとした場合の航続距離は、電池の性能向上だけでなく、車両全体(空力なども含めた改善)で達成するとしており、単純に電池のエネルギー密度がその分増加するとは言えないようです。

全固体電池

トヨタの全固体電池スタックプロトタイプ(トヨタ自動車プレスリリースより)

同時に、全固体電池についても触れられました。主な発表内容は以下の通りです。

  • 耐久性を向上させる技術を開発
  • ハイブリッド用開発は中止
  • EV用電池として開発する
  • 27-28年の実用化を目標
  • 航続距離換算で1476km以上
  • 急速充電10分以下(80%充電)
  • 将来電池も開発中(航続距離換算1845km)

これらの情報を、さきほどの液系電池と比較すると以下のようになります。

電池種類ラインオフEV距離コスト急速充電
現行bZ4X搭載電池2022615km-30min
次世代電池パフォーマンス版20261230km20%減-20min
普及版2026-27738km40%減-30min
さらなる進化ハイパフォーマンス版2027-281353km28%減-20min
全固体電池2027-281476-
1845km
発表無し-10%
トヨタ自動車発表内容をもとに当サイト作成

この情報のうち、特に注目すべきは以下の点です。

開発の方針転換

トヨタ自動車公式HPより

これまでトヨタは、ハイブリッド用の電池として全固体電池を開発するとしていました。時期については、2020年代後半に実用化するとしていました。ハイブリッド電池として、小さめの容量で全固体電池を世に出し評価することを狙っていたのです。

一方、2023年のこのタイミングで方向転換が入り、ハイブリッドではなく、EV用電池として27-28年に実用化を目指すとしています。

トヨタの全固体電池試作品(トヨタイムズYoutubeより)

開発が難航しているのか、現時点で市場に出すメリットが薄いのかは分かりませんが、トヨタは全固体電池を、EV用として市場に出すことを選択したようです。

固体電解質は出光と共同開発

トヨタは、全固体電池の中心となる電解質について、出光と共同開発を行っています。

出光の硫化物型の固体電解質材料は、耐水性、イオン伝導性、柔軟性を実現する特長を持っている「やわらかい」とされる電解質で、膨張収縮による界面割れの問題を解決したとされています。

今後、量産に向けてトヨタとの協力関係も強化され、両社が革新的な全固体電池の開発に取り組んでいくことが期待されます。

航続距離の考え方

全固体電池が実用化されると、EVの航続距離換算で1476kmや1845kmが可能とされています。

これまでのEVは、600kmを航続させるために約450kgの電池が必要で、車体の重量(2000kg)の1/4を電池が占めていました。

bZ4X
電池種類液系リチウムイオン電池全固体電池全固体電池
エネルギー密度150Wh/kg ※1300kW/kg ※2300kW/kg
電池重量476kg ※1476kg387kg
電池容量71.4kWh142.8kWh116kWh
航続距離615km1230km1000km
※1:推算値 ※2:NEDO 先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)2022 年度実施方針より推算

全固体電池が実用化されると、電池を積む量を減らすことができます。

bZ4xの電池パックのエネルギー密度を150Wh/kgとすると、476kgの電池を積めば航続距離は615km(トヨタ発表値)になります。

全固体電池が実用化され、高いエネルギー密度(300kW/kg)を実現できれば、同じ476kgの電池を搭載すれば、1230kmの航続が可能になります。

実際のEVに求められる航続距離は長くても1000kmと考えられ、全固体電池が車両に搭載される際には、電池の重量を減らし、車体を軽くしていくものと考えられます。全固体電池が実用化すれば、航続距離615kmを達成するために476kg必要だった電池は、1000km航続でも387kgでよく、全固体電池の実用化で約90kgの車両軽量化につながります。

トップランナーの影響

トヨタは全固体電池開発で最前線を走っていると考えられています。

先行するトヨタが全固体電池に関する手の内を少しだけ明らかにしたことで、他社もこれに続きプレスリリースを行う可能性があります。

日産・ホンダも2028年頃の全固体電池実用化を目指しており、日系大手三社の動向にも注目が必要です。

著者の所感

トヨタの電池戦略は、想像を超える新技術を開示したものではなく、正常進化の範囲を見せるにとどめたと読み取れます。

TOYOTA TECHNICAL WORKSHOP 2023にて述べられた「技術の9割をお見せする」という言葉の通り、本当に重要な10%は開示しておらず、競争力の源泉となる技術については、引き続き研究開発を進めているものと考えられます。

トヨタは、あくまでニッケル系のリチウムイオン電池を主眼に開発していくようです。中国のバッテリーメーカーがリチウム以外の電池(ナトリウムイオン電池など)にも目を向ける中で、トヨタの戦略は王道と言えます。

次世代電池の候補として考えられる電池は、以下の記事でも解説しています。

まとめ

トヨタの次世代電池に関する発表について解説しました。

全体的に隙のない戦略です。今後、電動化の流れのなかで車載電池の技術は非常に重要です。手の内でしっかりと電池を開発できるトヨタは、今後も強みを維持できると考えます。

一方で、中国企業の電池に関する躍進は素早く、開発速度を維持できなければ、価格競争力のない電池で戦うことになり、利益を圧迫しかねません。

現在の方向性を維持しながら、開発をより加速していくことが重要と考えます。

プレスリリース出典:

https://global.toyota/pages/news/images/2023/06/13/0500/electrified_technologies_batteries_jp_2.pdf

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この記事を書いた人

某自動車メーカー勤務、主に計算系の基礎研究と設計応用に従事してます。
自動車に関する技術や、シミュレーション、機械学習に興味のある方に役に立ちそうなことを書いてます。

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